第28話 対峙
呼び出しは、命令ではなかった。
それだけで、
状況の異常さは十分だった。
世界樹の幹。
神が直接触れる領域。
俺は、
初めてそこに“意識として”立っている。
姿はない。
形もない。
だが、
無視できない存在として。
〈説明せよ〉
声は、
一つではなかった。
複数。
重なり合い、
調和している。
「世界樹の挙動に、
想定外の停止があった」
〈原因を述べよ〉
俺は、
準備していた言葉を探さない。
ただ、
事実だけを並べる。
「仕様通りです」
一瞬、
空気が止まる。
〈……仕様?〉
「初期設計に存在していた
負荷上限を、有効化しました」
「超過時、
根は停止する」
〈なぜ、そのような操作を〉
問いは、
責めではない。
困惑に近い。
「壊れる前提の運用を、
やめただけです」
沈黙。
世界樹の幹が、
わずかに揺れる。
〈世界は、
完全ではなくなった〉
「ええ」
否定しない。
〈奇跡は遅れ、
救済は間に合わないこともある〉
「あります」
〈それでも、
その選択をしたのか〉
ここが、
核心だ。
俺は、
一呼吸置く。
「はい」
「今までの運用は、
根が壊れることを
前提にしていました」
「それは、
長期的に世界を壊します」
〈……世界は、
壊れていない〉
「壊れていません」
「ですが、
壊れる前提で回っています」
言葉を、
静かに重ねる。
「それを、
止めました」
神は、
すぐに否定しなかった。
それが、
何よりの証拠だった。
〈排除はできない〉
〈戻すことも、容易ではない〉
内輪の思考が、
漏れ聞こえる。
〈世界は、
まだ回っている〉
「はい」
〈……不便だ〉
その言葉に、
少しだけ、
胸の奥が緩む。
それは、
理解の第一歩だ。
「不便です」
「でも、
続けられます」
沈黙が、
長く続く。
神々は、
決断を迫られている。
世界を壊さず、
俺を壊さず、
元にも戻せない。
選択肢は、
もう限られている。
〈……監視を続ける〉
完全な承認ではない。
だが、
否定でもない。
〈これ以上の
独断は許されない〉
「承知しています」
嘘ではない。
独断は、
もう仕様に縛られている。
俺一人の判断では、
動かせない。
〈世界樹の根〉
最後に、
呼ばれる。
〈お前は、
世界を支える存在だ〉
俺は、
その言葉を、
否定しなかった。
ただ、
一つだけ付け加える。
「壊れる前提では、
ありません」
沈黙。
それが、
答えだった。
対峙は、
勝利でも敗北でもなく、
事実の確認で終わった。
世界は、
もう元には戻らない。
だが、
壊れてもいない。
俺は、
再び根の奥へ戻る。
次は、
結末だ。
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