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極限の集中

意識が遠のく中、空は脇差の柄を骨が軋むほど強く握りしめた。



トロールは、空を潰れた虫と認識したのか、致命的な追撃を放つため、再び巨大な角に魔力を集中させ始めた。



猶予は、数秒。



その魔力の集中が完了すれば、空の肉体は確実に消滅する。



極限の痛みを無視し、雪月流の呼吸法を強制的に、暴力的なまでに再起動させた。

全身に散逸し、制御を失っていた「気」の奔流を、脇差の刃と、トロールが魔力を集中させている角の先端へと二点に集中させた。



トロールの体勢を見て、一撃必殺を完全に諦めた。彼の意識は、「倒す」ことではなく、「魔物の制御を崩す」というただ一つの論理に切り替わった。



(一点突破が無理なら、魔力の流れを乱す。トロールの角への魔力集中が、トロールの意識の全てだ。あそこを狙え!魔力そのものを武の力で強制的に逆流させる!)



岩壁に叩きつけられた体勢から、血の滲む手で脇差を握り直し、トロールの角へと水平に、全身の力を込めて突き出す。



その突きは、もはや優雅な剣術ではない。全身の「気」のエネルギーを込めた、一点への投射、すなわち「無魔の体術」の破壊的な本質の顕現だった。


空の心には、武術家としての生存本能と、雪月流の新たな戦術を確立するという狂気的な執念しか残っていなかった。

彼は、自己の命を賭けた実験に、最後の望みを託した。




雪月流、月光穿孔げっこうせんこう



渾身の突きは、トロールの魔力を集中させた巨大な角の先端に、甲高い金属音と共に命中した。

トロールの角から放たれる高密度の魔力と、空の「気」を収束した無魔の刃が激しく衝突する。

その衝突は、魔力と「気」という、世界の根源的な力の対立であり、洞窟内に眩い火花と強烈な衝撃波を巻き起こした。



トロールの魔力は、空の「気」の奔流によって強制的に逆流させられ、トロールの全身の魔力制御が一時的に崩壊した。

トロールの巨体が激しく痙攣し、角に集中していた魔力が不規則な脈動に変わる。



ブチッ



トロールの体内の魔力制御が乱れた瞬間、空は魔物の体表の魔力保護がわずかに弱まるのを全身の皮膚で察知した。



空は、脇差を手首の力だけで引き抜くと、トロールの巨体に自身の身を乗せるように飛び上がり、岩の甲殻の継ぎ目を、何度も何度も、矢継ぎ早に突き刺した。



もはや、一撃必殺の美学は存在しない。



それは、流麗な剣舞ではなく、狂気的なまでの速度と精度による、純粋な破壊行為だった。



空の体術は、「一撃で勝つ」という傲慢を捨て、能力者の連携にも似た「連続した最適解の実行」へと進化していた。



トロールは、体内魔力の逆流と甲殻の継ぎ目からの「気」の侵入により、全身が麻痺し、ついに巨大な悲鳴と共に、その場に崩れ落ちた。

勝利は、空の傲慢な一撃ではなく、極限状態での戦術の転換と、命を削る連続攻撃によって、まさに紙一重で掴み取られた。



空の脇差の刃は、トロールの完全に制御を失った魔力核を、最後の突きで貫いた。

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