武の探求者
雫の表情は動かなかったが、その瞳の奥には、納得と同時に、疑惑が深まった色が見えた。
彼女は、空の「無能力」というデータには五十嵐のシステムと同様に従うが、「彼の武の感性」は空の言葉を否定していることを知っていた。
彼女は、空の中に自分と同じ、あるいはそれ以上の「武の探求者」の魂を感じ取っており、それがFランクという地位に甘んじていることに、強い矛盾を感じていたのだ。
雫は、空に対してそれ以上、証拠に基づく詰問を行うことはなかった。
彼女は、SSランクの五十嵐とは異なり、武の真実をデータではなく実力で見極めようとしていた。
「空、私は、あなたの武の純粋さが、能力値という鎖に囚われているのではないかと心配している。もし、本当に力があるのなら、卑屈になる必要はない。いつか、あなたの本当の力を見せてほしいわ。それは、この学園の、そして武の未来にとって、重要なことかもしれないから」
雫は、そう言って空の横を通り過ぎた。
空は、最も危険な監視者である雫の疑惑を完全に晴らすことはできなかったが、システム的な追及を一時的に退けることには成功した。
空の心は、流派の負債完済という目的と、能力者社会の最高峰の監視という現実によって、次の戦場へと駆り立てられていた。
論理と直感という二つの絶対的な監視の目の下で、雪月流の秘匿と負債完済という綱渡りのような戦略を続けるしかなかった。
流派の未来と武の誇りという重すぎる荷物を背負い、孤独な闘いを続ける覚悟を新たにしたのだった。




