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廃鶏の祈りと、聖女の奇跡

あるクソゲーを見て思いつきました。

勢いで書いてみました。


よろしくお願いいたします。

――――――――2020年の冬。

この年は、養鶏業者として史上最悪の年だった。


鳥インフルエンザ。


そもそも、密集状態で飼育、管理されるニワトリが避けられることもなく。

野鳥によって運ばれてきたウイルスによって、日本各地の養鶏場はニワトリの死体で溢れかえった。


昨日降った雨が、地面からの腐臭をさらに強くさせる。

その腐臭の元である大穴の中で、男がナイフを片手に抗っている。


「クソッ!クソッ!俺はなんてバカなんだ!こんな無駄な命の捨て方があっていいのかよ!」


深さ2メートルほどの大穴の中に埋められた、大量のズタ袋。

その一つを、白い作業服を着た男が必死に開けようとしている。

手にしたナイフで袋を切り裂くと、中から白い羽毛の塊が現れた。


正確には、大量のニワトリの死体だ。


寒さなのか、それとも絶望からなのか

震えながら、そのうちの一つを血と泥で汚れた手で取り出す。


「ごめん…本当にごめん」

男の頬を涙が伝う。


その時、男の頭上で大型重機のエンジンの音が響き渡る。

バサリと、大量の土砂が男に向かって降り注ぎ始めた。


「待ってくれ!まだ俺がいるんだ!」


重機のけたたましい駆動音と、土砂の降り注ぐ音。

必死にニワトリを抱えたまま、穴の外に向かって叫ぶ。

だが、男の声は重機の音にかき消され聞こえない。


「おい!やめてくれ!俺はここだ!」


必死に叫ぶ間もなく、落ちてくる土砂の中から現れた石が脳天を打ちその場に昏倒した。



――――――――――――――――――――――――――――


「俺は、チートスキルでどんな女の子も一瞬で惚れてしまう能力が欲しい!」

「はいはーい、お客様はこちらの世界にご案内いたしまーす♪」

「私は没落した令嬢!でも、ある日人狼の姿をしたイケメンの王子様が現れて!」

「はいはい、押さない押さない!順番よ♪」


――――響き渡る騒がしい声に、ゆっくりと瞼を開く。


冷たい、鉄板の上に寝ているような感覚。

…ここは、どこだ?

俺は確か、大穴の中に埋められて?


