第31話 結局クレープが一番甘くておいしい
「いただきます」
適当に空いていたテーブルに腰掛け、俺たちはクレープを頂いた。
「全世界の甘さが俺の口の中に集約している気がする。美味い、美味すぎるぜ。お前たちも、そう思うだろ?」
「……く、悔しいけど……本当に甘くて、美味いわね」
「うむ。スピードのステータスが五十くらい上昇した気分だ」
なんだかんだいって、こいつらも大満足みたいだ。結局、甘いものを口にしたら女子の本分がさらけ出されてしまうんだ。
しかしこれだよこれ。
このさ、テーブル囲んで同じものを共有する。
これぞまさに青春だよな。
「いやー、こんな至福を味わえたのも、全て笛吹のおかげだよな。改めてサンキューな」
「ふむ。難易度☆1ランクのミッションだったからな。まさかあのレベルのミッションでここまでの報酬を得られるとは思わなかったが」
改めて感謝をする俺に、笛吹はまんざらでもない様子でそう語った。
「俺からすると、先生にゲームを返してもらう方がよっぽど簡単だと思うけどな」
「くっ……! あれは、☆5ランクの超難度ミッションだ! ……思い出したくもない」
「笛吹さん、貴女って昔からパソコン得意なのかしら?」
そう問いかけたのは赤槻だった。
赤槻が普通にコミュニケーションを取ろうとしているのも珍しい光景だ。
「……ふ、ふむ。エクセルでのデータ管理はゲーマーの嗜み……なのさ」
笛吹はきょどりながら答えた。
前日、ゲームであれだけ饒舌だったのに、日常生活ではこうなるのか。
「まあ、良いんじゃないかしら? そういう得意なことがあるって」
赤槻が人を褒めるなんて珍しい。明日、雪でも降るんじゃないの?
「……むぅ。そうか……」
恥ずかしかったのか、笛吹はまたいつものように視線を真下に落とした。
でも確かに赤槻の言う通りだ。
理由はどうあれ、秀でた能力があるのは凄いことだ。現に今回、その能力で先生の役に立てたわけだし。
「ああ、赤槻の言う通りだ! 誰がなんと言おうが笛吹は凄いんだ! 自信もってこうぜ!」
「どうしてぼくを否定しないのかい?」
笛吹は垂れた首をゆっくりと上げて、恐る恐るといった風にそう口にした。
「というと?」
彼女の言葉の真意が俺にはよく分からない。
「ぼくは昔からゲームが好きなんだ。でもゲームをやっている人間は世間から蔑まれるんだ。やれ頭がおかしい子だの、やれ犯罪者予備軍だの、散々な言われ方だ。なんで好きなものをそこまで否定されないといけないんだってずっと疑問だった。だからぼくはリアルで人と関わることを辞めたんだ。現実には居場所が無いって。でも君たちはどうも違う。君たちはぼくを否定しない。それが気になったんだ」
俺は笛吹の疑問を受け、少しの間押し黙った。今までの人生で、感じたこと、思ったこと、考えたこと、それらに向き合う時間だ。
「俺は、高校入学して間もない時は、陰キャは悪で、陽キャは善だと思い込んでいた。だから、柄でもないのに陽キャになりきろうとして、自分を偽って生きてきた。
でも、《アオハル部》に入って、赤槻や笛吹と出会って、お前たちがありのままの自分で生きているのを見て、俺の考えはなんて浅はかだったのかと思い知った。
例えば赤槻みたいに自分の信念を貫いている奴、笛吹みたいに好きなことに没頭する奴、それも全部個性なんじゃねえかって。だから笛吹がゲーム好きだからって、それは尊重するべき個性だと思うし、俺は否定しない」
赤槻と笛吹は俺の方を向いて、真剣に聞き入っているようだ。
「うむ……、そうか。ならばよかった」
「だからさ、改めて俺と友達になってくれないか、笛吹。一緒に『青春』送ろうぜ」
笛吹は俺の提案に、拳を口に当てて考えている。
そりゃあそうだ。
こいつには確固たる信念がある。
過去に味わった偏見から、リアルでの交流を絶った。
この提案を飲むか否かは、まさに彼女にとって重要な“択”となる。
でも俺は信じている。
なんだかんだいって笛吹は、昨日俺との会話に付き合ってくれたし、今日だって一緒に俺たちとつるんでいる。
心の奥底では、リアルでの交流に憧れがあるはずなんだ。
俺はゲームを辞めろ、だなんて言ってないし、言わない。
むしろそれがきみの個性だ、思う存分やってくれ。
『青春』というのはリアルもゲームも両立可能だ。
かなりの間があって、ようやく笛吹が答えた。
「ここは思い切った択を取ってみよう。いいよ。攻略不可能と言われた難解なゲームを何度も攻略してきたぼくだ。『青春』なんてものも本気になれば攻略など容易い」
笛吹はそう答えてくれた。




