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第2話 結論:『青春なんてクソ』。【赤槻暁美視点】

 『青春なんてクソ』。


 これは私、赤槻暁美あかつきあけみの信条である。

 青春の定義なんて曖昧だが、仮に人付き合いや、友情、恋愛というものを青春の一つと定義するのならば、それらは総じてクソである。


 私がなぜそこまで歪んでしまったのか。


 そのルーツは小学生の時だ。

 それまでは比較的穏便に過ごしてきたが、小学生の時に田舎から都内に引っ越してから人生が一変した。

 私は人より太っていて、体臭もきつく、それに思ったことをすぐに口にするタイプだったから、それが気に食わなかったのだろう。


 ――私はイジメられた。


 人と人は水と油である。

 根本的に合わない。

 少しでも気に食わないことがあれば、平気で罵倒し蹴落とし排斥してくる。


 だから、双方の幸せのために、誰とも関わらない方が良いのである。

 そもそも、だ。究極的に人は一人で生まれて一人で死ぬ。だから他人というものはノイズでしかない。

 ならば、人と関わるという行為は人生の無駄でしかない。

 ひらすらに自分のために時間を使う。それが人生を豊かにするうえで、最も早い近道である。


 ――こうして私は小学生ながら、一人で生きていくことを決める。


 中学に入り、イジメを受けたら、返り討ちきるように格闘技を習い始める。

 それが功を奏し、身体が磨き上げられ、瘦せることに成功。それで自信もつき始め、イジメられることは無くなった。

 私に集る虫共を取り払うことが出来た。

 孤高であり最強。私は理想の道へと至った。

 他の奴らは、学校という監獄の中で、低俗な人間が『青春』なる程度の低い行為に興じている。


 それは高校に入っても変わらず。

 高校になると、更に不毛なものが見られた。

 高校には、どうやら階級なるものが存在するらしい。スクールカースト? と呼ばれているらしい。気持ち悪い言葉。

 その中では、陽キャとされる明るい人間は上位で陰キャとされる暗い人間が下位とされるらしい。

 なぜ明るいだけで上になるのか? なぜ暗いだけで下になるのか?

 私にはまるで分からない。

 ともかく、皆は、階層を上げたいらしい。だから、階層が低い者が、高い者に取り入れようと、自分の心を殺して、他人の顔色を窺い、当たり障りのない言葉を吐き、周囲と迎合する。


 その行為、何が楽しい?

 あー、生きづらそ。


 私からすれば、クソ、クソ、クソ。総じてクソである。


 ☆


 私はそんな低俗な人間たちと同じ空気を吸いたくないので、昼休みの時は必ず人があまりいない階段の踊り場で食事を摂る。

 だが、不運にもつまらないものが目に入ってしまう。


「ねえ、きみ、同じクラスのゆきちゃんでしょ? 俺、知っているよ。そのゲーム。《クリオカート》でしょ? ほら、誰だったか、なんとかちゃんねるで動画上がってるよね。一緒にやろうよ」

「開星君、誰って感じ?」

「お前、クラスの可愛い女子の名前くらい覚えてとけよ。ゆきちゃんだよ。なあ、ゆきちゃん」


 二人のチャラそうな男子生徒が、携帯ゲームをしている女子生徒に詰め寄っていた。

 中でも特にエラそうな方が女子生徒に馴れ馴れしく話かけているが、本人は嫌がっている様子だ。

 だが、怖いのか、言い返せないでいた。

 その嫌がらせ行為は、徐々にエスカレートしていく。


「確かに、開星君の言う通り、可愛いい感じね~」

「だろ? 密かに狙ってたんだよ」

「でも、開星君。学年一可愛い枯葉咲さんと付き合ってるんでしょ? ずるいって感じだね~」

「真面目か。高校生なんだから、たくさん彼女いたっていいだろ。これがセイシュンってやつ?」

「確かに。開星君、じゃあ、今度、俺っちにも貸してくれって感じ」

「たっぷり堪能したら貸してやるよ」


 ゲスな奴らがゲスな会話を繰り広げている。

 特に開星とかいうエラそうな奴は、許可もなく女子生徒にべたべた触っている。


「ちょっと……や、やめてよ」


 女子生徒の方は泣きそうになっている。


「うん? 俺さ、テニス部で一番上手くて、見ての通り超絶イケメンなの。つまり王なの。俺みたい王が、きみみたいな陰キャに言い寄ってあげているんだからさ、ありがたいと思わないと」

