戦術の確立
上級生パーティの組織的な勝利を洞窟の闇から観察した後、空の頭の中は、もはやFランクの雑務や低級魔物との小競り合いといった瑣末な事柄ではなく、能力者の戦術の解析と、それに対抗する雪月流の冷徹な戦略で完全に満たされていた。
あの日の戦闘の記憶を何度も何度も脳内で反復し、「もし空がそこにいたなら」という仮定の下で、雪月流の戦術を極限の効率へと昇華させていった。
彼の分析は、魔力というシステムの絶対的な強さではなく、その論理的な構造に内在する欠陥を見抜くことに集中していた。
空が最も注視したのは、彼らの戦いの心臓部であった防御役の結界だった。
あの結界は、Aランク能力者三人分の魔力という莫大な資源によって維持されていた。
それは、単なる魔力の壁ではなく、能力者たちの絶対的な信頼と綿密な連携によって成り立つ社会的な障壁そのものでもあった。
しかし、空は、その結界が、支援役の能力者が意識を集中する特定の場所に「維持点」を持つことを、雪月流の微細な魔力感知から看破していた。
能力者たちは、結界という「面」の防御に頼り、絶対の安全を確信するあまり、その結界を支える「点」の脆弱性を完全に無視している。
空の戦術は、その維持点までを最速の速度で踏み込み、「気」を収束した掌底や脇差の柄で一点突破し、結界を内部から崩壊させるという、極めて非対称な攻撃の設計図を描いていた。
さらに、雷系統の攻撃役が放つ雷撃の発動と、防御役が結界を修復する間のわずか0.3秒の「隙」が、空の生命線となることも見抜いた。
この0.3秒という極限の時間は、能力者たちが魔力の奔流に意識を集中するがゆえに生まれる避けられない遅延であり、空の絶対的な速度がなければ到達不能な領域だった。
この超短時間の中で、まず支援役の呼吸を乱し、その影響が波及する一瞬の連携の崩壊を狙って、防御役の結界の維持点に体術をねじ込む連鎖的な攻撃を完成させる必要があった。
空は、能力者たちが魔力という「量」で、「資源の消耗戦」を戦うのに対し、自分は「質」と「速度」で、「一点の破壊」を戦うことを決意した。
彼の無魔の体術は、魔力とは無縁の「気」による制御であり、能力者たちが避けて通れない魔力切れや連携の乱れを一切考慮しない、絶対的な先制攻撃を可能にする。
この純粋な「個」の武が、能力者の「集団」に勝ることを証明することこそが、空の流派再興の道であり、存在証明そのものだった。