驕りの自覚と武の歓喜
空は、地面に倒れ込むトロールの魔力核に最後の確認の一突きを入れると、その場に膝から崩れ落ちた。
全身が激しい痛みに襲われる。
肺が酸素を貪るように求め、彼の意識の糸は何度も切断されかけた。
血と汗と土に塗れた空の顔に、安堵と屈辱、そして歓喜が入り混じった複雑な表情が浮かんだ。
(危なかった。あの最初の斬撃は、あまりにも軽率だった。一撃で終わるという能力者的な傲慢さがあった。上級生たちは、「確実に勝つ」ために連携し、資源を惜しまなかった。俺は、その効率性を理解していながら、個の絶対的な力に酔っていた。あの時の慢心があれば、俺は確実にトロールの岩の下に埋まっていた)
己の慢心を自覚した。
能力者の力は組織として進化しているのに、雪月流の継承者である自分は、旧時代の武術家の「一騎当千」という幻想に囚われていた。
この屈辱的な激戦は、空に新たな視点を与えた。
彼の武術の理論は、能力者という仮想敵との戦いの中で、より実戦的に、より残酷に進化する必要がある。
脇差を鞘に戻し、トロールの巨大な残骸を見上げた。
(だが、通用する。能力値ゼロの俺が、Aランクパーティを苦しめる魔物を、単独で、純粋な武術だけで倒した。そして、敗北の淵から、雪月流を新たな高みへと昇華させた!)
空の胸ポケットで、黒いカードが冷たい存在感を放つ。
彼は、もはやこのカードに依存するのではなく、利用する資格を手に入れたと確信した。
彼は、命を削ったこの勝利が、能力者社会への最高の宣戦布告になると悟った。
全身の激痛とは裏腹に、空の顔には武術家としての純粋な喜びが広がる。まだ強くなれる。
能力者のシステムの外側で、無限の進化を遂げられる。
血の滲む拳を握りしめ、ダンジョンの闇の中で静かに笑った。