表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
またどこかで3-家族-  作者: かさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

第六章 繋がり

「入っていい?」


翔太は少し心配そうに言った。


私は小さく頷く。


「うん」


翔太は靴を脱いで部屋に入る。


小さなワンルーム。


翔太は部屋を見回してから、ベッドの端に腰を下ろした。


「どうした?」


私はドアを閉める。


部屋の中は静かだった。


時計の音だけが聞こえる。


カチ。


カチ。


カチ。


私は机の椅子に座る。


スマホを握る。


言葉がなかなか出てこない。


翔太が言う。


「大学来てなかっただろ」


少し首をかしげる。


「なんかあった?」


私は少し迷った。


でも。


「……変なこと言うかもしれない」


翔太は笑った。


「いいよ」


「聞くから」


私はゆっくり話し始めた。


中庭のこと。


美咲と遥のこと。


写真のこと。


掲示板の都市伝説。


全部。


翔太は最後まで黙って聞いていた。


話し終わると、少し沈黙が続いた。


翔太は小さく息を吐く。


それから笑った。


「零」


私は顔を上げる。


翔太は肩をすくめた。


「そんなわけないだろ」


私は何も言えなかった。


翔太は続ける。


「俺、ちゃんと覚えてる」


少し笑う。


「零のこと」


「消えるとかさ」


首を振る。


「そんなのあるわけない」


私は少しだけ笑った。


胸の奥の不安が、ほんの少し軽くなる。


翔太は立ち上がる。


「てかさ」


部屋を見回す。


「今日ちゃんと飯食った?」


私は首を振る。


翔太は笑った。


「やっぱり」


「なんか作ろうぜ」


私はキッチンに向かう。


冷蔵庫を開ける。


簡単な材料しかない。


でも、それでいい。


フライパンに火をつける。


後ろから翔太の声がする。


「久しぶりだな」


私は振り返る。


「何が?」


翔太は少し笑う。


「こういうの」


「普通の時間」


私は少し笑った。


料理を作る。


二人で食べる。


サークルの話。


授業の話。


合宿の思い出。


美咲が酔って転んだ話。


遥が夜中に騒いだ話。


私たちは何度も笑った。


本当に普通の時間だった。


そのあと。


翔太が言う。


「映画でも見る?」


私は頷く。


「うん」


部屋の電気を少し暗くする。


テレビの光だけが部屋を照らす。


私たちは並んで座った。


映画の内容は、ほとんど覚えていない。


でも。


隣に翔太がいることだけは、はっきり覚えている。


映画が終わる頃。


私は少し眠くなっていた。


翔太が言う。


「零」


私は顔を上げる。


翔太は手を差し出していた。


「ほら」


私は首をかしげる。


「なに?」


翔太は笑う。


「手」


私は少し笑う。


「子供みたい」


翔太も笑う。


「いいじゃん」


私の手を握る。


「こうしてればさ」


少し照れくさそうに言う。


「離れないだろ」


その手は温かかった。


私はその手を握り返す。


そのまま。


私たちはベッドに横になった。


手を繋いだまま。


部屋は静かだった。


時計の音だけが聞こえる。


カチ。


カチ。


カチ。


私は目を閉じる。


胸の奥の不安は、まだ完全には消えていない。


でも。


翔太の手がある。


それだけで、少しだけ安心できた。


私はそのまま眠った。



朝。


目を覚ます。


カーテンの隙間から光が差し込んでいる。


隣には翔太がいる。


でも。


私の手は、もう握られていなかった。


翔太はベッドの端に座っていた。


そして。


ゆっくりこちらを見る。


その目には。


戸惑いが浮かんでいた。


翔太は部屋を見回す。


それから私を見る。


そして。


少し申し訳なさそうに言った。


「ごめん」


小さく笑う。


「……君、誰?」


その瞬間。


胸の奥の何かが、静かに崩れた。


私は何も言えなかった。


ただ。


スマホの黒い画面を見ていた。


そこには。


無数の影の中に。


三つ並んだ影が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