「そうそう。開星君の言う通り。きみみたいなゲームやってる陰キャは誰からも言い寄られるわけないんだから、おとなしく貰っておかないと損って感じだぜ」


 明らかに、男たちの方が悪いのに、まるで男たちの方が正しいように物事が進んでいく。

 多数派が正義になり、少数派が正義になる、この空気が何より嫌いだ。


 その光景は、私が小学生時代に経験した出来事と重なる。


「くっさ、近くによるな!」

「このデブ!」

「メガネ豚!」

「太っているのも目が悪いのもクサいのも生まれつきなのに、どうしてそこまで言われないといけないの⁉」

「うぜえ!」

「キモい」

「死ね!」


 もし、仮に、あの時に救いがあれば、私の人生は変わっていたのか?


「その辺にしておいたら。その子が嫌がっているじゃない」


 気づけば、言っていた。そういえば、自分から人に声をかけたのは小学生以来な気がする。

 別にその子を助けたかったわけじゃない。

 私の領地でそんなことをされると、精神衛生上良くないから。

 これは私の心をリフレッシュするため。ただの清掃活動。


「ああ! 誰って感じ?」

「誰だか知らないけど、邪魔しないで貰える? こちとら、虹星高校のスクールカーストの王である俺、開星明生様なんですけど?」

「何それ? 要約すると動物園のボス猿ってこと?」


 二人の男子生徒は私に詰め寄ってくる。


「お前、舐めてるって感じ?」

「あのねえ。女ってのはどうやったって男に勝てないんだから、大人しく引いた方だいいよ」


 二人組は凄い剣幕でこちらに迫ってくる。


 しかし、私という人間は凄いな。

 久しぶりに人と関わったら、すぐこうなる。やはり、私という人間は人と関わらない方がいいらしい。


 私は強情だから、引かない。


「貴女、逃げなさい」

「あ、ありがとう」


 女子生徒を何とか逃がすことには成功した。

 そして私はその二人に喧嘩を売るように、睨みつける。

 男と二対一。だいぶ不利だが、私は格闘技を習っていたという自負がある。

 負けない――。


「開星君の手を煩わせるわけにはいかないって感じ」

「いや、邪魔だ。相手は女子一人なんだから、俺一人で十分」

「じゃあ、後は任せたって感じ」


 開星とかいうお山の大将は、部下を逃がした。

 ということで、開星とかいうやつと私のタイマンということらしい。

 と思ったのだが、開星とかいう奴は、とことん腐っているようで、呆れたことを言い始めた。


「ねえ、連絡先教えてよ。スイーツ好き? 一緒にスイーツ食べにいこうよ」


 何なんだ、こいつ……。

 さっきまであの女性生徒を狙っていたし、そもそも彼女がいる的な話、してなかったか。

 本当に人間という生き物は腐りきっているらしい。


「クソ野郎がっ!」

 

 ぶちぎれた私は、開星とかいう奴を“ボコボコにした”。


 ☆


「赤槻。私はきみを信じたい。一組の男子生徒を殴ってはいないよな?」


 後日、私は担任教師である二部崎にぶさきに呼び出された。

 どうやら、私があの開星とかいう奴を暴行したという噂が広がっているらしい。

 それは、“概ね正しい”ので私は否定しない。


「はい。それは事実です」

「……そうか。何か理由があると察するが、一応立派な傷害罪だ。警察沙汰にはしないが、相手に誠心誠意謝った後、きみに二週間の自宅謹慎を命じる」

「承知しました」


 こうして私は謹慎処分を受けた。

 結論:『青春はクソ』。

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