第45話 友達の家に招待された時のワクワク感は異常
「喜び給え。『聖母』が貴公らを招待するそうじゃ。我が根城へとな!」
生徒会にカレーをごちそうになり、一夜明けたこの日、休み時間に笛吹と赤槻の三人で喋っていたら、比屋根がまたおかしなことを言い始めた。
だが比屋根語の翻訳に慣れてきた俺は、その意味を何となく理解することが出来た。嫌な言語の知識が増えていく……。
「比屋根のお母さんが、俺たちをお前の家に招待してくれるのか?」
「現世の文法ではそうとも言うな」
「やっぱりそうか」
俺は内心、結構喜んでいた。
クラスメイトの家で遊ぶ。
青春のビックイベントの一つだ。
完全プライベート空間である家は自由度が非常に高く、外では出来ないようないろいろな遊びが出来る。
加え女子の家ならばポイントはさらに高まる。今回は該当しないが、これが女子の家で二人っきりなら別のイベントに発展する可能性もある。
とにもかくにも『青春』を送る上で重要なイベントなのだ。
それが例え、中二病少女の家でもな……。
やっぱりちょっと不安になってきたけど。
「俺は構わねえけど、赤槻と笛吹はどうだ?」
「構わないわよ」
「ゲームはあるかい?」
気にするところ、そこ? 笛吹らしいといえば笛吹らしいが。
「心配ご無用じゃ。魔力が込められた魔道具の数々が我が城に厳重に保管されている」
「本当にゲームはあるのかい?」
「大丈夫だ。こいつアウトプットは滅茶苦茶だがインプットはしっかりしている。笛吹の言葉は通じているはずだ」
……多分。
「まあいいさ。新たなフィールドを開拓するのも悪くないさ」
「話が分かるな、流石は我が従者、四魔皇が一人、氷姫ブリュンダスト。領地開拓は戦の定石――!」
片や中二病患者、片やゲーム廃人。高度なところで共鳴している。
何にしても、仲が縮まっているようで良かった良かった。
こうして俺と赤槻と笛吹は、比屋根の家に招待されることとなった。
「ハッハッハ。こここそが我が根城だ! 極秘事項であるがゆえ、誰にも話すのでないぞ。まあ敵に感知されたとしても、拠点を変えればいいだけじゃがの。神に滅ぼされる一万年前、栄華を極めた『魔城・ヒヨテリオン』を限りなく再現した城じゃ。素晴らしい造形じゃろ?」
「…………うん、普通の家だな」
どう見ても、平凡な二階建て木造建築の家に案内された俺たちは、比屋根の後をついていく。
「今戻ったぞ、ビッグ・マザー。手筈通り、我が僕を連れてきた」
「あら、そうなのね。みなさん、こんにちは~。日和の母です。いつもお世話になっております」
「ふぐっ……。お邪魔します」
あぶねえ、危うく吹きかけるところだった。
……だってよお、万年の魔女・コヨテリウスのビッグ・マザーが、エプロン付けた少し恰幅の良いどこにでもいる平凡なおばちゃんなんだもん。
「む、むう……、お邪魔します……」
「赤槻暁美よ」
笛吹は下を向きながら、赤槻は威張りながら、各々個性を活かした挨拶で家に上がっていく。
先ずビッグ・マザーに案内されたのは、リビングルーム。
落ち着いた木目調のテーブルに、おしゃれなペルシャ絨毯が敷かれた床、革張りのエル字型ソファに三十インチほどのテレビ。
うん、どこにでもある一般的なリビングルームですね、はい。
どこが一万年前の魔城を再現した根城だ? とツッコむことも億劫なので特に何も言わず、ビッグ・マザーではなく比屋根のお母さんに言われるがままテーブルの椅子に座らされてもらった。
「さあ、さあ。召し上がって」
真ん中には大皿に乗ったアップルパイが香ばしい匂いを発していた。万年の魔女・コヨテリウスの根城とは思えない、随分とハートフルな料理が出てきたな。
昨日はカレー、今日はアップルパイ。俺たちの胃がリア充すぎる件について。
「い、良いんですかお母様。どこの馬の骨だかも分からない俺たちが、こんなご馳走を食べさせてもらって」
「昨日、日和からあなたたちのお話はたくさん伺ったのよ。何でも日和のお仕事を手伝ってくれたんだってね。ありがとう。そのお礼よ」
「ビッグ・マザー! それは極秘事項……」
「日和は家では普通の子なのよ」
「ビッグ・マザーぁぁ!! それは最重要極秘事項……」
お母さんから次々と明かされる比屋根の真実に、当の娘は頬をリンゴのように赤らめて口をプルプルと震わせている。
「えーと、つまり、日和さんは昨日、お母様に俺たちのことを嬉々として報告していたと」
「そうなのよ! そうなのよ! 久しぶりにお友達が出来たみたいで、日和すっごく喜んでいたわ」
「うがあああああ! 胸が痛む! まさか、一万年前神に封印された時の古傷がぁぁ!」
凄く恥ずかしいことを暴露されて、比屋根は悶絶しながら地面を転がっている。やっぱりこいつ分かりやすいな。




