転生者は、二度拐われる
2万字を超えてしまったので、1つの話を区切ってあります
つたない文章ではありますがよろしければどうぞ
―――――――今から2年前
「…では、この鶏肉製品フェアで企画を進めてくれたまえ」
「はいっ!ありがとうございます!よろしくお願いいたします!」
深々と上司に頭を下げる。
…俺は、某有名冷凍食品の営業企画担当だった。
新卒から入って3年目。
初めて書いた企画が通った瞬間に震えていた。
実家が養鶏場であること、幼い頃から養鶏場のシステムを理解していること。
それらをフル活用して、様々な手腕で企画に漕ぎつけることに成功した。
…まあ、一部企画を通すために実家の名前が使われたのは仕方ないが。
このためにわざわざ食品衛生責任者も取ったし、衛生管理士も取得した。
「よしっ、あと少しだ!」
退勤して座席も疎らになったオフィスで、モニターに向かう。
鶏肉シュウマイに、鳥皮餃子、鶏肉まんなど様々なレシピと共に企画案を入力していく。
ふと、スマホの画面に珍しく実家から着信が入っている。
「もしもし、俺だよ!どうしたの?久しぶりじゃん」
スマホの向こうの母は、泣きながら淡々と告げた。
「……親父が、死んだ?」
俺が、家を継いで養鶏の道へ進む、わずか1週間前の出来事だった。
―――――――――――――――――――――
「ひとまず村を目指しましょう、ここからそう遠くないですわ」
先を歩くルインは、全身の鎧をカチャカチャと鳴らしながら歩く。
俺の腕の中では、すっかり落ち着きを取り戻した白いニワトリが辺りを見回している。
「村…ルインの住んでいる村なのか?」
「いいえ、私はその村に頼まれて派遣された冒険者ギルドの傭兵の一人なんですの」
「ぼうけんしゃぎるど?」
「各首都を拠点に、全ての国に対して中立でありながら依頼を請け負う組織です」
「何でも屋みたいなもんか?」
「そうですね…警備、偵察、討伐、護衛…場合によっては建築現場に駆り出されたり…何でも屋ですわね」
現実世界で言えば、『おつかい』や『クエスト』ってやつだな。
「村にオークが現れて困っていると依頼がありましたの、私はそのオーク討伐を頼まれてこの村に呼ばれましたわ」
「ふーん、じゃあなんであんな洞窟の中に居たんだ?」
「それは…その…」
妙に言い淀むルイン。
「あれだけの怪力があるんだから、オークなんて一撃だろ」
「実を言いますと…」
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「くっ、オークの数が多いですわ!皆一時撤退しましょう!」
草原に出没したオークの数は、村で聞いた数よりも圧倒的に多かった。
20…いや50以上…これは明らかにオークの1つの部族が近くに来ている。
一緒に来ていた冒険者達が慌てて逃げていく。
「ルイン!お前も早く撤退しろ!」
「…私が殿を務めますわ!」
剣を構える。
「…すまないルイン!すぐ援軍を連れて戻るからな!」
オオトカゲに跨った鎧の男達が走っていく。
私としては好都合。
聖女の力はあまり人前で見せびらかしたくはない。
オオトカゲ達とは別方向に駆け出す。
オークの一部集団が、私の方へ駆けてくるのが見える。
さて、少し腹ごしらえしたらアイツらをボコボコにしてやるんだから。
バックパックに手を伸ばすと「プチッ」と嫌な音がした。
「え?」
腰を見ると、シリアルバーの入っているバックパックが坂道を転がっていく。
しまった!詰め込み過ぎて腰ベルトに負荷がかかっていたか!?
「お、おまちなさい!」
坂道を転がっていくバックパックを必死に追っていく。
…手が届く!
