第7話「決戦」
作中用語
・フィーヴェ:ディンフル、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットの生まれた世界。ユア達が目指している所。
・ディファート:見た目は人間と変わらないが、一人ずつ生まれつき不思議な力を持つ種族。能力は人それぞれ違う。昔から老若男女関係なく、人間から差別を受けて来た。
前回のあらすじ
ユアは魔物にさらわれ、森に連れ込まれる。襲われそうになったところを、森に残っていたフィトラグスとオプダットに助けてもらった。
そこへ森の主と再び遭遇し、さらにディンフルとティミレッジもやって来た。
パーティも五人揃い、主との決着が始まるのであった。
森の洞窟の中。ユア達五人と森の主が睨み合っていた。
フィトラグスは剣を抜き、オプダットはファイティングポーズを構え、ティミレッジは杖を握り直した。
「お前は下がっていろ」
「はい!」
唯一戦力を持っていないユアはディンフルに忠告され、洞窟の奥へ避難した。
フィトラグスの「行くぞ!」の合図で戦闘が始まった。
まずはティミレッジが白魔法の呪文を唱えると、ユアを含めた全員に半透明の白いドーム状の魔法が掛かった。
「な、何これ?」
「防御の魔法だよ。ユアちゃんにも掛けさせてもらうよ。攻撃が来るかもしれないからね」
「ありがとう! 魔法を掛けてもらえるなんて初めてだよ!」
ユアが憧れの魔法で喜んでいる間にフィトラグスは剣で斬りかかり、オプダットはパンチを繰り出し、敵へ攻撃した。
しかし、イグザムの時と同じで剣は相手の皮膚に通らず、パンチをした手も痛くなった。
「いって~!」
「そういえばさっき、“皮膚が硬い”って話があったな……」
次に森の主は口から炎を吐いた。
洞窟は土で出来ていたので燃え広がることはなかったが、温度が一気に上がった。
「熱い……!」
激しい熱気に全員の体は耐えられず、汗をかき始めた。
そこへ、ユアの体に黒い布が覆いかぶさった。とても、ひんやりとしている。
「羽織っていろ」
ディンフルがマントを外し、ユアに掛けてくれた。推しのマントに包まれ、心の温度が一気に上がる。
しかし、それよりもマントが冷房並みに冷たいことが気になった。
「な、何でこんなに冷たいの?」
「それも魔法だ。冷暖調節も可能で、気温の変化に対応できる」
ユアは長年ゲームをして来たが、温度調節が出来る魔法は初めて聞いた。
そして、防御と飛行能力もあるマントの多能さに開いた口が塞がらなかった。
「そんな機能もあるんだ……。ありがとう。でも、マント無くて大丈夫?」
「構わぬ。あんな奴、丸裸でも倒せる」
ユアは思わず吹き出した。普段笑うことが無いディンフルが冗談を言い出したことに驚いたからである。
ディンフルは躊躇なく主目掛けて走り出した。
左手から紫色の棒状の光が現れ、幅が広い大剣へと変化した。それがディンフルの武器である。
「こんな奴に苦戦とは、困った主人公だな」
ディンフルはフィトラグス達を嘲ると、主に斬りかかった。
主はディンフルへ向かって次々と口から魔法を吐くが、大剣で全て相殺されてしまった。彼が近くに来ると、今度は大口を開けて牙を向け始めた。
ディンフルが大剣を軽く横に振ると主の牙がすべて折れてしまい、ただの歯になってしまった。
「歯並びを整えさせてもらった」
次にディンフルは主の体に飛び移り、大剣をその肉体に刺した。他の者達と違い、剣はまるで豆腐を切るように簡単に刺さった。
「ウソだろ……?」
「イグザムさんも苦戦してたのに……」
「俺達って一体……」
オプダット、ティミレッジ、フィトラグスは唖然とした。
ゲームの主役は自分達なのに、因縁のラスボスが活躍している。これでは面目が丸つぶれである。
主の体中に雷魔法の電撃が走った。ディンフルの大剣から魔法が放たれたのだ。
「これって、魔法剣?!」
三人が戦意喪失する中、ユアだけは胸が熱くなっていた。
ゲームの宣伝映像で見た光景が今、目の前で起こっている。しかもディンフルの無双状態だったので、彼を推すユアが感動しないわけがなかった。
主は相当なダメージを負い、倒れてしまった。
それでも顔だけ起こして、魔法を吐き続けた。最期が近いのか、炎、氷、雷、毒など、様々な属性の魔法が飛んで来る。
ティミレッジが最初に掛けてくれた白魔法が攻撃を相殺し、守ってくれた。
「しぶといな。ここで決めねば!」
ディンフルは主へ向かって必殺技を決めた。
「シャッテン・グリーフ!」
振った大剣から黒色の衝撃波が出た。
攻撃を受けた主の額の体毛が散り、皮膚に刺さる巨大なクリスタルが姿を現した。
「弱点はあの水晶だ。あとは頼むぞ、主人公達よ!」
いきなり振られて、フィトラグスは動揺した。
「お前、やらないのか?」
「“王子は国を消した張本人にトドメを委ねた”と、悪評が立つが良いのか?」
「冗談じゃねぇ!!」
