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第4話:百足 その4

<“Lai” perspective>

* * * * * *

 神凪と別れた後、頼は加奈子と共に屋敷付近の森を駆け抜けていた。


 その視線の先には、人間の上半身ほどもある巨大なムカデが、地を這うように逃げている。


「おい! 逃げんな!」


 頼が叫ぶが、ムカデはすばしっこく、なかなか追いつけない。


「なんであんなに速いのかしら……」


 ハイヒールを履いているにもかかわらず、全速力の頼についていけている加奈子に、頼は内心ツッコミを入れたくなったが、今はそれどころではない。


「こうなったら……!」


 頼は走りながら呟く。


「スキル、ワープホール」


 その瞬間、頼の手元にホールが出現し、銃が現れる。


「え!?何よそれ!銃!?」


 加奈子が驚くが、頼は冷静に答える。


「ええ。でも、安心してください。これは――」


 頼の手元が光り、ピチピチと火花が散り始める。火花は銃へと移ると、銃口をムカデに向け、引き金に指をかける。


「レプリカなんで」


 引き金を引いた瞬間、銃から雷を帯びた弾が発射され、ムカデの尻辺りを吹き飛ばす。


「というかあなた達って……」


 その光景を目の当たりにした加奈子がつい声を上げると頼は平然とした様子で答える。


「あなたの予想通り、僕らは能力者です。細かい話は割愛させてもらいますが」


 下半身がふきとんだが、ムカデはすぐに体勢を立て直し、スピードを落とすことなく再び走り出す。


「マジかよ……全然効いてねーじゃんか!」


 その時、加奈子が何かを思いついたように頼に耳打ちする。


「頼君、………」


 加奈子の作戦を聞いた頼は一度頷く。


「それで行きましょう。よく聞く作戦ですが、アイツには知能がない可能性が高いので通じるかもしれません」


 加奈子は「わかったわ」と一言いい、左手の方へと走っていく。


 頼は反対に右手側に走り、ムカデへ弾を打ち込む。ムカデはそれを避けるように左の方へ徐々に傾いていく。


「おらぁぁぁ!向こうに行け!」


 頼が声を上げながら引き金を引き続けると、いきなりムカデの目の前に数珠のバリケードが現れる。大きさはそこまでないが、突然現れたためかムカデは急に止まることができず、数珠のバリケードへと突っ込んでいく。


「ギギャァァァァ!!」


 数珠がムカデの体を縛り付けると、目の前に加奈子が現れる。


「うまくいったわね。私もよく影しか見えない中で成功できたものだわ」


 すると後ろから頼が走り込んでくる。そして頼が咄嗟に叫ぶ。


「離れてください! 加奈子さん!」


 加奈子はすぐにその場から離れると、頼は今度はホールから日本刀を取り出し、電気を溜める。


 下半身を打った際、あまり手ごたえがなかったので急所は胴体ではなく頭にあるはず。わかったのなら、ここで確実に消す。


 そしてムカデの頭を的確に狙い、雷を纏った刀を横に振る。


「これで終わりだぁぁぁ!」

「ギャァァァァァ!」


 ムカデは最後の抵抗か、子供のような奇声をあげる。

 だが大量の人間を食らってきたであろう怪異に、容赦など不要だ。頼はムカデの頭を勢い良く真っ二つに切り裂き、吹き飛ばした。


「はぁ……はぁ……や……やったか……?」


 華麗に着地した頼がムカデへ視線を向けると、瀕死に陥った虫のように足をピクピクと痙攣させ体を丸めていく姿があった。


「た……倒せたのかしら?」


 加奈子が首を傾げると、頼は小さくうなずく。


「やりました。もう、安心です」


 頼はムカデの死骸を数珠から外そうと手を伸ばした。そのとき、数珠の一部が切れていることに気づき、慌てて頭を下げる。


「す、すみません! 弁償しますので……」


 頼の謝罪に、加奈子は柔らかく微笑んだ。


「いいのよ、顔を上げて」


 彼女は数珠をそっと撫でながら、懐かしむように語り始めた。


「これは、夫からもらったものなの。もらったとき、彼はこう言ったわ」


 加奈子の顔が柔らかく微笑む。


『これで目に見えぬ者たちから人々を守るんだ。幽霊のことを信じない奴らでも、我らを馬鹿にするような奴らでも。見えるというごく一部の人にしかできないことを、お前がやるんだ』