手を伸ばそうとした瞬間、バックパックが視界から消える。
「あれ?」
次の瞬間、私の身体は宙に浮き、そのままバックパックと一緒に穴の底へと落ちていった。
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「つまりあれか!食い意地が張って、沢山食い物を詰め込みすぎて鞄が壊れたのか!」
「ちょっと、笑わないでください!」
ルインが顔を真っ赤にして怒る。
「ヒーッ、笑いすぎて腹が痛い」
「もう、次おなか痛いといっても治しませんよ!」
頬を膨らませて拗ねるルイン。
「ごめんごめん、笑いすぎたよ」
「ともあれ、本当に助かりましたわ…あのまま餓死していたら」
「力を使って、すぐに脱出すればよかったんじゃないのか?」
壁を殴りつけるジェスチャーをする。
「そうもしたかったのですが…長期の戦闘でお腹も空いていましたし、力を使った瞬間その場に力尽きて倒れてしまいます…オークに何をされるか分かったものじゃありません」
身体を抱えてブルブルと震える。
よほど、オークという生物は野蛮人らしい…。
「逃げた仲間が無事ならいいのですが」
ふと、オークから逃げていた時の事を思い出す。
そういえば、頭上をトカゲに乗った鎧の人物たちが数人通り過ぎて行ったな。
「俺も穴に落ちる前に、ルインに似た鎧の人たちを見た」
「本当です?」
「ああ、あれはお前を探し回っていたのかもな」
「あれから2週間以上経っています…村が心配ですね」
視線の先に、草原の真ん中に一角だけ木々に覆われている場所が見える。
おそらく、あそこが村なのだろう。
顎に手を当て、ブツブツと何かを考えているルインを追いながら歩き続ける。
歩く度に、腕の中のニワトリが『コッコッ』とリズムよく鳴いていた。
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「あネさん!これを見てください!ここでにンげんが野営をしてたみたいです!」
仲間の一人が声を上げる。
こんな場所に、クレーターは無かったはずだ。
調査の為にいくつかの仲間を連れてきたが、そのうちの一人が足元を指さしている。
「なるほど…焚火の跡と…これは」
燃えカスの中から煤色になった兜を取り出す。
「にンげんの装備だな」
ふと、足元に目をやると見慣れない白い羽根があたりに散らばっている。
「…これは、鳥の羽根か?」
一枚を手に取り、低い鼻に押し当て臭いを嗅ぐ。
まだ、真新しい。殺してから日は浅い。
嗅ぎなれない匂いだ。
グリフィンやコカトリス…ヒポグリフの物とは違う。
それら獰猛な鳥類より、かなり小柄な鳥の死体を持ち上げる。
こんなに小さい身体なのに、身がズッシリと詰まっている。
普段、食料として狩猟する鳥類とは、肉付きが全く違っている。
「こいつは…すごい、一体何の肉なんだ」
オークの女性は、初めて見るニワトリの身体に目を丸くしていた。
―――――――――――――――――――――
村に近づくにつれて、異様な光景が目に付く。
周辺には丸太を尖らせて作った、所謂バリケードのようなものが点々とする一方。
大型の家畜が無数、地面の草を食んでいる。
体高のある角の捻じれた牛のような家畜、現実より一回り筋肉質の不気味な顔をしたヤギ…。
そのどれを見ても、人の身体より幾分か大きい。
現実に比較して、豚やヤギのような”体高が人間の背丈以下の家畜”がないことに気づく。
ここは所謂、ファンタジーの世界だ。
外敵がトラやオオカミ程度で、家畜を襲いに来るなんてレベルの話ではないはずだ。
もっと巨大な…そう例えば、草原で見かけたオークのような生物や鎧の男たちが乗っていた大きなトカゲなど。
現実では、比較にならない外敵が数多く存在しているはずだ。
「そうか…外敵の多さが家畜を巨大化させているのか?」
「ええ、ですからアケノさんが手にしているそんな小さな家畜初めて見ましたの」
「なるほどね」
つまり、牙や角を持たない家畜はこの世界では人の手厚い保護無しでは野生にもなれないということだ。
それだけ、この世界は過酷なのかもしれない。
丸太をくみ上げて作られた家が、いくつか点々としている村に到着する。
