第19話 運動神経良い奴はたいていイケメンなので普通に理不尽【赤槻暁美視点】
「クソ野郎がっ!」
開星明生という男はうちのクラスの、いや学年のスクールカーストの頂点だ。
顔が良くスタイルも良く、コミュ力も抜群。
テニス部では早くも先輩を倒しエースに君臨したほどの抜群の運動神経。おまけに頭も良い。
ぼくみたいなゲームしか取り柄が無いクソ雑魚陰キャとは正反対の存在。
異性からはとんでもなくモテて、既に学年一の美少女とされている枯葉咲さんと恋人関係になり、それでは飽き足らず他にもいろいろな浮名が流れている。
いうなれば、この学校という国の王様。誰も逆らえない。
そんなキングに牙をむいた、彼女の姿はぼくにとって眩しすぎた。
「今、なんて言った? なんて言ったって聞いてんだよ!」
キングの恫喝。
しかし彼女は全く怯む様子は無かった。
「何度でも言ってやるわよ。クソ野郎が!」
「いやさ、君、誰に言ってるのよ。俺だぜ。見てよ、この顔。普通に芸能人レベルでしょ? きみみたいな性格終わっている女は、これから先、一生彼氏できないよ。この超絶イケメンのハイスペック男の愛人になれるんだから、ありがたく思わないと」
「……聞くに堪えない演説は終わったのかしら。それと、さっきから口、臭いのよ、貴方」
「あー、ちょっと痛い目見ないと分からないタイプか~。女は男に勝てないんだからさぁ!」
互いの肩を掴み合い、取っ組み合いになる。
だが、決着は唐突に訪れた。
彼女は鋭く開星の足を払うと、態勢を崩した開星に素早く馬乗りをする。
この態勢になれば、後は彼女の思うがままだ。
開星は驚きすぎたのか、何も声を発せないまま、目を丸くしている。少しスッキリした。
どうするのかと思ったら、彼女は想定外な行動をとった。
彼女はどういうわけか上履きを脱ぐ。上履きで叩くと思いきや、更に靴下も脱ぎ始める。
そして、その靴下を思い切り、開星の鼻に押し付けた。
「くっせええええ! なんだこりゃあああ!」
彼の慟哭が廊下内に響いた。
そのまま、開星はこちらに尻を向けて逃走した。
その様子に、溜飲が下がる。
★
彼女は事細かに、当時の状況を説明する。
彼女の口から語られたそれは、紛れもない事実だ。
どうやら、本当に彼女は見ていたらしい。
面倒くさいことになってきた。
「どうやら本当に見ていたようね。で、それが何かしら? もう終わったことなのだからどうでもいいでしょう」
彼女は必死に首を横に振る。どうして、何の繋がりもないのにこんなにも必死になのかしら。
「君は殴っていないじゃないか!」
こんなに大きな声を出せたのね。
「厳密にはそうかもしれない。けれど、足払いして転ばせて、馬乗りにして、くっさいもの押し付けたのだから、同じようなことよ」
私の主張にも、彼女は全く引くそぶりを見せない。
「百歩譲って、そうだとしよう。でも、君はぼくを助けたという大義名分があるではないか。だから、君が否定して、先生が調査すれば、こんな処分を受けることなんてなかった。なのに……どうして……君は」
「面倒くさかったのよ、単純に。私が否定したら、問題がややこしくなって、煩わしかったから。殴ったって言うのが、一番丸く収める方法だった」
「本当に君はそれでいいのかい? クラスでは開星が『ヤバい奴に絡まれた可哀そうな被害者』って扱いになっていて、君が大悪人になっているんだ。ぼくが声を出して否定しなくてはいけないのに……。ごめんよ、ぼくは君みたいな勇気を持てない。臆病者で卑怯なただの雑魚陰キャだから……」
「そんなこと思わなくていいわ。この選択は私が望んだことなの。貴女は何にも関係がない。私は貴女のことをこれっぽっちも恨んでいないし、今度恨みもしない。だから貴女はこれからも私のことなんて忘れて、堂々と生きればいいの。
話は終わったかしら。この件はこれできれいさっぱり終わりにしましょう。あの件は無かった、良いかしら?」
「……分かった。……君が望むなら、これ以上、ぼくはもう君に干渉しない」
話はこれで終わりだ。
なのに……。
どうして、私はあんなことを言ったのだろう……。
「《アオハル部》。これが私の所属している部活よ。退屈極まりない部活だけれど、興味があったら来てみれば? 詳細は二部崎先生に聞いて」
まるで、あのバカのセリフみたい。
あいつの病が移ったのだろうか?
彼女はキョトンと目を丸くしている。
それもそうだ。突っぱねた私が、誘い水を向けているのだから。
「《アオハル部》……? 君が所属している部活かい?」
「……そうよ」
「ところで二部崎先生って誰だい?」
「四組の担任よ。担当科目は国語」
「……知らない人に声かけるの恥ずかしいよぉ」
やっぱり誘わなければ良かったかもしれない。
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。
次話から新章突入です。
いよいよ《アオハル部》に新入部員が入ってくるそうですよ……?