顔を上げて、辺りを見回す。

視線の先には、巨大な扉がありその扉の前で女性が大きな杖を振るう。

その女性に群がる、白熱した様子の様々な年齢の人々。

その群衆の中心に居る、真っ白なペプロスを着たブロンド色の長い髪をたなびかせる女性。

その姿はまるで、神話や童話に登場する――――


「…女神」


女神のような女性が、杖を一振りすると真っ黒な空間にどこかの風景が映し出された穴が現れる。

リクルートスーツを着た男性が、ゲームの主人公のような剣士の見た目になると、その穴に飛び込んでいった。


ゆっくりと身体を起こすと、身体の下で酷く泥や血で汚れた『白い羽毛のニワトリ』の死体がある。

慈しむように、それを手で掬い、胸に抱きしめる。

「…ごめん…ごめんな」

泥を拭ったニワトリの足には、黄色いプラスチックの識別タグが付いていた。

それは俺が前世で、うちの養鶏場で育てていたニワトリの証だ。


しばらくすると、いくらかの喧騒が止み辺りに静寂が訪れた。


「やっと起きましたか、本日最後の転生者」


女性の声に、視線を起こすと自分を見下ろすように先ほどの女神が佇んでいた。

「ようこそ、ここは転生の間。貴方は現世において、不慮の事故と強い未練によりここに呼ばれる権利を得ました」

ブロンドの長い髪を揺らし、歩み寄ってくる。

「貴方は新たな地で、何を望むのです?絶対なる力か、または劣情を望むがままに発散するのか…」

目の前まで来た女性は、俺の顔を見るなり顔を歪め


「え、待って、ヤバ!超臭い!」


「なにこの臭い!すごい獣臭いんですけど!え、風呂キャンセルとか、そういう匂いでもないし!」

俺の着ているツナギを見て後退りする。

「まって…!その服についてるの鳥の糞じゃない?!それに羽根もたくさん!やだ!サイテー!」

先ほどまでの威厳高い声ではなく、まるで幼女が嫌なものを見たような悲鳴のような声を上げる。

神経を逆撫でする金切り声に、次第に意識がはっきりとしてくる。

「強烈な未練の持ち主だと思って、ここに呼んだのにこんなに臭い男が来るなんて!」


「あんた…誰なんだ」


女性が鼻をフンと慣らし、俺の身体を見定めるようにグルリと一周する。

「まあいいわ、一応始めましょうか」

やれやれと言う顔をして



「ようこそッ!第二の人生!異世界へッ!今、まさに君は冒険の扉が開かれた勇者ッ!!」



ファンファーレが鳴り響き、天井から金色の紙吹雪が降り注いでくる。

まるでオーケストラのような音楽が響き渡る。

「自己紹介をいたします!私はある時は思い出の動物!」

女性の姿が突如として白馬に代わりその場を駆け出す。

「そしてある時は、恐るべき神の姿!」

白馬が飛び上がると、威厳そうな老人の姿をした男性が稲妻を光らせる。

「そしてある時は、この生と死の世界。狭間を楽しむ不思議な魔術師!」

次の瞬間、一際眩しい閃光の後に視線の先に数十メートルはあるだろう真っ白な輪郭も顔もない人型の巨人が現れる。

「人は私をッ!! ”女神” と呼ぶ!…らしい」

妙に歯切れの悪い言葉とともに、パプーと情けないラッパが鳴り響き女性だけを照らすスポットライトだけが残った。


「………」

ただ、茫然とニワトリの死体を抱え一部始終を眺めている。


「チッ」と女神の舌打ちが響く。

「ハァー…とりあえずテンプレートの続きするから名前教えて」

据わった目をして、こちらを睨む女神に少し動揺し


「…アケノ…高橋明之」


いつの間にか女神の肩に、桃色の毛並みをした大きなネズミ…いや、チンチラか?

まるでコチラを馬鹿にするように、口元に手を当てて笑っているように見える。


「よろしい、アケノよ。そなたは前世で凄まじい未練を持ち、人生を全う出来ず死んでしまった」

杖の柄を床にダン!とつけると大量の文字が宙に浮かぶ。


【魔法使い】【剣士】【盗賊】【大貴族】【ドラゴン】など…


「貴方に来世のチャンスを与えましょう、望み通りの力、望み通りの世界を与えます」


「望み…通り?」

「ええ!望み通り!それはもう何でも!巨大ロボットだって操縦できちゃうわよ!」

「じゃあ…」

「じゃあ!?」

女神が期待を込めた目で身を乗り出す。

震えた手で、ニワトリの死体を差し出しながら


「コイツらも、生き返してやってください」


―――――――長い沈黙


「 嫌 よ 」


と、女神が声を上げる。

「…駄目なのか?」

「いい?貴方の望みを叶えるの!ニワトリの蘇生は貴方に何の利益もないじゃない!」

「…俺の、望みはコイツらの蘇生なんだ…」

「私は、貴方の願いを叶えるの。その望みは、ニワトリの望みを叶える事よ」

「じゃあ…コイツは、何でここに呼ばれているんだ…」

「そ!れ!は!そのニワトリの死体が貴方の生前の所有物だったからよ!!」

ニワトリの死体を指さし、キーッと金切り声を上げる女神。


「いいからさっさと来世の望みを言いなさいよ!【無敵化スキルで誰も俺を傷つけられない!でも俺の心はいつもクラクラ…】とか!、【元男子の悪役令嬢の俺は、すべての大国の王子に恋をされる…】とかさあ!もうなんでもいいのよ!」

明らかにイライラしている女神。

察したのか、肩に乗っていたチンチラが飛び降りて遠ざかっていく。


「だから…コイツを…」

「違うの違うの!もー!臭いし意味わかんないし!そういうのじゃないの!」

ガンガンと杖で何度も床を突く。

ビシッ、ビシッと何かがひび割れる音がしている。

「私はね!貴方達が現世も忘れて、もっと欲に塗れて異世界で充実して生きていく姿が見たいの!!」


「だから…俺の望みは…」


「も~~~、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」

ダンダンとその場で地団駄を始める女神。

黒い世界に紫色の稲光が走る。


「そんなにニワトリと一緒に居たいなら!ずっと!ずーっと!ニワトリと生きていけばいいじゃない!」


ダンッ!と強く杖を床に突いた瞬間

足元の床がガラスのように砕け、身体が宙に放り出される。


俺はニワトリを必死に抱えながら、どこまでも続く暗闇の中に落ちていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


