第29話 結末
世界は、今日も回っていた。
派手な奇跡は起きない。
祈りが即座に形になることも、
以前ほど多くはない。
それでも――
朝は来る。
人は動く。
世界は続いている。
世界樹の根として、
俺はその流れを感じていた。
負荷はある。
問題も、消えてはいない。
だが、
壊れる前提の重さは、
もう背負っていない。
「……静かだな」
エル=リュカの気配が、
少し離れたところにある。
「ええ。
でも、不安定ではない」
「以前より、
手応えがある」
それは、
世界が“自分で回っている”
感覚だった。
奇跡が減った分、
備えが増えた。
即時の救済がないことを前提に、
人が考えるようになった。
失敗もある。
間に合わないこともある。
それでも、
世界は止まらない。
「……これで、よかったのか」
自問は、
もう責める響きを持っていなかった。
確認だ。
「正解じゃない」
エル=リュカが言う。
「でも、
続けられる」
その言葉で、
十分だった。
神からの干渉は、ない。
監視は続いている。
だが、
以前のような“当然”は消えた。
世界樹の根が止まること。
それを、
神も知ったからだ。
俺は、
世界を全部救わない。
だが、
壊れる前に止まる。
世界が無理をするなら、
世界に考えさせる。
俺が無理をするなら、
止まる。
それが、
今の運用だ。
「……長く、持ちそうだ」
「ええ」
エル=リュカは、
少しだけ笑う気配を見せた。
「完璧じゃない世界の方が、
案外、しぶといものよ」
世界樹の根として、
俺はそこにいる。
英雄でもない。
反逆者でもない。
ただの、
保守担当だ。
壊れる前提で回る世界を、
そうではない形に
置き直しただけ。
世界は今日も回る。
今度は――
誰かが壊れることを前提にせずに。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この物語は、
「世界を救う話」ではありません。
「誰かが壊れながら支え続ける世界は、本当に正しいのか」
という疑問から始まりました。
派手な勝利も、
明確な悪役も、
分かりやすいカタルシスもありません。
それでも、
壊れる前提で回っていたものを、
「続けられる形」に置き直すことはできる。
そう信じて、この結末に辿り着きました。
主人公は英雄になりません。
神に勝ったわけでもありません。
ただ、無理を前提にされる役割を拒否しただけです。
世界は少し不便になりました。
奇跡は減りました。
それでも、回っています。
もしこの物語が、
「なぜか自分ばかり頑張っている気がする」
「壊れないと評価されない立場にいる」
そんな感覚を持ったことのある方の心に、
少しでも残るものがあれば幸いです。
感想やご意見は、
どんな形でも嬉しく拝見します。
最後までお付き合いいただき、
本当にありがとうございました。




