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第7話 掃除ってやる前は面倒くさいけど、やりだすと案外楽しいよね

「ねえ、ちゃんと持っているの? すこぶる重いわよ」

「持ってるよ! むしろ赤槻の方こそ、全然持ってないだろ!」


 掃除するために座卓を部室の外へと持ち運んでいるだけなのに、俺と赤槻は早くも揉め始める。


「もしかして、女性にたくさん持てと、そういう風に言っているの? 本当にデリカシーのかけらもない男ね、貴方は。というか、気軽に私の名前を呼び捨てしないでくれるかしら? 赤槻さん、もしくは、赤槻様と呼びなさい」

「女王様か、お前は。いやだ、俺は意地でも赤槻って呼ぶ」

「はぁ? そんなところで意固地になるの意味分からないわ!」


 赤槻は急に座卓を持っていた両手を離す。


 ガーン、という座卓の足と床の部分がぶつかった衝撃音が部室に鳴り響く。

 座卓の重量が俺に集中すると、それに耐え切れなくなり、思わず手を放してしまう。

 すると、座卓の天板に俺の太ももがクリーンヒットした。


「いったあああああああああ!」

「急に大声出さないで。やはり貴方は人間に満たない獣のようね。耳障りなのでやめてほしいわ」

「うるせえ! お前のせいだからな!」

「はあ、貴方と話すと疲れて仕方ないわね」


 赤槻はさも自分の役目を終えたかのように、その場に座り込む。


「最後まで運べ!」


「おーい、お前ら、ちゃんとやっているか。よその部活から掃除用具借りてきたぞ」


 そこへ、ホウキ、チリトリ、雑巾、はたき等、掃除用具一式を担いだ二部崎先生がやってくる。


「先生、聞いてください。この男、全く以て使えません。使えないどころか急に奇声を発し、不愉快極まりないです」

「はあ⁉ 二部崎先生、この女に騙されないでください! 全く使えないのはこいつです! 座卓を一緒に持っていたんすけど、急に離すせいで、俺の太ももが負傷しました!」


 二部崎先生は頷きながら、双方の意見を聞いている。


「ふむ。とりあえず、仲良くなったみたいだな。先生、安心したぞ」


「「どこが⁉」」


「ほら、息ピッタリじゃないか」


 ぐるる、とにらみ合う俺たち。


 ……こんなんで大丈夫か、本当に。


 二部崎先生がまたどっか行ってしまい、残されたのは俺と赤槻と掃除用具。

 どうやら、協力して掃除するほか、無いらしい。


 一向に足並みがそろわない中、《アオハル部》活動一発目、清掃活動が始まった。

 赤槻は先生が持ってきた踏み台を使い、面倒くさそうな顔をして窓や壁のホコリをはたきで払っている。

 ということで、俺は赤槻のはたきによって落ちてきたホコリや床にあるゴミをホウキとチリトリで処理することに。


「おい、赤槻! 俺が下に居る時に叩くんじゃない! ホコリが頭にかかるだろ!」

「あら、貴方もホコリのようなものなのだから、いいのでは?」

「誰がホコリだ! ホコリはホコリでも、どちらかとういうと誇り高き方の誇りだぞ!」

「どうでもいいけれど、掃除が下手すぎない? 全然、ゴミ取れていないわよ。まあ、仕方ないわよね。いつも、ママにやってもらっているのだものね」

「たまに、自分でも掃除するわ! たまにな! つーか、お前の方こそ喋ってばっかりで手が止まっているぞ。そうかそうか、俺と話すのがそんなに楽しいのか」

「はあ? そんなわけないでしょ! むしろ、貴方の方こそ、こんなビジュが良い私と話しが出来て、嬉しいのでしょ? ねえ、童貞さん」

「なっ! どどどどど、どーていだって⁉ そんなの分からないだろ!」

「ああ、もういいわ。その反応だけで童貞丸出しなの分からないのかしら」

「ふん、そうだとも! 童貞で何が悪い! 男は生まれた時は皆、童貞なのさ! それが遅いか早いかだけの問題だろ! そういうお前こそ、絶対処女だろ!」

「はっ、キモ。普通にセクハラなんだけど。すみませーん、警察の方はいらっしゃいませんか~?」

「『この中にお医者さんはいませんか?』みたいに言うな」

「その、『ワードセンスあります』みたいなしたり顔するのやめてもらえるかしら? 普通に不愉快だから」

「へいへい」

「そういえば、貴方が噂の『イキリ陰キャ』よね? よく、クラスの人間が口にしているわ」


 そのワードを耳にした瞬間、自然と持っていたホウキとチリトリが手から零れ落ちた。

 やはり、その言葉は少なからず俺にトラウマを植え付けているようで、身体が小刻みに震え始める。


 ……赤槻も、俺を虐げる学校にいるその他大勢と一緒なんだ。


 俺に居場所なんて……。


「……そうだよ。噂の『イキリ陰キャの青山』だ」


 赤槻は持っていたはたきを、不機嫌そうな顔で俺に向けた。


「なんで、そんな風に呼ばれているの?」


 俺は正直に話した。


 陰キャであるにも関わらず、陽キャを装って、身の程を弁えず、勘違いして、クラス一の美少女、枯葉咲華蓮に告白し玉砕し、それが広まり、勘違いイキリ陰キャ野郎として名をはせてしまったことを。


 俺の話を聞いた赤槻は、みるみる不機嫌になり、しまいには苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


「ふん、そう。やっぱり、貴方は嫌いよ」


 ですよね……。


 やはり、俺は誰からも嫌われる運命を背負っている。

 決して『青春』を送れない側の人間なのだ。


「……でも、クラスの連中はもっと嫌い。身の程とか、陰キャとか、陽キャとか、スクールカーストとか、本当に頭が悪い。私たちはただの高校生という身分。それ以上でもそれ以下でもない。そんな目に見えない曖昧なものにこだわって、いがみ合って何が楽しいのかしら」


 赤槻は自分も思うところがあるようで、恐ろしいほどの熱弁を披露していた。


「赤槻……」


 その言葉はわりと俺にとっての救いであった。

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