第25話 共犯
世界樹の深層は、静かだった。
異常は起きていない。
緊急対応も必要ない。
それでも、
俺は落ち着かなかった。
「……そろそろ、だな」
根の奥で、
エル=リュカの気配を探る。
再接続してから、
彼女は多くを語らなかった。
干渉しない。
判断を奪わない。
ただ、
見ている。
それが、
今の彼女の立場だ。
「呼んだ?」
思考が、重なった。
「少し、話したい」
「……いいわ」
短い応答。
余計な感情はない。
だが、
同じ前提で話せる距離は、
確かにあった。
「最近の判断、どう思う?」
俺は、
率直に聞いた。
自分のやり方が、
正しいとは言い切れない。
世界に負担を返し、
奇跡を遅らせ、
不満も生んでいる。
それを、
一人で正当化し続けるのは、
もう限界だった。
「……妥当よ」
即答だった。
「完璧じゃない。
でも、続けられる」
少し間を置いて、
言葉が続く。
「今までのやり方は、
あなたが壊れるまで
続ける前提だった」
「……ああ」
「それをやめた。
それだけ」
責めも、慰めもない。
ただ、事実の整理。
「でも――」
俺が、言葉を継ぐ。
「このままじゃ、
いずれまた曖昧になる」
今は、
俺の裁量で調整している。
だがそれは、
属人的だ。
俺が迷えば、
世界も迷う。
「だから、
一つだけ決めたい」
エル=リュカが、
静かに待っている。
「逃げ道を、
なくす」
「……覚悟はある?」
試すような問い。
「ある、とは言えない」
正直に答える。
「でも、
曖昧なまま続けるよりは、
マシだ」
沈黙。
世界樹の深層で、
時間の感覚が、少し伸びる。
「……一つだけ、よね」
「ああ」
「全部は変えない。
元に戻せなくなるから」
「分かってる」
エル=リュカは、
短く息を吐く気配を見せた。
「なら、
それは“仕様”として
残るべきね」
「感情じゃなく」
「判断でもなく」
「……制限として、か」
「ええ」
その言葉で、
俺の中の迷いが、
一段階、整理された。
世界を守るために、
世界を甘やかさない。
俺を守るために、
俺の裁量を縛る。
「……共犯だな」
「今さらでしょ」
淡い、
笑う感覚。
「あなたが一人で
全部決めないように、
私は見てる」
「ありがとう」
短く言う。
それで、
十分だった。
決断は、
もう先延ばしにできない。
次に手を入れるのは、
世界の“運用”じゃない。
世界樹そのものの前提だ。
「……一つだけだ」
何度も、
自分に言い聞かせる。
一つだけ、
決定的な変更。
それで、
世界がどう回るのかを見る。
共犯関係は、
成立した。
もう、
後戻りはできない。
世界樹の根の奥で、
静かに、
スイッチの場所を確認する。
次は、
触る。
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