異能の檻
辿り着いた西京探索高校は、巨大なゲートからほど近い、最高の立地にそびえ立っていた。
能力者都市の真ん中で、校舎全体が、最新鋭の「反魔力結界」と「自動防御システム」によって、まるで難攻不落の巨大な檻のように守られていた。
その威容は、故郷で見てきたどんな建物とも異なっていた。
校舎の壁は、普通のコンクリートではなく、鈍い銀色に光る魔力反応性の特殊合金でできていた。
それは、外部からの魔物の攻撃を遮断し、内部の能力者の訓練による魔力暴走をも抑え込む、巨大なエネルギーシールドの役割を果たしている。
校舎全体が、知識を学ぶ場というより、力を磨き、ダンジョンに挑む戦士を育成するための要塞、あるいは巨大な兵器として機能するよう設計されていた。
校門の前には、軍服にも似た厳重な制服を着た警備員が立っていた。
彼らは、空が京へ来たときに見た都市警備隊と同じ、能力者協会の人間だ。
緊張しながら校門を潜ろうとした瞬間、無言で止められた。
「能力者スキャンを通ってください。異能レベルが規定値以下、または有害な魔力反応があれば入場できません」
息を詰めた。
能力者スキャン。
雪月流の体術は魔力を打ち消すことに特化している。その「無魔の体質」が、この機械にどう判定されるのか、予測できなかった。
もし「有害」と判断されれば、入学は即座に取り消されるだろう。
空は緊張しながらスキャナーの前に立った。
冷たい鋼鉄の柱のようなスキャナーから、無機質な魔力の波が空の全身を覆う。
雪月流の呼吸法で制御している微かな「気」すら、スキャナーに読み取られてしまうのではないかと、冷や汗をかいた。
数秒後、スキャナーは無機質な、しかし校内に響き渡る声で音を立てた。
『魔力反応:極微弱。能力値:測定不可。危険度:ゼロ』
『判定:無害』
能力ゼロであることが、ここでは「無害」と判断される。
自分の存在が、この学園にとってセキュリティ上の脅威ではないという烙印を押されたことに、複雑な思いを抱きながら、ようやく校舎へ足を踏み入れた。
その判定は、安堵であると同時に、彼にとっては深い侮辱にも等しかった。
力を持たないことは、脅威にもなれないことを意味していたからだ。
校舎内は、空が外で感じた魔力の圧力がさらに増していた。
能力者たちのオーラが渦巻き、近くの訓練場からは、炎や風の魔法が炸裂する轟音が地鳴りのように響いている。
雪月流の感覚器官は、その魔力の奔流に晒され、頭の奥で警鐘が鳴り響いていた。
まるで、校舎全体が能力者たちの傲慢な力の証明のために作られた、巨大な闘技場であるかのようだ。
この異能の檻の中で、祖父の遺言を果たすために「生き抜く」しかない。
その決意を改めて固め、入学手続きの列へと向かった。