周りを小高い木々で覆い、多少の目隠しと外敵の侵入を拒んでいるようだ。
そして、目立つのは入り口の門を兼ねた櫓だ。
四方を監視するかのように、櫓が聳え立っている。
門を潜ると、数人の村人が俺の姿を見てギョッとした顔をしている。
「一先ず、冒険者ギルドのある建物に行きましょう」
ルインに案内され、村の奥へ進んでいく。
プンと、嗅ぎなれた臭いが漂ってくる。
「この村は、家畜の生産で財を成しているんだな」
「そうです、良くわかりましたね」
「まあね」
獣の糞尿の匂いが漂ってくるのがわかる。
村の至る所にある、ひと際屋根の大きい平屋の建物はおそらく厩舎や家畜小屋なのだろう。
それにしても、村の大きさに対して家畜小屋の数があまりに多すぎる気がする。
これだけの量の家畜を賄うための食糧は、どこから供給されているのだろうか。
もしかして、この周囲に草原が多いのは。
「なあ、この辺は実は森があったんじゃないか?」
「…ええ、首都からの取り立てが多くなったせいでこの村は家畜の数を過剰に増やし始めました」
なるほど、色々合点がつながり始めてきた。
今のこの村は、教科書に載せられるような『過放牧』の見本市だ。
森林を焼き払い、砂漠化を招く負の連鎖。
元々、この土地は木々に覆われた森があったのだろう。
人間が家畜を殖やすために木々を切り倒して、草原に変えていった。
草は、木々に比べると根張りが薄く、土壌を絞める効力が薄い。
土壌は雨風に流れ、大地の形を歪に変えていく。
俺たちが落ちたあの穴は、単に石灰の溶食だけではない。
家畜が土壌を踏み荒らし、元々地下にあった空洞に穴をあけたのだろう。
また、草が根つく前に根こそぎ家畜が食い荒らしていく。
その結果、この辺一帯には、ただ広大な低い背丈の草原が広がっているのだ。
「どこの世界も、同じような問題に直面するもんだな…」
風に揺れる、草原の眺めながらポツリと呟いた。
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西部劇で見たような、大きなホールのある施設。
その大広間の中で不思議な格好をした人々が、何かを語り合っている。
壁一面に張られた、張り紙。
鎧を着た男に群がる、ローブの女性たち。
杖の先に、青く輝く宝石をつけた魔女のような女性。
誰もが、現実ではコスプレのような鎧やローブを纏っていた。
「アケノさん、早くこちらに」
ルインに急かされ、奥のカウンターに進む。
「ようお嬢ちゃん…お前、ルインか?!」
バーカウンターに佇む、髭面の男が驚いた声を上げる。
「無事だったか!心配したんだぞ!お前ほどの実力者がオーク相手にやられたかと」
「コホン!私がオーク相手にやられるわけがありませんわ、ちょっとだけ不覚を取ってしまっただけですわ」
胸に手を当て自慢げに話すルイン。
「…穴に落ちて行方不明だったって素直に言えよ?」
「ちょっと!アケノさんは黙っていてください!」
カウンターの男がアケノを見る。
「おめぇ…転生者だな?」
少し、据わった声を出す男にたじろぐ。
ルインが手を広げ、アケノと男の間に入る。
「マスター、この方は私の命を救ってくださいましたの…どうかここは私に免じて」
「人を信用するなんて…らしくないなルイン。しかし、おめぇが素顔で歩くなんて珍しいな」
「こ、この方が私の兜でお肉を茹でたので被れなくなったので仕方なくなのです!」
「なんの事だ?」と不思議そうな顔をするマスター。
「今の状況を、説明していただけますか?」
マスターと呼ばれた男は、顎髭を摩りながら机に地図を広げて見せる。
おそらくこの村であろう場所の周辺に、いくつかバツ印がつけられている。
「…オークの目撃情報が日に日に近くなっていて、身動きが取れなくなっている」
広い道のような場所に、いくつかバツ印がつけられている。
「ついに、街道を封鎖されちまった。どうやら相手は相当知恵が回るらしい」
「なるほど…オークの癖に……兵糧攻めまで狙っていると?」
「どうだかな、確かにオーク被害にしちゃ怪我人や犠牲者の報告があまりにも少ない」
「私が居ない間にこんなに接近を許していましたか…嘆かわしいですわ」
