第五章 都市伝説
次の日。
私は大学に行かなかった。
朝、目は覚めた。
でもベッドから起き上がれなかった。
天井を見つめたまま、ずっと同じことを考えていた。
昨日のこと。
中庭。
美咲と遥。
「誰?」
その言葉が頭から離れない。
私はスマホを手に取る。
サークルのグループチャットを開く。
メッセージがいくつも流れている。
でも。
私の名前はどこにもない。
私は画面をスクロールする。
昨日のログ。
一昨日のログ。
その前。
私は何度もスクロールした。
でも。
どこにも。
私のメッセージがない。
「……嘘」
小さく呟く。
私は検索機能を開く。
自分の名前を打つ。
零
検索結果。
0件
胸が冷たくなる。
私はスマホを置く。
部屋の中は静かだった。
時計の音だけが聞こえる。
カチ。
カチ。
カチ。
私はベッドから起き上がる。
机に座る。
そして、スマホをもう一度手に取る。
検索画面を開く。
昨日見たページ。
あの掲示板。
「人の記憶から消える存在」
私はそのページを開いた。
書き込みが並んでいる。
昨日よりも増えている気がした。
私は一つずつ読む。
⸻
「友達が消えた」
「写真からも消えてた」
「誰もその人を覚えてない」
⸻
私は画面をスクロールする。
その中に、長い書き込みがあった。
⸻
『それは昔からあるらしい』
『名前はない』
『ただの現象みたいなもの』
『その人のことを調べ始めると、自分も消える』
⸻
私は息を止めた。
その下に、さらに文章が続いている。
⸻
『最初に消えるのは記憶』
『次に写真』
『最後に記録』
⸻
私は昨日の写真を思い出した。
サークルの集合写真。
私の場所。
空白。
私はスマホを強く握る。
指が少し震えている。
画面をスクロールする。
その書き込みの最後に、こう書かれていた。
⸻
『消えた人は、最後に同じ場所へ行く』
⸻
私は画面を見つめる。
その下に、リンクが貼ってあった。
昨日見たものと同じ。
動画サイト。
タイトル。
「人生の走馬灯を見てみませんか?」
胸の奥がざわつく。
私はリンクを開いた。
黒い画面。
動画は再生されない。
ただ。
コメント欄が表示される。
そこには同じ言葉が並んでいた。
⸻
「見た」
「終わった」
「あそこにいる」
⸻
私はページを閉じる。
そして、掲示板に戻る。
さらにスクロールする。
その時。
一つの書き込みが目に入った。
⸻
『消える人は、最後に——』
⸻
その続きを読もうとした瞬間。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
私は体を強張らせる。
静かな部屋。
もう一度。
ピンポーン
私はゆっくり立ち上がる。
玄関に向かう。
ドアの前で止まる。
少しだけ息を整える。
そして。
ドアを開けた。
そこに立っていたのは——
翔太だった。
「零」
翔太は少し心配そうな顔をしていた。
「今日大学来なかったから」
少し笑う。
「大丈夫?」
私はしばらく何も言えなかった。
ただ。
胸の奥の恐怖が、ほんの少しだけ
和らいだ気がした。
まだ。
翔太は、私を覚えていた。




