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第5話 青春とか言っている奴はだいたいバカ 【赤槻暁美視点】

 二週間の謹慎が明け、忌まわしき学校に来たらある変化があった。


 事件のことが広まったのか、周囲が私を避けるようになっていた。

 加え、どこが発信源なのか不明だが、『赤の暴姫』なんて呼ばれ始める始末。

 むしろ好都合だ。人と関わることで余計なことに巻き込まれなくて済む。


 それから更に二週間ほど経った。

 やはり、トラブルを引き起こした欠陥人間に近づくものなど皆無で、実に快適なぼっちライフを過ごしていた。

 たまに悪口や陰口を言われることもあったが、そんなものは今に始まったことではないので、慣れてしまえばどうってことない。


 担任の二部崎から呼び出しを食らったのは、そんな矢先だった。


「部活に入ってみないか?」


 単刀直入にそんなことを聞くものだから、答えなんて決まっていた。


 部活?


 そんな生産性の無いものは、私が一番嫌っているって分かりきっているでしょう。


「入りません」


 きっぱりと断ったはずなのに、二部崎は尚も食い下がってきた。


「まあ、そういわずにさ、見学からやってみないか?」


 ここまで私に関わろうとする担任教師も珍しかったので、思わず私は目を丸くした。

 私は担任教師という人種が好きではない。

 本来ならば担任教師は、受け持つ生徒を平等に接し、全員の味方でなければならない。仮に受け持つ生徒がイジメを受けていたら、必ず救わなければならない。


 だが、歴代の担任教師共は私を救わなかった。

 彼らは教師という以前に人である。人というものは、好ましい人を囲い、疎ましい人を排斥する。

 それは担任教師も同じで、扱いやすい生徒を贔屓し、私のような扱いづらい生徒はノータッチ。残念ながらそこに、平等は存在しない。

 体裁を気にして、表面上は友好関係を取ろうとする担任教師は少なからずいた。

 だが、そういう奴らも、結局私の扱いづらさに白旗を上げた。


 さて、この二部崎はどうだろうか。


「そもそも、どういう部活かも聞いていないのに、入るわけがないでしょう」

「名前は《アオハル部》って言うんだ」

「アオハル?」

「青春と書いてアオハル。名の通り、青春をする部活だ。どうだ、楽しそうだろ?」


 青春?

 出た出た、私が一番嫌いなワード。

 青春って何? なぜ、若者はそんな目に見えない不確かなものを追い求めるの?

 友達が欲しい? 恋人が欲しい? そう思うのは、自分が一人で生きていくことが出来ない弱者であると認めるようなものだ。

 一人で生き続けることこそが、人の最も美しいスタイルである。


 人は一人では生きていけない? 答えはノー。

 金さえあれば一人で生きていける。極論、バイトすれば高校生でも生きていくことが出来る。

 経済力という最も可視化された指標で人間のランクを判断するべきである。陽キャとか陰キャとか、不明瞭な指標は論外。

 ならばやるべきことは一つ。勉強して、良い大学に入って、良い企業に入り、収入を一円でも多く増やす。


 募るところ、青春などという人生の無駄は徹底的に排除!


「何度も言っているでしょう。お断りします」

「二部崎、きみは残念ながらスタートダッシュに躓いてしまった。だが、まだ余裕で取り戻せる。高校生活は一度きり。楽しまないと損だ。二部崎、《アオハル部》で青春を送ってみないか」


 まだ、食い下がってくるか、この担任。

 良いこと言いました、みたいにドヤ顔しないでよ。全然、響いてないわよ。

どこの受け売りか知らないけれど、貴女の価値観を、私に押し付けないでよ。


「しつこいですね。だから――」

「そのままでいいのか?」


 今までお茶らけていた二部崎が、急に真剣な眼差しでこちらを見つめていた。空気が変わる。


「どういうことでしょうか?」

「きみは物事をよく考え、俯瞰で見ることが出来る生徒だと思っている。そんなきみが感情に任せて他の生徒を殴ったとはあまり思えないんだ」

「ふーん……」


 こいつ、結構核心ついてきてやがる……。


 まだ若い教師だが、ここまで私のことをよく見ていた人は初めてだ。

 なるほど、認めよう。二部崎、貴女は今まで私を請け負った凡百の担任教師ではないらしい。


「高校の三年間は長い。ずっと、このまま誤解されたまま、周りに避けられて肩身の狭い思いをするのは、なんだか悔しくないか? 赤槻暁美、きみは『楽しく生きたくないのか?』」


 悔しいが、少しその言葉に揺さぶられてしまった自分が居た。悔しいが。


「……見学だけ。見学だけなら行きましょう」

「そう来なくっちゃな」


 二部崎は私に白い歯を見せてきた。

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