「それと、お前を探しに出た部隊の一部が行方不明になっている」
「…本当です?」
「ああ、2~3日戻ってきていない」
「心配ですわね」
「近隣首都のギルドに応援要請はしているが、街道がこの有様じゃあ…何とも」
うーん、と腕組みをして悩む二人を蚊帳の外で眺めている。
「そうだ、ルイン。この転生者は何の加護を受けているかわかるか?」
「いえ…本人でもわかっていないようで。魔法すら物珍しそうに見ていましたわ」
マスターがこちらに振り替える。
「おい、兄ちゃん…えっとアケノって言ったか?」
「あ、ああ」
「お前、女神に何かもらってここに降りてきたクチだろ?何か出来るか?」
「何か…もらった?」
「【風よりも早い音速の剣】とか【重力を操る魔法】とかなんかこう…不思議な奴だよ!」
首を静かに横に振る。
「珍しいタイプだな?…それとも、洗脳や操作系のマズい系の能力だったりしねえよな?」
首を激しく横に振る。
「ほ、他の連中は願いを叶えて貰っていたけれど…俺は突き落とされて…」
「ふーむ」と顎髭を撫でる。
「なーんだ、てっきり『異世界の勇者様が凄い力でオークをやっつけに来た』のかと思ったが期待外れだなぁ」
「わ、悪かったな…」
「まあ、ルインが助けられたらしいし一応様子見だな…ただし!」
ビッとアケノを指さす。
「変な能力使ってみやがれ、とっ捕まえて首都の警備隊に送り付けてやるからな!」
冷ややかな視線が、ホールのほうからも向けられているのがわかる。
どうやら、転生者という存在はこの世界においてかなり厄介で鼻つまみ者が多いらしい…。
「お前だけが俺の頼りだよ…」
静かに腕の中で抱かれているニワトリに頬ずりをした。
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物心つく頃、この辺りには森があった。
アタシが成長し、背丈が伸びていくにつれて景色は変わっていった。
森が切り開かれ、この辺一帯がいつの間にか草原に変わっていった。
アタシは暴力を好まない。
だが親父は違う。
暴力で全てを解決し、今すぐにでも村を焼き払ってやると息巻いている。
そんなことをすれば、私たちは首都の警備隊にあっという間に鎮圧されてしまうのに。
村は、どうやら「食糧の供給が途絶え家畜の数が減ってきている」と騒いでいる。
もう少し、もう少し我慢すれば奴らも考えを改めてくれるはずだ。
そんな時、あの”白い鳥”の死体を見た。
長年生きてきて、あんな骨格の鳥は見たことがない。
あの鳥がもし、人間によって持ち込まれているのであれば。
あれがもし、家畜であれば。
きっと、これ以上森が減ることはないはずだ。
知りたい。
私は、あの白い鳥が何なのかを。
そして、村に張り込んでいると一人の男があの鳥を抱えているのを見た。
不思議な服装。
不気味な黒い髪。
間違いない。
あれは、”異世界”から持ち込まれたものだ。
「あイつが、何か知っているはずだ」
今はただ、村の周囲の草むらでチャンスが来るのを仲間たちと静かに待ち構えていた。
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「洞窟に剣と兜を置き忘れましたわ」とルインが村で新たに装備を揃えなおすというので怪しまれないように、マスターから借りたマントを羽織りルインについて歩いていく。
村を歩いていると、不思議な光景を何度も見る。
『電気も通っていないのに、室内を照らす照明器具の数々』
『手元から土塊が生み出され、次々とそれを村の防壁として並べていく男たち』
『まるでガスコンロのように、安定した火を放ち続けるかまど』
『井戸のくみ上げポンプではなく、手をかざすと用意されたボウルに並々と増えていく水』
『風もないのに洗濯ものだけがはためいている』
「あれも全部魔法なのか?」
ルインが呆れ顔をする。
「【幻石】も知らないのですね」
「げんせき?」
ルインの腰のポケットから、アーモンドほどのサイズの石が出てくる。
見た目はただの茶色い石だが、仄かに赤く発光している。
「私達は、誰もがある一定量の魔法を放つことができますわ…これはその魔法を増幅や蓄積させる石なのです」