『コケコッコー!』


耳を劈く声に、思わず身体を起こす。

一面の草原、日の沈みかける夕暮れに流れる雲、鼻を突く野草の臭い。

「…ここは?」

辺りを見回す。


足元を1匹のニワトリが落ち着きなく歩き回っている。

慌ててそのニワトリを手で捕らえる。

温かい、小さな心臓が小刻みに動いているのがわかる。

「お前…生き返ったんだな…よかった」

ギュウと抱きしめると、鼻を鶏糞と羽の油の匂いが伝わる。


「ここは…どこなんだ?」

見慣れない草花の草原を見渡す。

所々に、白い岩のような突起があり、高い樹木のないまっ平らな平原である。


ふと、地面が揺れているのを感じる。

次の瞬間、頭上を大きな動物が横切っていく。

「トカゲ?!」

水上を走るバジリスクのような、またはエリマキトカゲのような、二足歩行をする巨大なトカゲに鎧を着た者が跨っている。

そのトカゲに乗った鎧の人間達が次々と頭上を通過していくと、今度はその後方から聞きなれない雄叫びが聞こえた。

「今度は…なんだ?!」

慌てて振り返ると、2~3mほどもある緑肌をした人型の巨人達がコチラに涎を垂らしながら走ってくる。

手には槍や、松明を持ち、明らかな闘志や殺意を感じる。

動物図鑑でも、テレビでも、見たことのない明らかな化け物たちに慌てて立ち上がり草原を走る。

緊迫感が伝わったのか、腕の中でニワトリが暴れ始める。

凄まじいスピードで迫ってくる巨大な化け物たち。

「い、今は頼むから暴れないでくれ!」

草に足を縺れながら、必死に走るが徐々に追いつかれてくる。

緑肌の化け物の手が、俺の身体に届く距離まで近づかれた途端。

身体が宙を浮く感覚に見舞われる。


「うわっ!な、なんだ?!」

あっという間に身体がひっくり返り、そのまま地面の下に落下していった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


