第96話 旅行は移動中の車内も盛り上がる
服屋を後にした俺たちは、念願の海へ向かうために九重さんの車に乗り込んだ。
「なあ、皆は、どんな水着、買ったんだ?」
海までの道中も楽しもうと考え、俺は皆に話を振る。
「まあ、ぼくは無難なものにしたかな。目立つのは嫌だからね」
「そうなのか。でも、楽しみだぜ、笛吹の水着」
「そ、そうか……。あまり期待しないでくれたまえ」
耳の上にある髪をかき上げ、しおらしくする笛吹。
「亜玖里さんは、どんな感じの水着にしたんだ?」
「私は……秘密かな、えへへ」
照れくさそうにしている亜玖里さん。その表情もグッドだ。
「っていうか、女子に水着を聞くの、気持ち悪いからやめた方がいいわよ。このノンデリ男っ!」
「そこまで言うか⁉ 俺はただ、せっかくだから場を盛り上げたくて……」
「だとしてもキモいのは、キモいわよ」
責められる俺を、助手席から二部崎先生がフォローしてくれた。
「まあまあ、赤槻、落ち着いて。青山も、なにも、悪気があったわけじゃないと思うぞ。だよな、青山?」
「うすうす」
「ということで、許してやりな、赤槻」
「なんか私が悪者になっているみたいで釈然としないけれど、まあいいわ」
「青山に朗報だ。赤槻が買った水着、“とんでもねえ”ぞ……」
「なんですと!」
一体、どんな水着なんだ⁉
俺、ワクワクが止まらないぞ!
「にやけないでよ、ヘンタイ!」
赤槻にチョップされた。
というか、チョップ自体は良いけど、亜玖里さん越しにやるの、やめて差し上げろよ。
彼女が困惑しているではないか。
「海まで、もうちょっと時間かかるみたいだから、亜玖里さんも入れてゲームとかしたらどうだ? 《アオハル部》といえばゲームだろ? せっかくだから今日だけでも亜玖里さんを《アオハル部》に入部させてあげたらどうだ?」
そんな、粋な提案をしてくれたのは二部崎先生だ。
「妙案だ。それ賛成。皆もいいよな?」
「うむ、無論じゃ」
「ゲームならば大歓迎だよ」
「構わないわ」
「亜玖里さんもそれでいいかな?」
「うん……楽しそう」
皆も提案に乗ってくれたようだ。
この旅を通して、皆、ノリが良くなってきたじゃねえの。
「じゃあ、ゲーム担当、笛吹大臣。この場で出来る最適なゲームを教えてくれ」
「ゲーム担当大臣?」
亜玖里さんは聞きなれない言葉に首を傾げている。
それはそうだろう。たった今、俺が編み出した言葉だからな。
「あそこにいる笛吹っていうお姉ちゃんは、ゲームが好きなんだ」
「へー、そうなんだ」
「そんな大臣になった覚えはないぞ。まあ、ゲームが好きなのは事実だが」
「それで、なんかないの?」
「ぼくをゲーム専用の辞書みたいな扱いをするでない。……ちょっと待っていてくれ」
笛吹は腕組みをして目を瞑り、一生懸命考えてくれているらしい。
考えること数分、何か思いついたようで、笛吹の目がクワッと見開いた。
何だよ、覚醒でもしたのかよ。
「古今東西ゲームというのはどうだろうか?」
「なんだっけ、それ。聞いたことはあるけれども」
「ルールは単純。お題に沿ったものを順番に答えるだけ。例えば『食べ物の名前』がお題だったら、食べ物の名前を順番に答えるだけだ」
「あー、それね。面白そうじゃん。やってみようぜ」
「我も賛成じゃ」
「構わないわ」
「よっし、亜玖里さんは大丈夫?」
「うん、大丈夫そう」
「おっけ。九重さんと二部崎先生は参加しますか?」
「私は見ているだけにしようかな」
「私も運転中なのでパスよ~」
ということで、参加者は《アオハル部》の面々プラス、亜玖里さんの五名。
「お題はどうするんだ?」
「平等になるように知識の偏りが無い方が良いね。例えばゲームの名前とかだったらぼくが有利すぎるし、中二病の技名だったら比屋根サンが有利すぎるだろ?」
「確かに」
「我はそのお題がよい!」
「家で、一人でやっていてくれ」
「だったら授業の名前とかどうかしら? ほら、全員、学校に通っているでしょ?」
「おっ、良いじゃないか。亜玖里さんが居るから、小学校と高校で授業の違いがあって、盛り上がりそうだな。亜玖里さんも大丈夫そう?」
「自信ないけど大丈夫だよ」
「おっけ」
赤槻の妙案により、お題は『授業の名前』なった。
順番は笛吹→比屋根→亜玖里さん→赤槻→俺となった。
「ぼくからだね。数学」
「歴史じゃ」
「待て、比屋根。歴史って世界史と日本史、二種類ないか?」
「ふむ、じゃあ、世界史じゃ」
「次は亜玖里さんだね」
「うん……えっと、国語」
「そうくるよね。じゃあ、俺、日本史貰いっ」
「相変わらずズルいのね」
「相変わらずって何だよ。いつも、俺がズルしているみたいじゃん!」
「はいはい」
「軽く流すな」
「私ね。生物」
「なるほど、理科系は掘り出し物が一杯ありそうだね。化学」
「物理じゃ。我は物理法則を――」
「次は亜玖里さんだね」
「ちょっ、我のセリフが……」
「えっと、算数は大丈夫?」
「そっか、さっき、数学言ったから。でも、いいんじゃない? 算数と数学は別物だろ? なあ、皆?」
「そうね。高校と小学校の違いが出て、面白くていいじゃない」
「分かった、じゃあ算数」
「俺はそうだな~、えっと~」
「あら、もうギブアップ?」
「んなわけないって。あっ、体育!」
「なるほど。地理で」
「音楽」
「美術」
「図工……とか」
「あー、懐かしいな」
「小学校ならではだな」
そんなこんなで古今東西ゲームに夢中になっていると、
「おーい、皆、海、着いたぞ~」
二部崎先生が声をかける。
見ると、青に染まる煌びやかな海が一面に広がっていた。




