決定的な違い
上級生パーティの危なげのない戦術をさらに分析した。
リーダー格の生徒が放つ精密な水の刃が、魔物の角の付け根という魔力保護の薄い一点を執拗に狙っている。
それは、長期戦を視野に入れた、確実な弱点攻撃だった。彼らは焦っていない。
自分たちの魔力と資源が、この魔物に確実に勝ることを知っているからだ。
心の中に、一つの疑問が突き刺さった。
(俺の「無魔の体術」は、この戦いに「不可欠」か?)
もし空が今、この戦闘に飛び込んだとしても、彼の脇差による一撃は、魔物を一瞬で沈めることができるだろう。
しかし、その結果はどうなる?
彼はFランクの雑務員として、能力者社会のシステムを脅かし、異端者として認識される。
一方、上級生たちは、時間さえかければ、彼らのシステムの中でこの魔物を確実に倒せる。彼らは助けを必要としていないのだ。
空は、自身の生存と流派の再興という目的を再確認した。
彼の目的は、ヒーローになることでも、能力者の命を救うことでもない。
雪月流の力を証明し、富を得ることだ。
彼の無魔の体術は、魔力システムを無効化する力としては圧倒的だ。
しかし、その力は組織的な支援がなく、極度の集中力を必要とする。
対する能力者たちは、互いに魔力を補い合い、安定した出力を維持している。
能力者社会の真の強さを目の当たりにした。
それは、個々の戦闘力ではなく、魔力という共通言語による圧倒的な「組織力」だった。
空の個の力は、この巨大な組織力に対抗するには、あまりにも孤独で、脆いのではないかという不安が、空の胸を締め付けた。
(俺は、この巨大な能力者という構造の中で、「一人の武術家」として生き残れるのか?それとも、黎明の月の「道具」として、その組織力に組み込まれるしかないのか?)
空は、脇差の柄を強く握りしめた。彼のFランクの雑務員という地位は、彼が能力者社会に存在する唯一の接点だ。
その接点すら失えば、彼は完全に社会の外側に放り出される。
この眼前の戦闘は、空に「黎明の月」への依存ではなく、「自らの立ち位置の確立」の切迫性を突きつけた。