身体が水面に叩きつけられる感覚。

夕暮れの赤を反射して、黄色く光る水の中にニワトリを抱えたまま落下したようだ。

慌てて手足をもがきながら、水面を目指す。

「ぶはぁ!」とようやく息継ぎをして、立ち泳ぎをしながら落ちてきた空を見上げる。

どうやら地面にポッカリと空いた穴から下の空洞の大きな水たまりに落下したようだ。

天井から光が差し、水面を照らしている。

とにかく、一度陸に上がらなければ。

あたりを見回すと、1本だけ細い木の生えた苔むした小さな陸地が見える。

立ち泳ぎのまま、何とか陸地に上陸すると仰向けに寝転がる。

「ハァ…ハァ…、クソ、落ちてばっかりだな」

身体中が水に濡れて重い。

幸いな事といえば、少しは身体についていた汚れが取れたぐらいか。

突然の出来事に思わず引き笑いをするが、ふと思い出す。


「ニワトリは?!」


腕の中を見ると、グッタリと項垂れて消えかけている小さな命がある。

慎重に、その場に降ろすと小さく息はするが目に見えて苦しそうだ。

歪に曲がった羽根、安定しない呼吸、強く握ってしまったのか所々羽が取れて血が滲んでいる。

落下の最中、ニワトリのことを気にかけている暇などなかった。

しかし、この姿は…


「また…また俺のせいだっていうのかよ」


視界が滲む。

目の前で小さな命が、尽きようとしている。


ガシャリ


突然、重厚な音が洞窟内に響き渡る。


異様な音に、身を起こし辺りを見回す。

ガシャリ、ガシャリと重い金属を引きずる音がする。

光の差し込まれていない方向から、大きな鎧を着た人物が現れる。

自分の腰丈ほどの長さの剣を引きずるように歩き、こちらに向かってくる。

背中を丸めてはいるが、その体格は一般男性よりも高く、優に2m以上もあるように見える。

「さっきのトカゲに乗ってた鎧の一人か?!」

身構えると、向こうは頭上に剣を持ち上げこちらに歩いてくる。

「お、おい!やめろ!やめてくれ!」

グッと身を固くして思わず目をつむる。


と、鎧の人物はそのままバランスを崩すとその場にガシャンと倒れこんだ。

洞窟内に激しい金属音が響き、静寂が訪れる。

うっすらと目を開けると、仰向けにひっくり返ったままの鎧が倒れている。

…ゆっくりと近寄る。


「おい」


鎧の隙間から、か細いしわがれた声がする。

「頼む、何か、食わせてくれ」

徐々に鎧に近づく。

「………」

何も言わなくなった鎧。

その分厚い鎧に覆われていてもわかる、やせ細った体。

プレートメイルから出ているインナーはすべてシワになっていて、中身がないことを物語る。

手甲も、足甲も重さに耐えきれなかったのかずれ落ちて、中からほとんど皮の皮膚が見えていた。


「なあ…大丈夫かアンタ」

「………」

何も答えない鎧。

「お…俺も、食べ物なんて…」

「………」

次第にその呼吸が少なくなっているのが見える。

ひとまず、苦しそうなその兜を剝がしてみる。


―――――――――――女だ。


短く切りそろえられた白銀の髪。

長いまつ毛と、整った顔立ち、薄い唇。

普段なら、とても美人だろうとわかる顔立ちの彼女は

唇は血の気がなく真っ白で、カサカサに乾ききった肌を、脂ぎった汗が覆っている。

眼球が落ち窪み、意識がないのに喉が「ヒクッ」と何かを求めるように動く。

前世で、衛生管理士を勉強した時のことを思い出す。

「顔色が土色だし、ひどい冷や汗。それにこの喉の反射は…」


重度の空腹、飢餓からくる低血糖。


おそらく相当な日数、栄養のあるものを摂取していない。

「あんた…目を覚まさないと低血糖で脳をやられちまうぞ」

「………」

女性は何も答えず、小さく呼吸を続けるばかり。

洞窟の頭上の太陽は徐々に沈み、暗くなっていく。

急がなければ、頼みの明かりが途絶え何も見えなくなってしまう。

「食べ物って言ったって…」

あたりを見回す。

一本だけ生えていた木に、葉がなかったのはおそらく彼女が食ったのだろう。

木の皮も、所々剥げていて、むしり取った跡がある。

足元のコケを無理やり食べて食いつないでいたのであろう形跡もあるが。

「こんなもの…土を食うのと何にもかわらない…」

しかし、今の自分に食べ物なんて…。

必死にあたりを見回すと、真っ白い何かが目に付く。


弱り、死にかけているニワトリがそこに横たわっている。


視界がぐらつく。

目眩がする。

何を考えているんだ俺は。


せっかく、生き返った命をまた奪うのか?お前は


振り返ると、女性の呼吸がほとんど止まっている。

別に助ける義理はないだろう。

何を考えている。


ポケットに触れると、前世でズタ袋を割くのに使ったナイフが手に触れる。

震える手が、ニワトリに伸びていく。

「わかってるんだ…助ける命じゃなくて、元々食らうための命だったって」

わずかに暖かいニワトリの身体に触れる。


まだ、生きているじゃないか。


…せめて、このまま死んでからなら俺に罪は。


馬鹿なことを言うな。


弱っているから仕方ないなんて理由はダメだ。


俺はこれを食うために育ててたんだろうが。


自然と零れ出ていた涙を拭う。

「……ごめんな」

ニワトリの身体を地面に押し付け、首を手で押さえる。


「いただきます」

ナイフが、ニワトリの首に突き刺さり鮮血が舞った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


血生臭い。

だがハッキリとわかる。

土でも、水でも、葉でも、革手袋でもない。

何かの動物の肉の味だ。

グチャグチャに溶けた肉が喉に押し込まれていく。

ああ…そうだ、ずっとこれを焦がれていた。

私は、これが欲しくて堪らなかった。

何日ぶりかの肉の味に、次第に身体が覚醒していくのがわかる。

そうか、私は誰かに助けられているんだな。

唇に何かが重なる感覚がする。

…誰かが、私の口腔に口移しで肉を流し込んでいる。

オークだったら嫌だな。

なんて馬鹿な事を考えながら、押し込まれていくものを飲み込んでいく。


身体に「あの力」が戻っていく感覚がわかる。


力を使えば、おそらく覚醒し動くことはできるだろう。

だが、今はこうしてこの幸福感に身を任せてみたい。

再び口に、誰かが唇を押し付ける感覚に、今は身を委ねていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


【異世界に転生して、穴に落ちたら女の騎士に口移しで生肉を食わせていた】

こんな事が、あっていいのか?