左右の手のひらに火が灯る。
石の無い手のひらは、一瞬火が弾けるがすぐに消えてしまう。
一方で、石のある手のひらは石を発光させながらライターのように燃え続ける。
「魔法は使えばすぐに霧散してしまいます。例えばアケノさんは走れますよね?」
「そりゃ、足があるからな」
「でも、長く、早く、走り続けるのは体力を消耗し続けますよね」
「そりゃあねえ…」
「同じく魔法を同じ出力で、強い力で出し続けるのは、とても大変なのです」
「…なるほど、安定器や増幅器という役割をしているのか」
「うんうん」とルインが頷いている。
そういえば、この村には大きな川がない。
人間の活動拠点の条件に、『大きな川』の条件がある。
古来より、人には水が貴重な存在だ。
飲食に使用するための、水。
物資を運搬するための、水。
汚物を洗い流すための、水。
水車を回すための動力の、水。
しかし、この村には用水路程度の水がチョロチョロと村の中を走っている程度だ。
その幻石があれば、大きなインフラ整備をしなくても村があっという間に作れるというわけか…。
「幻石は、この世界における全てのインフラを支えている存在ですわ。当然、その石をめぐって人間や国同士で色々いざこざもあるのですけれど…」
「ルインがすぐに腹を空かせるのもそういう訳か?」
「…そ、そうなんですよ!それより買い物が済んだら、一緒にお食事でもいかがです?」
ルインが指さした先に、食堂らしき建物が見える。
「…もうお腹すいたの?」
「ち、違いますよもう!」
ルインが顔を赤くして頬を膨らませる。
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新しい剣を手に入れて満足気な顔をするルイン。
本人曰く「か弱い女の子は素手で敵を殴ったりできない」との事だ。
ちなみに、「買っても2、3度振り回すと柄が曲がってしまうのが悩み」なのだという。
村の小さな食堂に入ると、ルインが次々と注文をしていく。
どこか見慣れた、どこか少し違う料理が並べられていく。
ピラフっぽいのだが、角煮のような巨大な肉がゴロゴロと入った米の炒め物。
ボウルいっぱいのサラダに、黄色い花が突き刺さっている。
麦茶のような見た目のスープに、茹でられた肉が浮いている。
当然茶碗に盛られた白米など出てくるわけがなく、硬そうな限りなく黒色に近いパンが出てくる。
運ばれてくる料理は、みな肉、肉、肉と魚や海産物がない。
それもそうか、周囲に川が無いのは承知の上だ。
だがそのほかにも、外界からの供給が途絶えているのだろう。
マスターたちの会話を思い出す。
『街道を封鎖した、籠城攻め』
これが続けば、そのうち村で自給自足している食料も尽きるだろうか。
そんなことは考えず、次々と運ばれてくる料理に目を輝かせ続けるルイン。
周りの客を、忙しそうに見回す腕の中のニワトリ。
「呆れましたわ、食事中ぐらいその子を離せばいいのに」
「いいだろ、ヘビ首に巻いてたりフクロウ肩に乗せて飯食ってる奴がいるんだから」
周りの冒険者らしき人々を指さす。
「なあ、やっぱりこの中にも俺と同じ”転生者”が存在するのか?」
ルインが顔を近づけて小声で話し始める。
「転生者はその多くが、この世界にはない奇術や能力で悪行の限りを尽くして首都の警備隊に捕縛されるか、旅の最中にすぐに亡くなるのです」
「うっ…物騒な話だな」
「生きている転生者を見たのは、実は初めてですの…」
「俺は珍獣か何かか?」
「でも、アケノさんは捕縛の心配はなさそうで大丈夫ですわ。無害そうですし」
「しかし、捕縛はまあ…なんとなくわかるが…亡くなるのは?」
「それは…つい数日前まで剣も魔法も知らない人が、武器だけハイどうぞって渡されてワーウルフやマンティコアと対峙して勝てるわけ無いですわ」
それはそうだな…。
ふと、女神の空間で出会ったあのサラリーマンを思い出す。
勤続20年、毎日満員電車に揺られて、ある日何らかの理由で転生。
自分で「勇者になりたい」と願って異世界に旅立った彼に、剣技の才能があるとは到底思えない。
巨大なモンスターに向かって素人剣技を披露しながら、勇敢に突撃していく彼の後姿を想像してしまう。
