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別の光を放つ少女

能力者スキャンを通過し、「無害」の烙印を押された空が校舎へ足を踏み入れた瞬間、内装の豪華さや設備の先進性よりも先に、その空気の異様さに圧倒された。



校舎内は、空が外で感じた魔力の圧力がさらに増していた。能力者たちのオーラが、空の雪月流の感覚器官を直接刺激する。

それはまるで、視界にノイズが混じるように、空の五感を乱した。

訓練場からは、炎や風の魔法が炸裂する轟音が地鳴りのように響いている。



雪月流の呼吸法がなければ、彼はその魔力の奔流に晒され、頭痛で立っていられなかっただろう。

この学園は、「能力者の力を限界まで引き出す」という傲慢な理念を、建物の設計そのものに落とし込んでいた。



空は、指示された通りに入学手続きの列に並んだ。

その列に並ぶ生徒たちの会話は、全てが異能のランク、スキルの強弱、そしてパーティの序列に集約されていた。

彼らにとって、会話は自己紹介ではなく、自己の価値の提示だった。



「オレの『雷鳴』の能力値、入学時点でCランクらしいぜ。親父がS級能力者に頭下げて、早期に能力測定を受けさせた甲斐があったな」



隣に立っていた、いかにも裕福そうな制服を着崩した男子生徒が、隣の女子生徒に向かって高揚した声で話している。



彼の周囲には、青白い魔力の光が常に微かに纏わりついていた。

彼はその光を、自慢の装飾品のように誇示していた。



「Cランクなんてすごいわ!羨ましい!私は回復魔法の適性が高かったの。でも、目標はSランクの先輩のパーティよ。特に、あの日向先輩がリーダーの『宵月の護り』に絶対入りたい!あそこに入れば、卒業後の就職先どころか、一生の保証が違うもの。安定した収入と社会的な地位、全部手に入る」



彼らは、まるで株の銘柄を選ぶかのように、自分たちの異能という商品を並べ、未来の富と社会的階級を議論している。

この学園では、能力=価値であり、ランク=序列が絶対的なルールだった。



列の前方で、ひときわ大きく生徒たちのざわめきが起こった。



「あれ見ろよ!今年の新入生で一番の注目株だろ」



青柳雫あおやぎ しずくだ!彼女は入学前にもうSランクが確定しているらしいぞ。水系魔法及び、なんと『広域支援ワイドサポート』のユニークスキル持ちだ!」



その声に引き寄せられ、視線を向けた。



そこにいたのは、長く艶やかな黒髪を背中に流し、冷静な知性的な雰囲気を漂わせた少女だった。

彼女の周囲の空気は、他の能力者たちが放つ攻撃的なオーラとは異なり、静かで澄んだ水の結界のように見えた。彼女の魔力は、派手さではなく緻密さと巨大な包容力を空に感じさせた。



雫は、周囲からの熱狂的な視線を一切気にせず、手元のパッドに表示された能力協会のデータを真剣な表情で読み込んでいる。

彼女にとって、能力は自慢ではなく、解析の対象であり、知的好奇心を満たすための道具であるようだった。



「ああ、青柳が入れば、『宵月の護り』は一気に安定する。日向先輩と青柳のコンビは、Sランクパーティの完成だ!」



空は、その少女の異能の完成度を肌で感じ取った。

雪月流の感覚器官が、彼女の持つ力の巨大さを警告している。

彼女は、空がこれから戦うことになる、能力者社会の頂点に立つ存在の一人だった。



空の体には、そんな派手な魔力も、目に見える能力も一切宿っていない。



空の存在は、このオーラの奔流の中で、まるで透明な存在のようだった。

誰一人として、空に声をかける者も、興味を示す者もいない。

彼の存在は、能力という光が強ければ強いほど、その陰に深く消えてしまう。



袖の中に隠した脇差の冷たい感触だけが、自分と雪月流の唯一の存在証明だと感じた。



この脇差と、体内に秘めた「無魔の体術」だけが、この能力者社会で彼を原始人から戦う者に変える、最後の手段だった。

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