プロローグ
私は、小さい頃から施設で育った。
物心ついたときには、もうそこにいた。
親の顔は知らない。
声も知らない。
名前も知らない。
施設の人に聞いたことがある。
「私の家族っているの?」
その時、先生は少し困った顔をして言った。
「分からないの」
それだけだった。
私はそれ以上聞かなかった。
でも。
小さい頃からずっと思っていることがある。
私は――
孤独が嫌いだ。
一人でいるのが怖い。
静かな部屋が嫌い。
だから大学に入ってから、必死だった。
友達を作った。
サークルに入った。
恋人もできた。
誰かと一緒にいれば安心できる。
そう思っていた。
でも。
昔から、変な夢を見る。
暗い場所に立っている夢だ。
空も、地面も分からない。
ただ、歪んだ空間が広がっている。
そして。
そこには、たくさんの人がいる。
最初は気づかなかった。
遠くに何かが並んでいるだけだと思っていた。
木みたいなものだと思った。
でも違う。
よく見ると、それは全部――
人の形だった。
無数の影。
何百、何千。
誰も動かない。
誰も喋らない。
ただ、立っている。
ずっと。
そこにいる。
夢の中の私は、その影の間を歩いている。
足音はしない。
影は、誰もこちらを見ない。
ただ、立っている。
まるで。
忘れられた人たちみたいに。
その時、いつも同じものを見る。
影の中に、三つだけ。
並んでいる影。
大人の影。
その隣に、もう一つ。
そして、その間に、小さな影。
三人。
まるで家族みたいに並んでいる。
私はその影を見ると、胸が苦しくなる。
理由は分からない。
でも。
どうしてか、泣きそうになる。
夢の最後。
その三つの影のうち、一つがゆっくり顔を上げる。
顔は見えない。
でも分かる。
その影は、私を見ている。
そして、口が動く。
声は聞こえない。
でも、その言葉だけは分かる。
「またどこかで」
その瞬間、夢は終わる。
目が覚める。
天井が見える。
朝の光。
私はしばらく動けない。
胸が少し痛い。
そして、毎回同じことを思う。
どうして私は――
あの三人を見て、こんなに悲しくなるんだろう。
私はまだ知らない。
あの三つの影が。
誰なのかを。




