武術家の渇望
上級生パーティの戦闘は、クライマックスを迎えていた。
雷系統の攻撃役が魔物の動きを完全に麻痺させた一瞬、防御役が結界を一点に集中し、リーダー格の水の刃が魔物核の上の甲殻に決定的な亀裂を入れた。
そして、パーティ全員の最後の魔力を込めた一斉攻撃が、亀裂へと流れ込む。
ドォン!
巨大な爆発音が洞窟全体に響き渡り、アイアンホーンは甲高い悲鳴を上げて崩れ落ちた。
勝利は危なげなく、論理的に達成された。
彼らは、空が一刀で済ませるであろう時間をかけて、魔力という資源を最大限に活用して勝利したのだ。
空は、その勝利の余韻の中で、岩陰から立ち去ろうとした。
しかし、その瞬間、空の心の中で、不安を凌駕する別の感情が湧き上がった。
それは、能力者社会への静かなる反骨心と、武術家としての根源的な興奮だった。
(彼らの戦闘は完璧だ。だが、彼らは能力という檻の中にいる。彼らの戦術は、魔力の限界によって常に制約される。しかし、俺の雪月流は、その限界の外側にいる)
脇差の柄に触れた。
月光一刀。
彼の一撃は、数秒間の詠唱もパーティの連携も必要としない。
魔力という大前提を覆し、純粋な肉体と技術のみで一瞬の決着をつけられる。
このシンプルで絶対的な力こそが、雪月流が能力者社会に対抗するための唯一無二の価値だ。
空の不安は、期待へと変わった。
彼が目指すべき道は、能力者の真似をすることでも、彼らに組み込まれることでもない。
この魔力の世界において、「無魔の体術」の存在そのものが、どれほど規格外の脅威であるかを、能力者社会の頂点にいる者たちに突きつけることだ。
ポケットの黒いカードの冷たさを感じた。
黎明の月に応じるにしても、圧倒的な実力を背景に対等、あるいは優位な立場で交渉するためには、この個の絶対的な力を、より大きな魔物や、より強力な能力者相手に証明する必要がある。
空は、上級生パーティが戦利品の魔石を回収し、歓声を上げながら洞窟の奥へと進んでいくのを見送った。
彼らの勝利の光が、空の影を深く長く引き伸ばす。
空は、Fランクの作業服のまま、彼らが残した戦いの残滓を踏みしめ、自身の武道家としての道への確信を深めた。
「次の獲物は、もっと力の証明になるものだ」
静かに洞窟の通路を逆方向へと戻った。
彼の心は、流派再興という重い責任と、未知の強敵との対決への武術家としての純粋な興奮に満ちていた。