第10話 知らない人の写真でもたまに感動することがある
「なんだか懐かしいものがあるな~。《アオハル部》がどういう活動していたか、色々備品を見てみないか」
ジュースを飲み干し待ったりしているさなか、二部崎先生は俺たちからするとガラクタにしか見られないそれを懐かしむような目で見ながら、そんなことを提案してきた。
「どうだ、青山、赤槻。気になるものあるか?」
「色々ありますけど、そのグローブは何ですか? 実は野球部なんですか、ここ?」
そのガラクタの中に、おそらく文化部に分類されるだろう《アオハル部》には場違いの野球のグローブがあった。
「ああ、これな。懐かしいな。ほら、うちの野球部弱小だろ。基本9人揃わないから対外試合の時は、他の部員から助っ人を借りるんだ」
「それで、うちの部活から? 普通そういうのって運動部から借りるんじゃないんですか?」
「ああ、うちの野球部って三人くらいしか居ないから、運動部から借りるだけじゃ足りないんだよ」
「部員少なっ」
「そんなこんなで、うちの部員が対外試合に行ったわけよ。そういえば、うちの部員が対外試合でヒット打ったんだよ。それで『一生の思い出』になったって言っていたな。あー、懐かしい」
「そういうのって案外、思い出に残りますもんね」
「そういうことだ。他に気になるものはあるか」
「はい」
「おっ、次は赤槻か。どれだ?」
「その球体は何ですか?」
赤槻が指さした先には、ミラーボールのような得体のしれない丸っこいものが置かれている。
「あー、これな。これも懐かしいな~」
「それ、何ですか?」
二部崎先生が現物を座卓の上に持ってくると、赤槻が首を傾げながら尋ねる。
確かにこの距離でも分からない。
「これは家庭用プラネタリウムって言ってな、なんとビックリこの部屋でプラネタリウムが出来る素晴らしい代物よ」
「へー、今時、部屋でプラネタリウム出来るんすね」
「そうだ、私も部員の子が持ってきてビックリしたよ。どうだ、今度やってみるか?」
「良いっすね!」
「赤槻は?」
「……検討します」
「そこは素直に『はい』で良いだろ、赤槻……」
「貴方に指図される筋合いはないのだけれど。それに、私は正直な人間なんで」
「正直すぎるだろ……」
俺と赤槻が言い合っていると、ガラクタ改め思い出の品を物色中の二部崎先生は「あっ」と声を上げた。
「あった、あった」
思い出の品の山から取り出したのは、一冊のアルバムだ。
鑑みるに、過去の《アオハル部》の写真だろう。
アルバムを広げると、《アオハル部》の先輩と思しき人たちの写真が収まっていた。
部室で取った写真から、校庭で取った写真、先ほど二部崎先生が話した野球部に助っ人として加わった時と思しき写真、文化祭と思しき仮装している写真、海をバックにした写真……。
男女入り混じり、楽しそうにしているその姿はまさに、俺が思い描いていた『青春』そのものだった。
今の俺にとっては眩しすぎる。
知らない人たちなのに、先輩たちの楽しそうなその写真を見るたびに、なんだか涙が出てくる。
「先生……この人たちって、俺や赤槻みたく、学校に居場所が無い人たちだったんですか? 普通のリア充にしか見えないんですけど」
キィと睨む赤槻を無視して、俺は二部崎先生に尋ねる。
「そうだぞ。周囲と孤立していたり、イジメを受けていた子もいたなあ。でも、そんな子たちでも、これだけの笑顔を見せて、青春を送ることが出来るんだ」
「先生……こんな俺でも、送れますかね? アオハルとやらを」
「ああ、送れるとも。そもそも今日もプチかもしれないが、送れていただろ、アオハル?」
「あっ」
その言葉にハッと気づかされる。
赤槻と出会い、一緒に掃除して、くだらない寸劇をして、打ち上げと称して美味しいものを飲み、思い出の品を見ながら語り合って……。
「言われてみれば、青春かも……」
「だろ?」
二部崎先生は俺に白い歯を見せて、にかっと笑った。
もしかしたら、これも全て二部崎先生の手の中なのかもしれない。
先生の中ではまだまだ若手のはずなのに、どれだけ大局観があるんだ、この人は。
改めて二部崎先生のことを憧憬の目で見てしまう。
「あんまり見るなよ、青山。私の手腕を尊敬するのは良いが、照れるだろうが」
「見てないっすよ!」
すぐに調子に乗るところは、いただけないが……。
「それで、赤槻はどうだ?」
二部崎先生に話を振られた赤槻は、苦々しい顔つきで答えた。
「私からすると、くだらない青春ごっこには付き合っていられないですけど……まあ、推薦貰えるなら、やってみても良いですけど」
どこか赤槻は嬉しそうだった。
……まったく、素直じゃないやつ。
とにもかくにも、赤槻がわりと乗り気みたいで良かった。




