第24話 再接続
最初に気づいたのは、
“空き”だった。
世界樹の深層。
ログでも、構造でもない。
誰も触っていない領域。
「……ここ、だったな」
意識を向けた瞬間、
わずかな反応が返ってくる。
規則正しくもなく、
不規則でもない。
ただ、
停止しているようで、完全には止まっていない感覚。
「……エル=リュカ」
名を呼んだつもりはなかった。
だが、その響きに、
空間がほんのわずかに揺れた。
神の権限から外され、
公式ログから抹消された存在。
処罰でも、封印でもない。
“管理対象外”にされた結果、
放置された存在。
それが、
今の彼女だ。
「……聞こえるか」
返事は、ない。
当然だ。
ここは、
会話が成立する前提で
作られていない。
俺は、
第20話で見つけた未使用領域――
旧式のバックアップ層に、
処理を回した。
最新仕様では使われない、
古い接続規格。
神も、
自動整理も、
監視していない。
「……繋ぐぞ」
世界樹が、
ほんの一瞬、軋む。
大きな変化はない。
アラートも出ない。
ただ、
深層の“空き”が、
“存在”に戻る。
「……あ」
微かな声。
それは、
音ではなく、
思考に近い。
「……生きて、る?」
間違いない。
エル=リュカだ。
「生きてる。
ただ……長い間、
何もできなかっただけだ」
返答は、
少し遅れて届く。
「……そう。
あなたが、
まだ壊れてないなら……」
そこで、
言葉が途切れた。
感情の波が、
直接伝わってくる。
安心。
困惑。
そして、
かすかな後悔。
「……あなた、
まだ世界を支えてるの?」
「支えてる。
でも……前とは違う」
少しだけ、
間を置く。
「全部は、
引き受けてない」
その言葉に、
彼女の反応が変わった。
驚き。
理解。
そして――
納得。
「……やっと、
そこに辿り着いたのね」
責めるでも、
称えるでもない。
ただ、
事実を受け取る声だった。
「あなたが消えなかったの、
それが一番重要よ」
その一言で、
胸の奥の張りが、
少しだけ緩む。
救われた、
というほどじゃない。
でも――
肯定された。
初めて、
この立場を理解している存在に。
「……こっちは、
どうなってる?」
俺は、
彼女の状態を確認する。
存在は安定している。
だが、権限はない。
世界に干渉できない。
祝福も、介入も不可。
「管理対象外、か」
「そう。
処罰じゃない。
ただ……
使えなくなっただけ」
皮肉な話だ。
管理から外された結果、
彼女は神の監視外にいる。
「……自由だな」
「ええ。
何もできないけど、
何も縛られてもいない」
少しだけ、
笑う感覚が伝わる。
「で、
あなたは何をしようとしてるの?」
俺は、
正直に答える。
「世界樹の仕様を、
少しずつ変えてる」
「反逆?」
「いや。
保守」
その言葉に、
一瞬、沈黙。
そして――
深く、納得した気配。
「……あなたらしい」
評価でも、
同意でもない。
ただ、
理解。
「なら、
私ができることは一つね」
「何だ?」
「考えること。
そして、
見張ること」
神に見えない場所で。
記録に残らない形で。
「あなたが一人で
全部決めないように」
その言葉が、
静かに刺さる。
そうだ。
今の俺は、
判断を独占している。
それは、
別の歪みを生む。
「……頼む」
短く答える。
それで、
十分だった。
再接続は、
完全じゃない。
制限も多い。
危険もある。
だが――
俺はもう、一人じゃない。
世界樹の根の奥で、
新しい回路が、
静かに動き始めた。
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