能力者の影で
クラス分けでFランクの烙印を押された日から、如月空の学園生活は、能力者たちの華やかな光の影で始まった。
彼の教室は、校舎の最も古く、換気の悪い倉庫の隣に割り当てられた。
能力者たちが使用しない錆びた金属、ダンジョンで破損した魔力装備の残骸が積まれたその場所は、才能なき者の墓場のようだった。
彼の毎朝は、早朝の重労働と屈辱から始まる。
最初の仕事は、上級生たちが夜通し訓練したAランク訓練区画の後片付けだった。
区画の床は、炎魔法の余熱でわずかに焦げつき、青柳雫の冷気魔法で凍てついた部分が混在していた。
空は、特殊な洗浄液と硬いブラシを手に、その魔法で汚染された床をひたすら拭き取る。
周囲に漂う高密度の魔力の残滓は、空の肌を刺すような不快感を与えた。
雪月流の呼吸法で体内の「気」を極限まで収束させ、外部の魔力が体内に侵入するのを防ぎながら作業を続けた。彼の「無魔の体質」は、この手の作業では優秀な清掃員として機能したが、その能力は誰にも理解されず、評価されることもなかった。
次に待っているのは、装備品の整備だ。
能力者たちがダンジョンから持ち帰った魔力伝導性の武器や防具を、手作業で磨き上げる。
彼の袖の中に隠された脇差とは比較にならないほど豪奢で複雑な構造を持つそれらの装備品には、微かな魔物の血液や敵性魔力が残っていた。
「おい、如月。この雷神の籠手、ちゃんと磨けよ。お前みたいな能なしの雑菌が付いたら、魔力の通りが悪くなるだろうが」
Cランクの生徒が、籠手を空に放り投げる。
無言でそれを受け止め、手袋を二重にして丁寧に磨き上げる。
空の雪月流の鋭敏な感覚は、装備に残る微細な魔力反応を正確に感知し、清掃すべき箇所を特定するのに役立った。
しかし、彼がどれほど丁寧に作業しても、能力者たちからは「能なしのくせに」と嘲笑されるだけだった。彼の努力は、才能を持つ者たちの舞台装置でしかなかった。
最も危険で精神的に堪える仕事は、低層ダンジョンへの物資運搬だった。
彼は、能力者パーティが消費する回復薬や予備の魔石を詰めた重いカートを、能力者エリアの境界線ギリギリまで運ばなければならない。
この境界線は、ダンジョン内部から漏れ出す低級魔物のオーラが、最も濃密に渦巻く場所だ。
魔物の蠢きを肌で感じながら、重いカートを押す。
彼の無魔の体質は、ここで初めて防御的な役割を果たした。
魔物たちは、魔力を持たない空を「餌」として認識せず、無視することが多かったのだ。
ある給料日、雑務担当の教師が、空に書類を投げつけるように報酬を渡した。
「如月。これはSランクの青柳雫が消費した特殊な回復薬の費用だ。お前の日給の二週間分だな。お前が頑張って運んだおかげで、彼女はまた深層へ行ける。感謝しろ」
教師は、空が運んだ物資が、能力者たちの富と名声につながることを、あえて強調した。
空の目的である「稼ぐこと」は、この能力者社会の冷酷なシステムの中で、最も困難で、最も時間がかかる道になっていた。
空のFランクの腕章と、汚れた作業服は、彼がこの学園で最も底辺にいることを、毎日、容赦なく突きつけていた。