第18話 誤差
結論は、早かった。
神々は、
長く分からないことを抱え続けるのを嫌う。
〈統計上、有意な異常は確認されていない〉
〈よって、現在の変動は“誤差”と判断する〉
会議の空気が、
一気に軽くなるのが分かった。
「……そっちに流したか」
俺は、根の奥で静かに受け止める。
誤差。
便利な言葉だ。
説明できないものを、
無視するための言葉。
〈世界は成熟している〉
〈奇跡の頻度が下がるのも、
自然な変化だろう〉
成熟。
それもまた、
都合のいい解釈だった。
〈世界樹は、
適切に機能している〉
〈問題はない〉
その一文で、
すべてが片づけられる。
問題がないなら、
対処もいらない。
対処がいらないなら、
誰も責任を取らなくていい。
「……いつも通りだな」
俺は、少しだけ息を吐いた。
疑われないのは、
今の俺にとっては好都合だ。
だが同時に、
この判断が
後で効いてくることも分かっている。
誤差として放置された歪みは、
必ず、どこかで形を変える。
小さな誤差が、
重なって、
ある日、誤差ではなくなる。
異常が起きる。
都市部ではない。
辺境でもない。
“境界”だ。
文明と自然の境目。
神の管理が曖昧な場所。
以前なら、
即座に補正をかけていた。
今は、
慎重に観測する。
「……持て」
世界に、
そう語りかける。
歪みは、
ぎりぎりのところで踏みとどまった。
完全ではない。
だが、崩壊もしない。
「……よし」
成功だ。
派手な奇跡は起きていない。
だが、
世界は自分の力で耐えた。
その事実が、
俺にとっては大きかった。
〈境界域、安定〉
〈原因不明だが、
結果として問題なし〉
また、“問題なし”。
神々は満足している。
世界が壊れていない。
それだけで、十分なのだ。
「……世界は、強くなる」
根の奥で、
静かに確信する。
無理な介入を減らせば、
世界は学習する。
耐える力を、
取り戻していく。
それは、
神々が想定していなかった成長だ。
〈引き続き、
現行運用を継続〉
決定事項が流れる。
現行運用。
――つまり、
俺の今のやり方が、
黙認されたということだ。
「……ありがたい」
皮肉でもあるし、
本音でもある。
今はまだ、
この静かな変化を続けられる。
だが。
誤差として処理された歪みは、
必ず、
誰かの前に現れる。
その時、
神々はどう判断するだろう。
俺は、
その“いつか”に備えて、
さらに深く、世界を見始めた。
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