当の本人は、先ほどまで弱っていたとは思えないほど安らかな寝息を立てている。

そして、遠目に見てもわかる。

彼女の身体が、淡く光を纏い、輝き始めているのだ。

やせ細った身体は、徐々に膨らみを増していく。

黄色味がかった肌は、次第に白く輝きを増していく。

不思議な光景だった。

それはまるで、彼女が再生をしているような。

見惚れるほど、神秘的な光景だった。


ムニャムニャと、何かを咀嚼しているように口を動かす。

「…夢の中でも、何か食ってんのか…?」

今はただ時が過ぎるのも忘れて、彼女の寝顔を眺めていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


長く、眠っていたようだ。

妙に頭がスッキリしている。

薄く目を開く。

何度も見慣れた、洞窟の空洞の穴から見える夜空。

兜が取り外されている。

久しぶりに、外気にさらされた肌が風に触れて心地がいい。


顔を起こし、周りを見回す。

見慣れた枯れた木、湖面の揺れる音。


視界の先に、真っ白い服装の男が座っている。

木にもたれかかる様に、男が一人膝を抱えて蹲っていた。

男の周りには、真っ赤に汚れた白い羽が広がっており、手には血を滴らせたナイフが握られている。

異様なのは、その見た目と服装である。

暗黒のような、不気味な真っ黒な短い髪。

虫糸でもなく、樹皮糸でもない、素材でできた不思議な服装。

上下が完全に一つに繋がった、隙間のない服。

袋に手足の部分を付けたような作りで、真ん中で服が割れている。


――――――――あれは、転生者ね。


外見ですぐに判断できた。


少し、身体を起こす。

「貴方が…私を救ってくれたのです?」

男の顔がゆっくりと持ち上がった。

年齢…おそらく成人している。

けれど、顔つきは若い。

どこか幼く見えるのは、その大きな瞳だろう。

その瞳の下を赤く腫らし、長く泣いていたのが解る。

生まれて初めて男性の泣き顔を見て、少し心臓が高鳴ってしまう。

「あっ…命を助けていただいて感謝しますわ…」

「ん?ああ…もう口が利けるのか?」

少し動揺する男。


そうか、死にかけの人間が勝手に数時間で復活すれば誰でも驚くか。


「…おかげ様で、助かりましたわ」

「………」

男は答えずに、再び首を垂れる。

足元に散らばる羽の中心に、小さな血の塊がある。

「…もしかして、その肉を私に?」

「ああ…感謝しろよ、命に」

「もちろんですわ、貴方にもその命にも」

「そうか、ならコイツも浮かばれるよな」

男が弱弱しく笑う。

「まあ、一つ問題があるとすれば俺たちは今、時限爆弾に手を突っ込んでいる事だ」

「時限爆弾ですって?」


「生の鶏肉を食べるとな、カンピロバクターって菌にやられちまうんだ」

「んなっ!?毒を食べさせたのです?!」

慌てて飛び起きる。

「いや…毒じゃないんだけど、いや毒なんだろうけど…本来ならすぐに胃洗浄して抗生剤だが…」

「よくわかりませんわね…」

「まあ、発症するもしないも俺たちの運しだいって奴だ、2~3日後にわかるだろうけど」

何か、諦めきったような顔でヘラヘラと笑う男。


~~~~~【女神ちゃんのなぜなに解説コーナー】~~~~~~


「おば…お姉さん!お姉さん!」

「なぁに、チンチラのハジメ君」

「あの臭いお兄さんが言っていた【カンピロバクター】ってなぁに?」

「いい質問ですねハジメ君!では一緒にお勉強しましょう♪」

【カンピロバクターとは】

・牛や鶏など、家畜の腸内に住んでいる細菌。

・特に鶏の保菌率が非常に高い。

・数万個の菌が必要な他の食中毒菌に比べて、わずか数百個程度の少ない菌数でも感染する。

「アケノ君が生肉を齧って女の子に口移ししてたけど、この先どうなるの?」

「そうね~、2~3日後に腸が捻じ切られるような痛みと、高熱が出て動けなくなるわね」

「ひえー、人間ってバカでぇ」

「こら、ハジメ君そんなお下品な言葉を教えた覚えはありませんよ」

「はーい、気を付けまーす」

「でも見てていい気味ね、ザマァ見ろって感じ♪」

「…お姉さん?」

「あらヤダいけない☆一旦現場にお返ししまーす♪オホホホ」


~~~~~~【またみてね♪】~~~~~~



「それはそうと、そんなに小さな鳥をどうやって捕まえたのです?」

「あー、捕まえたというか俺の所有物なんだ」

「な…!?ペットを殺してまで私を救おうと…」

「ペット…ではないんだ、正しく言えば食うために生かしてたんだ」

「…つまり家畜…なのです?」

「そうだな…ずいぶん珍しそうな顔をするな?」

「当然ですわ、この世界の家畜といえば牛やヤギや…いわゆる地上を歩く者ですから」


「ん?…待てよ?家畜としてニワトリが居ないのか?!」


「ニワトリ…?庭の鳥なのです?おかしな話」

かなり動揺する男を見て思わず笑う。


「この世界の鳥と言えば、どれも『狂暴で巨大』か『素早くて小さい』かですね」


「そんな…ニワトリが『しゅ』として存在してないのか?」


男がうわごとの様に呟く。

ふと、頭上で地響きがする。

何か重たいものが通過するような音だ。

オーク達が移動しているのか…?

「…話はあとにしましょう、ここを脱出しましょう」

「脱出って言っても、俺も落ちてきたんだよ…」

手を、グッグッと握ってみる。

いける。

あと少しだ。

かろうじて力は戻ってきているが、まだ力を開放するほどの余力はない。


もう少し、燃料が在れば。


…仕方ない。

毒とはいえ、私なら大丈夫。

「コホン」と、咳払いをする。

「つきましては、その…差し出がましいのですが…」

「なんだよ、ずいぶん歯切れの悪い言い方だな」


「…もう少し、食べさせて貰えませんか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――――――――ポチャンと落ちた水音が響くほどの静寂。

