第17話 原因不明
違和感は、数値として先に現れた。
〈奇跡発生率、微減〉
〈祝福成功率、平均値より低下〉
〈だが、世界安定度は維持〉
神々の会議記録が、
上層で交わされているのが伝わってくる。
「……来たな」
俺は、根の奥で静かにそれを聞いていた。
世界は壊れていない。
致命的な異常もない。
だから、
誰も“問題”とは断定できない。
〈奇跡が減った?〉
〈だが、死者は増えていない〉
〈災害も、統計上は減少傾向だ〉
皮肉な話だ。
派手な救済が減った代わりに、
そもそも“救済が必要な事態”が
起きにくくなっている。
だが、
それは神々の想定外だった。
〈世界樹の反応が、以前と違う〉
〈適応が遅れているように見える〉
「……遅れてる、か」
違う。
俺が、
全部を即座に処理しなくなっただけだ。
判断を挟み、
優先順位をつけ、
必要な場所だけに力を回している。
それだけで、
世界の挙動は変わる。
〈不具合か?〉
〈いや、世界は安定している〉
〈だが……“気持ち悪い”〉
その言葉が、
妙に印象に残った。
神々にとっての“気持ち悪い”は、
思い通りに動かないことを指す。
〈世界樹のログを再確認しよう〉
〈改ざんの痕跡は?〉
副神の名が、
遠くで呼ばれる。
〈記録は正常〉
〈想定範囲内の変動〉
〈異常値は検出されていない〉
俺は、
その“正常”の中にいる。
仕様通りに動いている。
世界を維持している。
ただ、
以前ほど無茶をしていないだけだ。
〈では、原因は何だ〉
〈世界樹か?〉
〈それとも、世界そのものの成熟か〉
結論は出ない。
当然だ。
誰も、
「根が無理をやめた」
という可能性を想定していない。
根は、
壊れる前提の存在だから。
「……疑われてないな」
それは、
安心でもあり、
同時に、恐ろしくもあった。
疑われないということは、
守られてもいないということだ。
何かが起きた時、
最初に切り捨てられるのは、
いつだって“前提”にされている存在だ。
異常が、ひとつ起きる。
遠隔地。
人の少ない場所。
以前なら、
反射的に処理していた。
今は――
観測だけに留める。
異常は、
小さく、静かに収束した。
自然に、ではない。
世界が“耐えた”のだ。
「……世界、強くなってるな」
その気づきが、
胸の奥に落ちる。
今までの世界は、
脆かった。
何かあれば、
即座に根が介入する。
その結果、
世界は“自分で耐える力”を
失っていたのかもしれない。
〈結論:原因不明〉
神々の会議は、
そう締めくくられた。
〈引き続き、経過観察〉
経過観察。
それは、
何もしない、という意味だ。
「……助かる」
今は、それでいい。
俺は、
もう一度、世界全体を見渡す。
歪みはある。
問題もある。
でも――
すぐに壊れる状態じゃない。
それを確認できたことで、
胸の奥に、
小さな確信が芽生えた。
「……このやり方で、合ってる」
世界は、
俺が全部を抱え込まなくても、
回れる。
まだ、完全じゃない。
でも、
“前よりマシな回り方”を
始めている。
原因不明のまま、
世界は今日も回る。
そして、
その原因が俺であることを、
知っているのは――
俺だけだ。
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