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第9話 男子高校生は皆おっぱいが好き

「ただいま~。どうだ、掃除終わったか? 飲み物買ってきたぞ。……って、どういう状況?」


 二部崎先生が戻ってきたタイミングはわりと最悪だった。


 自分の靴下を持つ赤槻、悶絶する俺、散らばるガラクタ達……。


「青山が私の胸を触ってきたので、軽い処罰をさせていただきました」

「それは誠か、青山! いつかやるとは思ったが、いくら何でも早すぎるぞ。担任としてショックだ……」

「何、真に受けているんですか、先生! 確かに触ってしまったのは事実ですが、不可抗力です! 掃除していたら、そこに散乱しているガラクタに押しつぶされて、偶然触ってしまったんです!」

「まあ、えてして加害者というものは、言い訳を並べるものだからな」


 【悲報】判決の結果、俺、有罪。


 ……って、そんなバカな⁉


「裁判長、判決の内容ですが」


 赤槻は二部崎先生に耳打ちをしている。

 なんか、いつの間にか、二部崎先生が裁判長になっているし。


「なるほど。被告人、青山春海。きみを『靴下の刑』に処する」

「ぎゃあああああああ!」


 俺は反射的に悲鳴を上げてしまう。


 この世のものとは思えない強烈な臭いが俺の脳にフラッシュバックして、トラウマを引き起こしている。


「覚悟はいいかしら、青山」


 赤槻は靴下を目の前でひらひらと揺らしている。


「勘弁してください! お情けを!」

「なるほど。よし、ちょっと待った、赤槻。情状酌量の余地はありそうだ」

「仕方ないですね」


 許された……のか?


「被告人、きみは不可抗力で被害者の胸を触ってしまったというが、本当にきみは『赤槻暁美の胸』に興味は無かったのかな?」

「うぐっ……それは……興味は無い……は、その……嘘になります」

「つまり、興味あると」

「……はい」


 結局、首を縦に振ってしまう俺。

 これ、あれだろ。誘導尋問ってやつだろ。


「やはりか」

「裁判長、情状酌量の余地はないかと」


 ヤバい……。このままでは敗北濃厚だ……。


 こうなったら俺の得意技、開き直りをしてやる。


「いや、それ当たり前ですよね? 逆にこの思春期ど真ん中の男子高校生という身分で、女子のおっぱいに興味無い人なんているんですか? 居たら教えてくださいよ。  

 良いですか? おっぱいというものは、雄を誘惑するために発達したものですよ? つまり、俺の反応は生物的に見れば極めて正常です。逆に男子でおっぱいに興味がない方が異常なのです。つまり、俺は正常なので、無罪を求刑します!」


 よし、決まった。科学的根拠に基づいた、反論の余地もない完璧な答弁だ。

 俺の……勝……ち!


「よし、青山春海。きみを極刑に処す」

「なんでやねん!」


 ☆


「……とまあ、遊びはこの辺にして、打ち上げでもしようじゃないか。最寄りのコンビニでジュース買ってきたぞ」


 二部崎先生は座卓に1.5リットルのグレープ系の炭酸ジュースを置いた。


「コップ無いっすけど?」

「そこにあるんじゃないか?」


 二部崎先生が指さしたのは、諸悪の根源となった押入れに詰められていたガラクタ群。

 そのガラクタをよく見ると、確かにコップもあった。皿みたいなものもあった。


「先生。このガラクタ、押入れの中から落ちてきたんですけど、これって《アオハル部》の備品ですか?」

「そうだ。卒業生が使っていた物だ。そうかそうか。そういえば押入れに突っ込んでいたんだっけ。言ってなくってすまなかった」

「危うく怪我しそうになりましたよ。しかもそれのせいで極刑になったし」

「まあ、まわりまわって赤槻のおっぱいを触れたのだから、良かったではないか」

「教師がなんてこと言っているんですか!」


 赤槻が激こうしながら間に入ってくる。

 これに関しては、赤槻が120%正しい。


「コホン、すまんすまん」

「コップ割れていないと思ったら、プラスチック製なんすね。プラスチック製で良かった。割れたら大惨事でしたよ」

「さすがにガラスのコップを押入れには突っ込まんよ」

「いや、コップ自体押入れに突っ込むものではない気がするのですが」

「細かいことは良いから、飲もうか」

「長年押入れに突っ込んでいたからか、このコップ埃だらけなんですけど。やっぱり押入れにコップはどう考えてもおかしいですよね」

「そうか。じゃあ、廊下に共用の水道があるから、そこで洗ってきたらどうだ?」

「へい」


 三個のコップを手に持ち、部室を出て水道へと向かった。


「お待たせしました~」


 部室に戻ってくると、俺の帰りを赤槻と二部崎先生は不貞腐れて待っていた。


「遅いぞ~、青山~」

「待ちくたびれたわよ」


 その態度に少し苛立ちを覚えた俺は、わざとらしくきれいに洗ってきたコップを強く置いた。


「なんで、そんな偉そうなんですか⁉」

「うーん、咎人だから?」

「そのノリまだ続いていたんすか⁉」

「ノリだって? まさか私の胸を揉んだという事実を、風化させようとしているのではないでしょうね?」

「それに関しては本当に申し訳ないけど!」

「きみは『使い走りの刑』に処されているのだから、それくらいやってくれたまえ」

「そんな刑罰だったんすか、俺。初聞きですけど」

「それを言うなら初耳よ。性欲も猿レベルだと思ったら、頭脳も猿レベルなのね。さすが青山」

「へー、猿って頭いいんだな」

「貴方、自分がディスられていることにすら気づいていないの?」

「よし、飲みましょう! 使い走り、ありがたくジュース、注がせていただきます!」


 俺は皆のコップに並々と注ぎ、「かんぱーい」と音頭を取る。


 皆はコップを口に向かって傾ける。

 炭酸飲料の刺激が喉に直撃する。


 かぁー、たまらないなあ……。

 一仕事終えた炭酸飲料は絶対に裏切らない。

 今考えたこの言葉を座右の銘にしたいくらい、炭酸ジュースが美味い。

 炭酸ジュースの効果はすさまじいらしく、あれだけ荒れていた赤槻も落ち着いている。

 なんだか今日一番の和やかな雰囲気が流れ始める。


 なんだか行けそうじゃん、この部活!


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