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第22話 歩きスマホよりも歩きゲームの方が危険度が高い

「じゃあ、私は帰るわ」

「おお。赤槻、今日はありがとな」


 赤槻は俺たちに別れを告げて、先に帰っていった。


 部室には俺と笛吹の二人きり。

 喉が渇いたので、冷蔵庫にある炭酸ジュースが入ったペットボトルを取り出して、ぐびぐびと飲む。

 一仕事終えた後の、炭酸は喉に染みるぜ。


 すると、むにゅんと何だか大きくて柔らかな感触が俺の背中に伝った。

 首を後ろに回すと、笛吹の身体が俺の背中に圧し掛かっていた。大きくて柔らかいものが完全に俺の背中に乗っかっている。

 やっぱりおっぱい大きいなこいつ。


 んで、なぜこんなことになったかと言うと、笛吹の恰好を見れば明白だった。

 耳にはめ込まれたヘッドホンのコードはゲームに繋がっていて、笛吹は前を見ずにゲーム画面だけに注意を向けていた。

 歩きスマホならぬ歩きゲーム。


「おい笛吹。さっき怒られたばっかりだよね。どれだけゲーム好きなの?」

「……すみませんすみません、さようなら」


 笛吹はまるで初対面みたいなよそよそしい態度で、謝りながら俺の身体から離れる。どうしよう、大きなおっぱいの感触が俺の脳から離れてくれない。


「ちょっと待てい! 何だよそれ。たった今、一緒に職員室に行ってゲームを取りに行った仲だよね? なあ、人間関係までリセットされちゃったの? お前はゲームみたく、リセットボタンが存在するの? ゲーム好きだからって、お前自身がゲームになってどうする⁉」

「……ぼくは陰キャだからね。例えその日初対面の人と、どれだけ仲良くなろうが、一晩経てば元通り。何も無かったことになるんだ」

「一晩どころか、一時間も経ってないだろ⁉」

「ぼくの場合、高速リセットスキルを持っているから通常一晩のところを数十分まで短縮可能なんだ」

「いらねースキルだな、おい!」

「……と、とにかく。依頼は終了だ。報酬金や報酬アイテムは特にないが、感謝はしている。それじゃ」


 尚も帰ろうとする笛吹を、俺は彼女の腕を引っ張り強引に止める。


「待て待て待て」

「何だい? 強制イベントなら今度にしてくれよ」

「きみ、今日少し時間あるか?」

「残念、ぼくはこれからモンスターの育成とランクマッチに向けてのパーティー構築をしなければならないんだ」

「よく分からねえけど、要するにあれだろ。ゲームの話だろ? ということは暇だろ?」

「バカを言ってはいけない。ぼくにとってゲームをすることは人生そのものだ。外すわけにはいかない」

「バカ言ってるのはお前だ。ゲームもいいけどよ、せっかく知り合ったんだし俺とちょっと話さないか?」

「無理だ。ぼくはこれから忙しい」

「分かった。ゲームをやりながらでいいからさ、頼むよ」

「……むう。どうやらどの択を選んでも避けられない強制イベントみたいだ。仕方ない。対戦よろしくお願いします」

「……お、おう。だから対戦って別にお前ととバトルしねえよ」


 俺と笛吹は部室の座椅子に腰掛ける。

 改めて笛吹と向き直る。

 横ではヘッドホンを付けた笛吹が、俺なんか見向きもせずにゲームに熱中している。


「ほんと、好きなんだな。ゲーム」

「……何か言ったかい?」


 笛吹はヘッドホンを外して、問いかけてくる。ゲームをしながらでもいいって言ったのは俺だけどよ……、会話してるんだからせめてヘッドホンは外してくれよ。


「ほんと好きなんだなって」

「何をだい? まさかぼくをかい? 待ってくれよ、まだフラグも立ってなければ好感度も上がってないよ。告白イベントは時期尚早だ」

「ち……げえよ! ゲーム! 好きなんだなって!」

「好きとかそういうレベルじゃないよ。ゲームはぼくにとって血であり肉だ。身体の一部と言っても過言ではない」

「はいはい、分かったよ。なあ、ちょっと見てていいか?」


 俺の意外な提案に、笛吹は戸惑っているようだった。ややあって、


「……別にいいけど、面白いものなんて何もない」


 笛吹がプレイしていたのは、モンスターを育成してバトルする子どもに人気のあるゲームだ。俺も小学生の時、やっていたっけな。

 しかし俺が小学生の時やってたことと、こいつが今やっていることは随分と違った。

 ……なぜか笛吹は同じ場所を永遠とグルグル回っていた。


「なあ……、何してんだ?」

「見たら分かるだろ、モンスターの育成さ」

「育成って……、全然バトルしねえじゃん」

「バカかね君は。先ずは個体の厳選だろう! 妥協個体は恥と思いなさい!」

「……なんか、すまん」


 何故か怒られた。いや、お前の言ってること何一つ分かんねえよ。


「クソッ! またダメだ! どうして理想の個体が出てこないんだよ!」


 急に声を荒げたと思うと、笛吹は憤慨しながらモンスターを逃がしまくっていた。  

 ああ、親じゃないのにこいつの将来が心配だよ。

 ゲームと現実がごっちゃになって犯罪だけは犯さないでくれよ。


 俺嫌だからな。

 ニュースで、同級生として「ゲームが好きな変わった人でしたけど、悪い人では無かったと思います」的な証言をして不名誉なテレビ出演果たすの。

 ゲームに熱中している笛吹を何と無しに眺めながら、俺は気になっていることを尋ねた。


「なあ、笛吹。一つ、聞いてもいいか?」

「手短にね」

「赤槻と知り合いなのか?」

「まあ、ちょっと色々あってね」


 そのニュアンスだと、友達というわけではないらしい。まあ、失礼ながら、赤槻が交流の薄い他クラスで友達を作るとは思えないが。


「それを教えてもらうことって出来るか?」

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