「なんだって?」

「む、無理にとは言いませんけど!その、野蛮なことを言っているのはわかっていますわ!」

真っ赤な顔をブンブンと横に振る彼女。

改めて立ち姿を見てわかる。

色々と、大きい。

背丈は、180cm以上はあるだろうか。

俺を見下ろすほどの体格だ。

女性らしく丸い身体に、しなやかな筋肉を蓄えているのがわかる。

鉄イオンの加工を施したかのような、プルシアンブルーの鎧がその体格をより一層大きく見せる。

大きな見かけにそぐわず、モジモジと指を絡ませている。

「これは、食い意地ではなく…そう!私たちが助かるための手段」

彼女が恥ずかしそうに、声を振り絞る。


グオオオオオ~と魔物の叫び声のような音が洞窟に響き渡る。


それは魔物の声ではなく、彼女のほうからはっきりと聞こえた。

「…まさか、腹の虫が鳴ったのか?」

手で顔を隠している彼女。

必死に顔を横に振っている。

その姿を見て、何か身構えていたり落ち込んでいる自分が馬鹿らしく思えてきた。


何より

「そうか、残りも食ってくれるか」

という声が自分から自然に漏れた。

「…良いのです?」

「ああ、もちろん。それがコイツら本来の命の在り方だったんだから」

首の無いニワトリの身体を持ち上げる。

もう、後悔はない。

そうだ、俺はコイツらを食って、生かされていたんじゃないか。


――――――――――――――――――――――――――――――


彼女が中央にあった枯れ木の枝を折ると、それを床に重ねていく。

「火がない」と言うと、呆れた顔をして

「転生者なのに…着火の魔法も使えないのです?」

「魔法?」

彼女の掌が赤くなったと思うと、手にしていた木に炎を灯る。

呆気に取られている俺を見て、小さくため息をつく彼女。


「ほかの転生者みたいに、女神に出会ったのでしょう?」

「あー…うん、まあ出会ったんだけど追い出されたんだ」

「ふーん?」

彼女は、それ以上俺について追及はしてこなかった。


血抜きができていないので、このまま焼いても血なまぐさくなってしまうだろう。

付近に水があるのが幸いだが、問題は鍋がない。

ふむ、と腕組みをしていると彼女から取り外した兜が目に付く。

「なあ、これ借りていいか?」

頭頂部に向かって、尖った形の兜を手に取る。

「何に使いますの?」と不思議そうな顔をする彼女を尻目に兜をひっくり返し水を組む。

そのままその兜を火の中にくべ始める。


「ちょ、ちょっと!?何考えてますの?!」

「何って…一度茹でようかなと」

「人の頭に被っていたものを調理器具にしないでください!」

「残りが食いたいって言ったのはお前だろ」

「うっ…いや、まあそうですけど」

「それとも、また生肉を口移しで食わされたいのか?」

「ふ、ふざけないでください!」

彼女は顔を真っ赤にして、不貞腐れると、火にかけられた兜を黙って眺め始めた。


その間に、岩の上に置いたニワトリを捌いて、いくつかの部位に分ける。

不衛生極まりない状況なので、一先ず内蔵は避けておく。


どうせ後で、カンピロバクターで死ぬほど吐き戻すだろうが…。


いわゆる、モモ肉やハラ肉を沸騰した彼女の兜の中に入れていく。

「不思議ですね、こんなに小さい鳥なのにこんなに可食部があるなんて…」

「…鳥を食べる文化は、あまりないのか?」

「え…?ええ、この世界では鳥は自分で狩りをするか貴族が食べる物で、一般には出回らないんです」

彼女が手でジェスチャーしている「市民が捕れるのは、こんなに小さくて速いんです」と、手のひらを広げてパタパタとしている。

それは、カニの影絵でやるポーズなのでは?と薄々思いながらも煮えた肉を取り出す。


彼女が持っていた剣を地面に寝かせて、簡易的な皿として茹で上がった肉を並べて置く。

「わあっ!いい匂いです」

無邪気な子供のような横顔。

…体躯に似合わず思ったよりも、若い子なのかもしれない。


「…いただきます」

