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試される確信

数日間の極限の修練を経て、空は低層ダンジョンのさらに奥、中層との境界線に近い、人影のないエリアに踏み込んだ。彼の求める「証明」に必要な獲物は、すぐに姿を現した。



それは、『アーマード・トロール』。

その巨躯は四肢の全てが硬質な魔力岩で覆われ、鈍重ながらもその一撃はAランクの防御魔法を紙切れのように砕くと言われる魔物だった。



空は、この魔物こそが、彼が否定しようと試みる能力者の組織力を上回る「個の絶対的な力」を示すための、決定的な試金石だと確信した。

心臓は、この巨大な敵を前にして、不安ではなく、武術家としての純粋な闘志で激しく脈打っていた。



空は、トロールが放つ重く、淀んだ魔力を感じ取りながら、雪月流の呼吸法を用いて「気」の完全な拡散に入った。空の存在感は、洞窟内の湿った空気や魔力の靄の中に溶け込み、トロールの鈍い魔力感知は、彼の存在を全く捉えられない。

トロールは、周囲の岩壁を鈍く唸らせながら徘徊し、能力者の接近を待っている。



汚れたFランクの作業服のまま、武術家としての純粋な闘志を燃やした。



この魔物は、空が日々雑務で頭を下げてきたAランクの能力者たちが、三人がかりでやっと攻略できるかどうかというレベルの強敵だ。



冷静にトロールの体躯の構造を分析した。

その防御は、魔力的な硬化に依存している。

能力者は、自身の魔力付与された刃で、魔力の壁を力づくで貫くことを常套手段とする。



しかし、空の無魔の体術は、その魔力の壁を物理的な構造の脆さとして捉える。

魔力の鎧は、魔力核から全身へと供給されているが、その供給のパイプラインには必ず継ぎ目が存在する。



空が狙うのは、その継ぎ目、特に首の付け根という、魔力供給が一時的に分散する一点だった。



(この魔物に対し、能力者は長期戦を選ぶ。魔力と連携で消耗戦を仕掛ける。だが、俺の戦術は違う。一撃で終わらせる。トロールがその鈍重さゆえに魔力の集中を怠る、一瞬の呼吸の隙に、全てを賭ける)



空の心には、上級生パーティの組織的な連携への強烈な対抗意識が満ちていた。



彼らの勝利はシステムによるものだ。



空は、そのシステムを無力化し、個の力が組織の力を凌駕することを証明しなければならない。



脇差の柄を握りしめ、自身の武術の絶対性に、全ての流派の誇りを託した。

トロールの巨体が方向転換する際の、わずか0.5秒の微細な体勢の乱れを、雪月流の極限の集中力で待ち構えた。



この瞬間が、能力者社会への静かなる反逆の始まりとなる。

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