「あの女神の野郎…、何が『欲に塗れて異世界で充実して生きていく姿』だ…」
「ともあれ、今日のところは私たちの出会いに乾杯いたしましょうアケノさん」
ファンタジーにありがちな樽ジョッキを手に掲げるルイン。
ゴチャゴチャ考えていても仕方がない。
こうして、異世界の人々の生活の潮流に乗っているとどこか安心してくる。
「そうだな、ありがとうルイン。お前に出会わなかったら俺も今頃オークに殺されてたかもしれないな」
エッヘンと自慢げに笑うルイン。
「いただきましょうアケノさん」
「いただくかルイン」
互いのジョッキをぶつけてから、中身を飲み込む。
かなり強いアルコールの匂いに、思わず咽かえる。
「おい…!これは?!」
「どうなさいました?」
鼻の下に、泡をいっぱいにつけたルインが不思議そうに見つめる。
「お前、今いくつだ?」
「17ですけど?」
「な…!?お前未成年じゃねーか?!」
「何か問題がありまして?」
「いや…未成年はこんなもの飲んだら…!」
「何言っているんですか、この世界じゃお水と一緒!おしゃぶりと一緒に始めるものですよ」
上機嫌に樽ジョッキの中身を飲み干すルイン。
どうやら俺は、まだこの世界の生活には乗れそうにない。
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飲み食いを初めてから、数時間が経ったころ。
窓の外の太陽が、徐々に沈む兆しを見せている。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「嫌ですわアケノさん、ここでは『サハギンに尻を見せる』と言うんですわ」
ケタケタと笑いながら骨付きの肉を頬張るルインを無視して、店の外に出ていく。
レンガ造りの共用トイレなのだろうが、いわゆる汲み取り式を警戒した俺は愕然とする。
「な…!これは、完全に現代の洋式便所!?」
陶器ではない別の素材で作られたそれは、黒光りしているが完全に洋式トイレそのものである。
「すげぇな異世界…便座もちゃんと温かい、例の幻石ってやつか」
どうやら、思った以上にこの世界はハイテクに優れているようだ。
そのうちスマホやパソコンも登場するんじゃねえのか?と思わずほくそ笑む。
排泄のために、ニワトリを床に置くと案外暴れたり逃げ出すこともなくその場に座り込む。
「…本当に、うちのニワトリなんだろうな」
足元で静かに『コッコッ』と鳴いている。
それにしても、足のタグが違うのは一体何故なのか。
何故、食った後突然新たに現れたのか。
それとも、元々あの場に存在していたのか?
洞窟の中には居なかった、ならば草原に居たのか?
いや、洞窟にいた俺たちの上に存在していたのなら、ルインが洞窟を吹き飛ばした時点で木っ端みじんだ。
ならばコイツは『ルインが洞窟を吹き飛ばした後に俺たちの足元に現れた』事になる。
謎は深まるばかりだ。
……ふと、トイレの外がやけに騒がしい気がする。
「……何かもめ事か?」
立ち上がると自動的に流れる水洗にもはや驚くこともせず、
手をかざしたら自動的に流れ出る手洗いの水にも驚かず、
そのトイレに照明が点灯していたことにも気が付かず、
ニワトリを拾い上げると、トイレの外に出る。
一瞬、視界が暗くなる。
何かに日差しを遮られたからだ。
では、その日差しを遮ったものはなんだ?
視線を上に向けると、緑色をした壁が立ちはだかっていた。
オークが数匹、俺を見下ろしている。
「…あ、どうも」
俺を見たオーク達が、牙をむき出してニヤリと笑うと麻袋を被せてくる。
大声を出す間もなく、あっという間に袋の口を縛り上げられる。
情けない話だ、散々話していたじゃないか「転生者はすぐに亡くなる」と。
「一度目は女神に、二度目はオークに…次はどこに落とされるんだろうな」
抱えているニワトリに思ったより冷静に語り掛ける。
暴れまわる気力もなく、俺はニワトリと一緒の袋の中に閉じ込められてしまったのであった。
――――――――――つづく―――――――――――
つづきは近日中に上げる予定です
もしかしたら、話の都合上
色々修正するかもしれません