と手を合わせ小さく呟く。

彼女がハッとした顔をすると、こちらの真似をして手を合わせる。

「いただきますわ」

二人で茹でただけの鶏肉を食べる。

ただ茹でただけなのに、こんなにも鶏肉の味を嚙み締めたことはない。

何度も加工肉にした、自分で捌いた事も何度もあった。

だが今は違う。


この肉は、あの穴の下で俺がズタ袋から引きずり出した肉だ。


食べれるじゃないか。

無駄じゃないじゃないか。

泣きそうになるのをグッと堪える。


「…凄い、おいしいです!」


明るい声が響いてハッと顔を上げる。

「何せ2週間以上、碌に食べていなかったので…本当に美味しいです!」

口の周りを汚しながら、無邪気に食べ進める彼女の姿を見て、ああ救われたんだなと実感が沸いた。


そのまま、次々に食べ進める彼女を呆然と見ている。

「食べないのです?」と俺の分に別けていた肉すら物欲しそうに見るので。

「どうぞ」と、言うと飛びつくように食べ始める。

本当に良かった。


――――――――――――――――――――――――――――――


天井の景色が、いつの間にか朝焼けに染まって白くなりつつある。

どうやら、夜明けが近いようだ。


「はぁ~食べた食べた…」

彼女が満足そうに口を拭う。

「それだけ喜んでもらえれば、コイツは幸せだろうよ」

むしり取った羽や内臓、食べなかった肉片、骨が床に散らばっている。

「本当に助かりました、ありがとうございます」

彼女が、ニワトリの亡骸に対して丁寧に頭を下げる。

それにしても、彼女は確か「2週間以上ろくに食べていなかった」と言っていた。

飢餓寸前の人間が、急に栄養価の高い食べ物を摂取すると代謝がパンクして死ぬこともある。

リフィーディング症候群…とか聞いたことがあるが。

「もったいないですね…ほかに可食部は無いのでしょうか?」

だが、俺の危惧を余所に彼女はケロリとしている。

ニワトリの残骸を眺めている彼女を見てその心配は杞憂に思える。

何より、彼女の身体はもはや飢餓などとは程遠いほど健康そのものだ。

この世界では現代医学とはかけ離れた、不思議な力が働いているのだろう。


「オホン!さて、助かる方法ですが」


…痛い。


すごい、おなか痛い。


「…どうしました?顔色が悪くないですか?」

…いや、待て潜伏期間は2~3日だこんなに早く発症は。

「もし?大丈夫です?」

あまりの痛みに立っていられず、その場に蹲る。

「え?!大丈夫なのです?!」

これは…この症状の速さは間違いない…


「さ、サルモネラ菌か…!?」

「猿?!え?さっきのと名前が違いませんか?!」


~~~~~【女神ちゃんのなぜなに解説コーナー】~~~~~~


「お姉さんお姉さん、サルモネラ菌ってなぁに?」

「んまー面白いことになってきたわよマジメ君!」

「ハジメです」

「では、サルモネラ菌についてお姉さんと一緒にお勉強しましょう♪」

【サルモネラ菌とは】

・鶏の腸管や卵の殻に潜んでいる細菌。

・カンピロバクターより予防が難しい。

・菌による症状が出るまでが最短8時間と非常にスピーディー。

「この菌の恐ろしいところはね、上からも下からも全部デトックスするのよ!」

「うげーっ、お茶の間には見せられないね」

「おまけにカンピロバクターより高熱が出るから、意識も朦朧として何もできないわね」

「死んじゃう?臭いお兄さん死んじゃう?」

「それは見てのお楽しみよ、カレーでも食べながら一緒に見ましょう♪」

「…悪趣味」


~~~~~~【またみてね♪】~~~~~~



「に、二種類あるんだよ…!お前にも発症するかもしれない!」

「そんな危険な肉なのです?」

「俺の計算より早すぎる、菌の密度が異常だったのか…それとも知らずに糞を触っていた…のか…」

そういえば、女神に会ったとき「臭い」だの言われてたのを思い出した。

ツナギの袖も、肘も、鶏糞の汚れがついているじゃないか…!

