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第94話 中二病少女もオシャレをすれば可愛い

 俺たちはワンボックスカーに乗り込み、スケジュール表を運転手である九重さんに手渡した。

 九重さんは俺たちが考案したスケジュールを、真剣な顔で読み込んでいく。


「へー。なかなか盛沢山ね。分かったわ。超特急で届けてあげるわね」

「あの……安全運転でお願いします」

「勿論、分かっているわよ」

「結構、スケジュールかつかつっすか?」

「まあ、大丈夫じゃない。場所は把握しているし」

「あざっす」


 なんて頼りになるんだ、九重さん。

 九重さんを一家に一台欲しい。

 ちなみに、席の配置はというと、運転席に九重さん、助手席に二部崎先生、真ん中の席に笛吹と比屋根、後部座席に俺と、赤槻、間を挟むように亜玖里さんがいる。

 つまり、亜玖里さんの両隣に、俺と赤槻がいるという構図だ。


「あの……」


 おずおずと、亜玖里さんが何かを言いたげにしている。


「何かな、亜玖里さん」

「今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」

「色々行くよ。まずは海。その前に水着を買いに行く予定。亜玖里さんは水着持っている?」

「そうなんだ。水着、持ってない」

「よし、じゃあ、俺たちと一緒に買ってみよう」

「うん。分かった」

「そんな感じで大丈夫ですか、九重さん?」


 心配なので、一応九重さんに確認をしてもらう。

 しっかり大人に監査してもらわないとね。


「お金の方は問題ナッシングよ。亜玖里さんのご両親にお金を用意してもらったから」

「それなら、一安心。あの……それで、亜玖里さんのご両親はなんて言っているんですか? 勝手に娘さんを連れ出して、怒っているとか」

「安心してちょうだい。むしろ、その逆よ。あなたたちにはすごく感謝しているわ」

「それなら良かったです」


 一つの不安が取り除かれ、そっと胸をなでおろした。


「もうすぐ、着くわよ」


 程なくして、ワンボックスカーは駐車場に止まった。

 訪れたのは、東京にもある安さがウリの衣料品店だ。

 店舗でっけえ。田舎の店舗って都会のそれとは比べ物にならないよね。

 これなら、良さげな水着が見つかるはず。

 車から出て外気にさらされると、徐々に気温が上がっており、じりじりとした朝日が皮膚に照り付ける。

 今日もカンカン照りで暑くなりそう。


 イコール、絶好の海水浴日和だ!


 予定通り、開店時刻ぴったりに入店を果たす。

 しっかりと冷房が効いていて、店内は快適だ。

 俺はできるだけ亜玖里さんの横について、積極的にコミュニケーションを図る。


「亜玖里さん、海水浴は大丈夫そう?」

「うん。自信ないけど」

「自分のペースで大丈夫だから」

「分かった」

「やっぱりこの辺に住んでいる子は、海水浴はよく行くの?」

「そうだね。私はあまり行ったことないかな。海を見るのは好きだけど、泳ぐのはあんまり」

「そうなんだ」

「昔、お母さんに連れられて、行ったことあるけど。それっきり」

「そっか」

「だから、ちょっと楽しみ」

「良かった」


 着実に亜玖里さんとの心の距離が詰まっている。

 なんだか、その事実ですごく幸福感に満ち溢れている。


「って、貴方、平然と女性用水着コーナーに入ってこないでくれるかしら?」

「うお!」


 亜玖里さんとの話に夢中になって、槻に指摘されるまで気づかなかった。

 俺が誤って侵入してしまったエリアは、女性用水着コーナー。

 健全男性高校生には刺激が強すぎるエッッ! な水着が俺の視界を埋め尽くしている。

 昨日の女風呂未遂に加え、また大罪を重ねるところだった。


「亜玖里さん、こっちに来て、私と一緒に水着を選びましょうね」


 赤槻は俺の魔の手から救うように、亜玖里さんをこちらへ引き寄せる。

 亜玖里さんは俺に小さく手を振って、赤槻のもとへと向かった。

 なんていい子なんだ。


 ということで、追い出された俺は独りぼっち。なんで定期的に孤独感を味わわないといけないんだ。

 適当に紳士服コーナーを物色していると、ちょこんとちっこい存在が目の前に立っていた。


「比屋根か、どうした?」

「我は水着を用意しているからな。暇なのじゃ」

「そういえば、そうだったな」


 改めて比屋根の格好を見る。

 黒マントに三角帽子、そして魔法のステッキ……。


 コミケやコスプレ会場だったら適した格好だが、普通の遊びに行くなどのプライベートだったら明らかに不適切な格好だ。

 だから、俺は妙案を思いつく。


「比屋根、服を買おう!」

「むむ!」


 そう、せっかくの機会だから、ここで“ちゃんとした”服を買おうという魂胆だ。


「いやじゃ! 我はこの装備と共に生きていくのじゃ!」


 そう来ると思ったぜ。


「落ち着け、比屋根。お前は万年の魔女とかいうとんでもない存在なんだろ? だったら普段は正体を隠すために、違うコスチュームを纏うべきなんじゃないのか?」

「なるほど、変装か!」


 よし、食いついてきた。


 あとは、彼女のコーディネイトを選んであげるだけだ。

 正直、オシャレに無頓着な俺が、女性の服を選ぶなんてハードルが高すぎるが、年中魔女コスプレ女よりは幾分マシだろう。

 ということで、彼女に合いそうな恰好をピックアップ。


「これとかどうだ? 試着してみないか?」

「うむ……。万年の魔女にはふさわしくない恰好じゃな……」

「そんなことないぞ! 似合っていると思うぜ!」

「そうか……ならやる」


 満更でもない様子で、比屋根は試着室に入っていった。

 暫くすると、試着室から俺がチョイスした服装を纏った比屋根が出てきた。

 白を基調としたブラウスにプリーツスカートという、清楚純度百パーセントのコーディネイト。


「どうじゃ?」

「これは……」


 百点満点。

 お前誰やねん! とツッコミたくなるほどに、小柄な清楚系美少女が爆誕していた。

 つーか、比屋根ってこんなに可愛かったんだな。いつもヘンテコな格好をしているから、そういうことすら考えたことなかったから驚きだ。

 なんか急にドキドキしてきたな。


「どうなのじゃ?」

「めちゃくちゃ似合っているぞ!」


 比屋根は顔を赤らめながら、


「じゃあ……買う」


 レジへと向かっていった。

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