第6話 推薦貰える人ってどれだけ徳の高い人なの?
「よーし、お二人さん。とりあえず、座ろうぜ。ほうら、畳にケツつくと気持ち良いだろ」
喧々諤々としたムードの中、二部崎先生が気を配って、俺たちを、座卓を囲わせるように座らせた。
さすが社会人である。
「そもそも、部活になんて興味ありませんから」
「なんだよ、赤槻。この前、職員室で話した時は、まあまあノリ気だったじゃないか」
「人間は日々、考えが変わる生き物です。今日の考えと明日の考えは、私にとって天と地ほどの差があるのです」
「まあ、そういわずにさ、騙されたと思って入部してみないか、アオハル部」
「そもそも誰ですか、この男は。こんなケダモノが居るなんて聞いていないですけど」
初対面の人間にケダモノとは、なんて失礼な奴なんだ。
こいつ、人の心とか無いんか?
「ケダモノなんて失礼だな。俺は清廉潔白なピュアボーイだぜ」
「はぁ? 貴方、先ほどから私の身体をイヤらしい目でジロジロ見ているわよね? 非常に不愉快で気持ち悪いのだけれど」
「それは誠か、青山? 性欲の解放は健全な高校生である証拠と言えるが、きみの場合は度が過ぎているぞ。猿ではないのだから、抑制を覚えないといけないな」
「二部崎先生まで! 俺、マジで見てないから! なるほど、こうやって冤罪って生まれるんですね」
顔を真っ赤にして無罪を主張する俺を、二部崎先生はからからと笑っていた。
そんな様子を、赤槻は不愉快そうに見つめていた。
「茶番は置いておいて、私は微塵も興味を持っていないですが、具体的な活動方針を聞きましょう。それが私をわざわざここまで呼び出した人間の責務です」
「どれだけ上からなんだよ、きみは。うん、良いだろう。といっても、具体的な活動方針なんてものは無い」
ばーん、と自慢げに大きな胸を張る二部崎先生。
自慢するタイミングではないと思うのですが……。
「話になりませんね。帰ります。時間はお金で買えないので」
「ちょっと待て。活動方針は自分たちで決めるんだ。《アオハル部》は名の通り、青春を送るための部活だ。スポーツ、芸術活動、創作活動、手伝い、ボランティア、遊び、アルバイト、合宿、旅行、青春っぽいことは何でもやっていいぞ。さあ、二人とも、青春を謳歌しよう」
二部崎先生は両手を広げ、歓迎のポーズ。
うん。なんか、楽しそうだ。
腐りかけていた心が、少しずつ浄化していくのを感じる。
「良いですね、それ!」
肯定的に受けとる俺に対して、赤槻はため息をついて辟易している。
「下らないですね。青春なんて無駄。青春なんて言葉を使う人間は総じてIQが低いと相場は決まっているのです」
赤槻は、とんでもないことを言い放った。
どれだけ冷めているんだよ、こいつは。
その言動にドン引きしていると、二部崎先生は彼女を落ち着かせるように両手を前に差し出し、前後に動かすジェスチャーをした。
「分かった。青春という言葉は一旦、無しにしよう。まずは手伝いやボランティアなんてどうだ?」
「対価が無いので論外ですね。まさか私にタダ働きをさせようとしているのではないでしょうね?」
二部崎先生は両手を広げて降参のポーズ。
先生に口論で勝つ、生徒とか恐ろしすぎるだろ。
「分かった、分かった。降参だ、降参。対価……あるにはあるぞ。そうだな、まだ気が早いかもしれないが、きみの進路希望は東皇大学だったな。実はうちの高校、一枠だけ東皇大学の推薦枠があるんだ。もし、部活動に入ってくれさえすれば、きみを推薦するように学長に掛け合ってみるよ。私が推薦さえすれば、きみの成績なら問題ないだろう。どうだ、かなりいい条件だろ?」
赤槻は口に拳を当てて、思慮を巡らせているようだ。
どうやら、二部崎先生が提示した条件は、赤槻にとってかなり好条件らしい。
「……検討します」
その答えに、二部崎先生はがくんと肩を落とした。
「入部するって流れだろ、そこは! あっ、ちなみに青山は確定だからな」
「俺に決定権は存在しないんですね……」
「ということで、今日は体験入部としよう。去年、部のメンバーが卒業して、この部屋使っていなかったから、埃っぽいな。ということで、《アオハル部》の最初の活動は部室の掃除だ。これなら自分たちのためだし、文句ないだろ?」
「私が入部すればの前提ですが……まあ、良いでしょう。二部崎先生と関係が悪くなるのは、こちらにとっても都合が悪いですしね」
「助かる。よっし、じゃあ、最初の活動、清掃活動やるぞ、おー」
「おー」
「……」
こうして《アオハル部》の活動がスタートした。
……こんなんで本当に大丈夫なのか?