腹を裂かれるような床に蹲り、痛みに悶絶する。

食ったものが、前から後ろから出てきそうだ。

「おい、アンタは大丈夫か!?」

脂汗をかきながら彼女を見上げる。


「何をしているんだこの人」と言わんばかりに平気な顔をしている。


俺は、生肉を飲み込んだ覚えはない。

彼女は、俺が咀嚼した生肉を飲み込んでいる。

それなのに、この差はなんだ。

「お、おいッ!なんで平気なんだ?!」


「なんでって…私には効かない…としか…ねえ?」


妙に言い淀む。

その反応でわかる、単に運がいいわけじゃない。


どうやら、彼女は”何かで防いでいる”ようだ。


何かが身体に入ってきているのを理解していて、それをおそらく自動で防衛している。

だから、自分も同じ目に合うという危険性や不安を微塵も感じていないんだ。

激痛に視界が回ってくる。

回転椅子に縛り付けられ、何百回と回されているように世界が回る。

腹がうめき声を上げる。

いよいよ前から後ろから、免疫のために身体中のものが排せつされそうだ。


「貴方は、他の転生者とはどこか違うようですわね」


彼女の声が聞こえる。

「本来、転生者なんて自分勝手か、厄介な存在だと噂に聞いていましたが…」

彼女が膝をつき、こちらの頬にそっと手を置く。

「…貴方を信じてみましょう、ただこれからする事をどうか他言しないでください」


朦朧とする意識の中で、ハッキリとその姿を見た。


彼女の短く切りそろえられた髪の端から、インナーカラーのように霞状の長い髪が腰まで伸びる。

頬や首に浮かび上がる青い紋章が強く光り、光の束が彼女の身体を優しく包み込んでいく。

それはまるで、光で織られた羽衣を纏ったような姿。


――女神。


いや、違う。

あんな性格のねじ曲がった女と一緒にしちゃ失礼だ。


――天女だ。


目の前にいるのは、もっと純粋で、圧倒的な救済の光だった。


『「奇跡を」』


彼女が呟くと、身体中を刺すほどの痛みが和らぎ、あっという間に消えていた。

落下したときに作った手の切り傷も。

泣きすぎて爛れた目の下の肌も。

俺の身体が、全く新しく生まれ変わるように戻っていた。

霞状の髪が宙で霧散すると、床に溶けて消えていく。


「な…なんだこれ?!」


今度は、こちらが慌てて飛び起きる。

…嘘のように身体中の痛みが消えている。


「何って…聖女の奇跡です、ご存じでしょう?」


ブンブンと首を横に振る。

「要するに、こういうことですわ」

「どういうことか全然わからん!」

「とにかく、他言無用ですわ」

唇に指先を押し付けられる。

黙っていろ。

と、暗に言われているのがわかる。

頭をボリボリと掻く。

何はともあれ、何かの力で助けられたのは間違いない。

「貴方、聖女を知らないのですね?」

「何のことかわからん」

「…そのほうが都合がいいかもしれませんわね…とはいえ、今のことは誰にも言ってはいけませんわ」

「…わかったよ、訳ありってことか?誰にも言わない」


危うく色々漏らすところだった。

あまりにも命の恩人過ぎる行為に、感謝しきれないぐらいだ。

ウンウンと頷く。

「約束する」

「ふーん?」と疑うような顔をして、こちらの顔を見回す。


フフン、と何か思いついたような顔をする。

「もし、"誰か"にこの事を話したら」

「…話したら?」


「こうなります」


彼女が、微笑みながら洞窟の壁際にまで歩いていく。

壁に両手をつくと、フーッと一呼吸する。





「ハッッッ!!!!!!!」





鼓膜が破れるかと思うぐらいの声を上げると、何かの衝撃に身体が後ろに吹き飛んだ。

後ろ向きにゴロゴロと転がると、パッとあたり一面の景色が急に開けた。


………耳が爆発音と、彼女の声でキーーーンッと音を鳴らしている。

朝焼けの空、クレーターのような窪地に仰向けに転がって空を見ている。

調理をしていたはずの、枯れた木陰の傍。

足元には、大きな池のような水たまり。

空からは、細かくなった砂利や砂が時々パラパラと降ってくる。


野外の風に吹かれて、捌いたニワトリの羽根が空に舞っていく。


ここは、確かに洞窟の中だった。

俺たちは、洞窟の中に閉じ込められていたはずだった。

それが、彼女の一声で、洞窟だった場所は、深く巨大なクレーターに変わっていた。

「まあ、つまり…こういうことですわ」

手をパンパンと叩く彼女。

天女と一瞬錯覚した彼女から放たれる、圧倒的な暴力と強靭な力の量。

そして、グーッと再び彼女の腹が鳴る。

俺の手に握りしめていた残りの茹で肉を、彼女が取り上げると食べ始める。


「私の名前は、ルイン。よろしくお願いいたしますわ冒険者さん♪」


「…アケノです、よろしくお願いいたしますルインさん…」


差し伸べられた手を握り返そうとする。

…これ握ったら、握力で手がグチャグチャにされるのかな。


——逡巡しているうちに、何かの羽音が聞こえる。


俺たちの足元。

吹き飛んだ洞窟の瓦礫の隙間から、ひょっこりと赤い鶏冠が突き出していた。


『コケッ』


「……は?」「えっ?!」 思わず二人の声が漏れる。

そこには、さっき俺が涙を流しながら捌き、ルインが美味しそうに完食したはずのニワトリ。

血の汚れもない、泥の汚れもない、折れた羽根も無い、まさに新品同様のニワトリがそこにいる。

いや、そっくりな別の個体が、何食わぬ顔で地面を突ついていた。


「アケノさん! 見てください! あの珍しい鳥、また居ましたわ!?」

ルインが目を輝かせて駆け寄ろうとする。

「そんな…腹を捌いて食った生き物が生き返るわけ…」

動揺して動けない。


この世界には、ニワトリは存在しない。

この世界に住む、彼女ルインがそう断言したじゃないか。


じゃあ、同一個体か?


そんな馬鹿な話があるか、視界の端に食ったニワトリの残骸が散らばっているだろうが。


このニワトリはこの世界の何処から?…いや、それは違う。


何故なら、このニワトリの足には『プラスチックで出来た識別タグ』がついているじゃないか!



さらに、そのニワトリの足についていたのは、青い識別タグだった。

さっき俺が捌いたヤツは、黄色だったはずだ。


「なんだよこれ…?まさか、俺の…?いや、俺が呼び出さなくても勝手に湧いてくるのか!?」


ニワトリはルインの「捕食者」としてのオーラを察知したのか、凄まじい脚力で草原に向かって逃げ出した。


「待ちなさい! 今度は焼きで…!違いました、ぜひちゃんとお礼を!」

「待て待て待て!今、本音が漏れていただろ!」


重そうな鎧を鳴らして爆走する聖女と、それを必死に追いかける白いツナギ姿の異世界転生者。

女神の「ずっとニワトリと生きていけばいいじゃない」という呪いのような声が、朝焼けの空に響いた気がした。


俺の異世界生活は、どうやらまだ「いただきます」のその先へは進ませてもらえないらしい。


(第一話・完)

いかがでしたでしょうか

面白そうなら、続きを書いてみたいです

ありがとうございました

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とあるクソゲーが気になります なんのゲームでしょうか?
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