第63話 小学生はなんだかんだいってゲームと魔法が大好き
『もりもり亭』さんのご厚意により、牛丼をごちそうになり体力が回復した俺たちは、次なるボランティアに向けて、公民館に訪れた。
ちなみに、二部崎先生は先に宿に向かって、チェックインの手続きを済ませているらしい。
……とか、言い分並べて、一人、宿で楽しみたいだけだろ、と、俺は睨んでいる。
九重さんが説明を始める。
「これから、皆にやってもらうのは、子どもたちの遊び相手よ。全員可愛い小学生。低学年から高学年の子たちで、いづれも被災した影響で心が不安定になっているようね。仲良く遊んで、心のケアをしてほしいわ」
責任の重大さを感じ、背筋が固くなるのを感じる。
それは他の皆も同様のようで、表情が強張っている。
「……が、頑張ります」
「青山君、そんなに緊張しないで。可愛い顔が台無しよ。子どもたちとは既に私が面識あるし、皆は深く考えずに、気楽に子どもたちと接すればいいの」
その言葉を聞いて、溜飲が下がった。
それなら、大丈夫そうだ。
公民館にある一番大きなホールに行くと、遊び相手をさせていただく小学生たちが既にいた。
久中さんが子どもたちに向かって、元気よく挨拶した。
「みんな、こんにちはー。今日はここにいるお兄さんとお姉さんが遊び相手をしてくれるみたいよー。じゃあ、皆、自己紹介おねがーい」
九重さんに促されて、俺たちは緊張した面持ちで、子どもたちに向けて自己紹介を始めた。
「高校生の青山春海だ。今日は皆と遊びに来たぞ。よろしくな」
「同じく赤槻暁美よ。お手柔らかに頼むわ」
「万年の魔女・ヒヨテリウスじゃ! 比屋根日和なる仮の名で活動しているぞ」
「笛吹風雪。ゲームの時使うユーザーネームはフブキだ」
お決まりのヘンテコ自己紹介を小学生に披露する、謎の集団《アオハル部》の面々。
……県を跨ぎ俺たちの変さが伝播するのが、無性に恥ずかしくなってしまう。
だが、小学生には好評のようで、嬉々とした目でこちらを見つめている。
そうだよな。この子たちは辛い思いをしてきたんだ。こんな俺たちでも、少しでも、この子たちの助けになったら嬉しいぜ。
俺たちは現地の子どもたちと戯れる。
「魔女だ、魔女!」
「コスプレ!」
「これ、本物~?」
すると、小学生たちは一斉に比屋根の周りを囲んだ。
現在、比屋根はいつもの魔女衣装に身を包んでいる。
そりゃあ、魔女コスプレは小学生にとっては大好物だろう。
「ねえ、かっこいいセリフ、なんか言ってよ~」
「「「言ってよ~」」」
「我が名は世界に混沌と安寧を刻みし者! 万年の魔女・ヒヨテリウスじゃ!」
「「「「おお~。かっこいい~」」」」
何で、混沌と安寧、両方刻むんだよ⁉
なんて心の中でツッコむが、小学生は細かいことは気にしない。
小学生は比屋根の口上に大盛り上がりの様子だ。
比屋根×キッズたち。まさか、ここまで相性がいいとは。
意外な発見である。
「ねえ、魔法」
「魔法使えるの?」
「魔法使って~!」
「良いじゃろう。貴公らに特別に見せてやる。《我が業火滅却の焔の前に灰燼と化せ――》『業火滅却』‼」
比屋根はノリノリで、オリジナル魔法を詠唱つきで披露する。
ステッキをくるくる回し、びしっと前に突き出す。
「おお~! すげ~!」
「かっけ~!」
子どもたちは大盛り上がり。
何か、図らずもヒーローショーみたいになっているな。
「ふむ。比屋根サンがうまくやっているようなので、ここは比屋根サンに任せよう」
笛吹はなぜか腰を曲げ、どこかに移動しようとしている。
「おい、どこに行く気だよ、笛吹」
それを逃すわけにはいかない。
「適材適所だ。適正のあるキャラクターに、適正のあるポジションを与える。例えば魔法使いなら後方に配置し、武闘家だったら前方に配置する。ゲームの鉄則だ。比屋根サンは子どもの遊び相手に最適。そして、ぼくは子どもが苦手な陰キャゲーマー。ということでさらば!」
笛吹はそんな言い訳をして、小走りで駆け出すと、隅っこでゲームを始めた。
「逃げやがったな!」
……つーか、どこからゲームを取り出したんだよ。お前のポケットは四次元ポケットなのかよ。
だが、幸か不幸か、小学生たちが笛吹に殺到した。
「うわっ、最新ゲーム機だ、すげっ!」
「お姉ちゃん、ソフト何してるの⁉」
「俺にもやらせてよー!」
そう。笛吹は完全に悪手、ある意味では最善手を打ったのだ。
ゲームなるもの。
小学生の大好物だ。
それを見逃すわけがない。
物の見事に小学生は、ゲームをプレイしている笛吹に吸い寄せられていた。
「ううう……。ちょっと、きみたち落ち着いて……」
先ほど子どもが苦手と名言した笛吹は困惑した様子だ。
笛吹。これも社会勉強だ。頑張れ。
俺は笛吹の頑張りを、保護者のように見守る。
「ねえ、何やってるの⁉」
「『大激戦マジックファイターズ3』だよ」
笛吹がゲーム名を応えると、小学生たちは明らかにテンションが上がった。
「マジファイ3⁉」
「最新作じゃん!」
「やらせて! やらせて!」
小学生たちの熱意に押された笛吹は、小学生の一人にゲームを手渡した。
「順番にやるんだぞ」
笛吹、ちゃんとお姉ちゃん、やってるじゃねえか。
ゲームをする小学生を見守る笛吹を見て、なんだか涙が出そうになる。
……涙腺脆すぎだろ、俺。
「……なんか小学生に嫌われているみたいで悲しい」
「……奇遇ね。私も同じことを思っていたわ」
コスプレの比屋根とゲームの笛吹に、小学生を完全に取られた俺と赤槻は完全に取り残されていた。
俺たちが人気無いというわけではなく、単純にあの二人が強すぎる。
ここまで子どもたちと相性がいいとは思わなかった。
北門の中二病患者、南門のゲーム廃人が、小学生相手に強すぎる。
「あれ、あの子……」
俺は、一人の少女と目が合った。
小学生たちの輪に入らず、その少女は一人、ポツンと立っていた。
それは、炊き出しに来た俺が気になった小学生高学年くらいの女の子だ。ここにいる小学生たちは低学年から中学年くらいなので、彼らよりも随分と年上に見える。
あの時と同じく、目にハイライトがなく、アンニュイな表情を浮かべている。
彼女との出会いが、大きなうねりをあげることを、俺はまだ知る由もない。