「……なんてね。今思えば、ただカッコつけたかっただけかもしれない。でも――」


 加奈子は絡まった数珠を手慣れた様子で解きながら、静かに続けた。


「あの言葉が、私を勇気づけてくれた。これでお金を稼ごうとか、思えるくらいには。だから、きっと、誰かを助けるために壊すくらい、夫は許してくれるわ」


 彼女の目には、薄らと涙が浮かんでいた。


 頼は視線を外し、静かに言葉を紡ぐ。


「……良い旦那さんだったんですね」


 普通の人には見えないものが自分には見えてしまう。そのことを気味悪がられ、隠して生きる辛さ。そんな中で、自分を信じ、支えてくれる人の存在がどれほど大切か。加奈子にとって、夫はまさにそういう存在だったのだろう。


 しかし、その支えを失ったときの恐怖は、計り知れない。


 頼は森の中へ差し込む光の方へと歩き出した。


「神凪と合流しましょう。ここでのことを伝えないと」


「ええ、わかったわ」


 頼は後ろからついてくる加奈子に振り返り、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。


「きっと、あなたにとっての旦那さんの代わりなんていないと思います。でも――」


 彼の瞳は、純粋な想いを湛えていた。


「俺たちでよければ、いつでも支えになりますよ。同じ“見える者”同士として」


 加奈子はその言葉に、優しい笑顔で応えた。


「ありがとう、頼君」


 すると加奈子がふと頼へ問いかける。


「そういえば頼君たちって、能力者なのよね」


「ええ。俺は”雷神の力を操る”能力を、神凪は”水神”と”火神”の力を操る能力を持っています」


「そうなのね。私、能力者とは初めて会うわ」


 まあ、当然だろう。能力者は基本、差別され軽蔑されてしまうものなので、自身が力を持っているこに気づかれたら、相当コミュニケーションが得意でなければぼこぼこにされて、そこで人生詰んだも同然になるのだから。


「加奈子さんは、能力者は怖くないんですか?」


「ええ、全然」


 その質問に意外にも加奈子はさらっとこたえた。


「今までは、あんまり好きではなかったわよ。大体犯罪者としてニュースに出てるの能力者だったし。でも」


 森から差し込む光が眼前に迫ったと同時に耳に入った言葉に、頼は目を見開いた。


「あなたたちのおかげで、悪いイメージがどこかへ吹き飛んで。能力者が全員悪いやつではないって、わかったわ。ありがと」


「……どういたしまして」


 森を抜けると、ちょうど神凪の顔が視線の先に入り込む。


「よっ、倒せたか?」


 屋敷から出てきたばっかりなのか、あまり神凪の顔色はよくない。

 頼が一息つきながら尋ねると「まあね」と、軽く返された。


「頼こそ、ちゃんと倒せたのかい?」


 神凪がからかうように言うと、頼は胸を張って答えた。


「もちろん、加奈子さんと協力してぶっ倒したぜ」


「ほお〜、ようやった、ようやった。褒めて使わすぞ、頼よ」


「なんで上からなんだよ……」


 神凪が周囲を見渡しながら、頼に問いかけた。


「ねえ、本当に全部倒したの?」


 その問いに、頼はきょとんとした表情を浮かべる。


「え?いや、もういないだろ。気配だって……あれ?」


 どこからか感じる視線。

 神凪が言っていた異変はすぐわかったのだが、それと同時にもう一つの異変に気づいた。


「なあ……加奈子さん……いなくね?」


 なんと、加奈子がその場から姿を消していた。


「何言ってんの〜、そんな、すぐいなくなるわけ〜……って、本当にいないじゃん!」


 頼と神凪はすぐさま周囲を探し始める。


 そのとき、茂みの中へと駆けていく加奈子の姿が神凪の視界に映ったのか、急いで声を上げる。


「あ、いたぁ〜!」


 二人は加奈子を見つけると、すぐに走り出す。


「加奈子さ〜ん、待ってぇ!」


「あそこって、視線を感じた場所だよな!」


 頼の言葉に、神凪は慌てて反応する。


「マジじゃん!なら、余計に危ないよ!」


 少し森に入ったところの茂みで、加奈子がちぎれた数珠を持ち、それを叩きつけようとしている姿があった。


「待ってぇ!!」


 神凪は振り上げた加奈子の腕を咄嗟に掴む。


「やめてちょうだい!せっかく私でも倒せそうなやつを見つけたのよ!私もこの手で夫の仇を取りたいの!だから一体くらい!」


「いや、キャラいきなり変わりすぎだろ!」


 頼が咄嗟にツッコミを入れた。

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