第13話 限界値
異常の兆候は、いつもより遅れて届いた。
それだけで、嫌な予感がした。
「……遅い」
根の奥を走る感覚が、
ほんのわずか、鈍っている。
以前なら、
歪みが生まれた瞬間に分かっていたはずだ。
今は――
生まれてから、しばらく経ってから気づく。
場所は、内陸の小さな町だった。
魔力の循環が滞り、
地盤と生活圏が、じわじわとズレている。
「……まずいな」
致命的ではない。
今すぐ崩壊するわけでもない。
だからこそ、判断が遅れた。
後でまとめて直せばいい。
今は、もっと大きな異常が――
そう思った瞬間、
歪みが、連鎖した。
小さなズレが、
別の層に波及する。
空間が、軋む。
魔力が、逃げ場を失う。
「……くそ」
慌てて根を伸ばす。
深く。
強く。
だが――
間に合わなかった。
町の地下で、
何かが“定着”する感覚があった。
崩壊ではない。
爆発でもない。
ただ、
歪みが、そのまま残った。
「……残った、のか」
今までなら、
完全に修復できていたはずだ。
今回は、
どうやっても、元に戻らない。
世界の表面には、ほとんど影響はない。
人が死んだわけでもない。
建物が崩れたわけでもない。
それでも――
世界に、傷が残った。
〈想定内の揺らぎ〉
〈局地的影響、軽微〉
上からの報告は、いつも通りだ。
「……軽微、ね」
胸の奥で、
静かに、何かが沈む。
この傷は、
後で必ず効いてくる。
小さな歪みは、
他の異常と共鳴しやすい。
連鎖の起点になる。
「……次は」
次は、
ここが起点になる。
俺は、初めてはっきりと理解した。
もう、全部は守れない。
判断が遅れたのは、
能力不足だけじゃない。
疲労。
麻痺。
そして――
“独り”であること。
誰にも相談できない。
確認できない。
迷っても、立ち止まれない。
「……限界、か」
その言葉が、
現実味を持って浮かぶ。
限界は、
倒れる瞬間じゃない。
守れなくなった瞬間だ。
異常は、まだ続く。
次も、来る。
でも、
今までと同じやり方では、
必ず、どこかが壊れる。
世界は、今日も回っている。
誰も、この傷に気づかない。
記録にも残らない。
ただ、
俺だけが知っている。
「……次は、選ぶしかない」
全部を守る。
そんな幻想は、
もう持てない。
俺は、根の奥で、
静かに覚悟を固め始めていた。
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