ディンフルに頼ることだけは避けたいフィトラグスは吐き捨てると、主へ向かって駆け出した。
弱点が見つかってしまった主は急いで逃げ始めた。
「逃がさねぇ!」
オプダットは先回りすると、地面に向かって拳を突き出した。
「リアン・エスペランサ!」
オプダットの拳が黄色い光をまとい、地面に強烈なパンチを繰り出した。
地面の土が隆起し、主を取り囲んでしまった。これで逃げられない。
「サンキュー、オープン! 行くぞ!」
フィトラグスは再び主へ向かって、剣を振り上げた。
「ルークス・ツォルン!」
フィトラグスの必殺技が繰り出された。剣の衝撃波と一緒に溢れた白い光が、主のクリスタルを破壊する。辺りがまばゆい光に包まれた。
光が消えると、森の主がいたところには小型のキツネのような動物がいた。
「これは……?」
「クリスタルの悪しき力でモンスターにされていたのだ」
ユアの疑問にディンフルが答えた。元々は罪のない動物だったのだ。
キツネは無傷で、森の主であったことは覚えていないようだった。そして高くジャンプしながら、入って来た洞窟の上部から外へと逃げ去って行った。これ以上は手を出せない。
「これで、完了なんだよ……な?」
「そのようだ。これで、森の主との戦いは終わったんだ」
オプダットが尋ねると、フィトラグスが答えた。
これまでは悪い魔物を倒すと黒いモヤとなって消えていたが、今回は本来の姿に戻った。
予想外の終わり方に五人は拍子抜けしてしまった。
だが、これでイグザムの兄の仇を取れた。それだけでも達成感があった。
しかし、ディンフルだけは浮かない顔をしていた。
気付いたユアがマントを持って行こうとすると……。
「来てはならぬ!」
ディンフルが怒鳴った。足を止めると同時に、辺りに腐敗したような臭いが漂い始めた。
「な、何、この臭い……?」
「主が吐いた毒が土に浸透し始めたのだ」
森の主が吐いた毒魔法が洞窟の土に染み込んだ上、面積を広げていっている。ユア達が立っている場所へ向かって、自然を思わせる茶色から禍々しい緑色へと変わっていった。
ユア達がいるのは洞窟の奥。入口から徐々に地面の色が変わって行き、逃げ場所が塞がれていく。
「これって、RPGに出てくる毒沼ってやつじゃ……?」
ディンフルは「マントを羽織っているユアは安全だ」と言った。彼のマントには毒からも守る力がある上に、防臭の効果まであった。
「どんだけ有能なんだよ、お前のマント……?」
「マントが無い俺らはどうなるんだよ~?! このままだと死ぬぞ!」
フィトラグスはマントの力に引き気味で、オプダットはまもなく毒が来る状況を嘆いた。
五人の近くの地面が緑色に変わり始めたところで、ティミレッジが杖を掲げて呪文を唱えた。
「リリーヴ・プリフィケーション!」
杖から白と水色の光が上がるとシャワーのように地面に降り注いだ。光が当たると、緑色になっていた地面が元の茶色に戻り、腐ったような激臭も無くなった。
ティミレッジには必殺技は無く、代わりに浄化技を使えた。
九死に一生を得たフィトラグスは焦りから、礼を言う前に文句を言った。
「遅いぞ! もっと早く使えよな!」
「ごめん。オープンの技で地面が変形した時に杖を落としちゃって……。間に合って良かったよ!」
「お陰で助かった。礼を言う」
ディンフルがティミレッジへ感謝すると、見ていたフィトラグスが違和感を持った。
「んん? お前、そんなに素直だったか?」
「助けていただいたから感謝しただけだ。仲間であるお前が一番に言うべきだろう? それなのに”遅い”とは恩知らずな……」
正論だが故郷を消した者からの指摘に納得できないフィトラグスはディンフルを睨んだ。
「せっかく助かったんだから、ケンカしない!」
「“ケンカ”言うな!!」
やって来たユアが注意すると、二人は同時に反論した。
主人公とラスボスという関係により、仲良くないことに自覚はあったが「ケンカ」と言われると、まるで子供のように扱われているみたいで腑に落ちなかった。
しかし、声を揃えるところを見ると対立しているのは今だけで、フィトラグスとディンフルは実は息がぴったりかもしれない。
他の三人は口には決して出さず、心の中でそう思った。
ユアがディンフルにマントを返したところで、五人はイグザムの家へ帰り始めた。
「ところでディンフル、魔法が使えるようになったんだろ? それなら、空間移動してフィーヴェに帰れるんじゃねぇの?」
オプダットが期待をこめて聞いた。
フィーヴェには空間移動の魔法があり、一度行った場所ならどこへでも瞬間移動が出来る。異世界へ行けるかは試した例を聞かないが、それを使えばフィーヴェへ帰れるかもしれない。
「何度か試したが、この世界では空間移動は使えない」
「何だと?! そして、何で一人で帰ろうとした?!」
残念な結果だったのと、ディンフルが勝手に一人で帰ろうとしたことにフィトラグスはまた腹を立てた。
「実験しただけだ。だが、これだけ騒がしいと一人で帰るのも悪くはなさそうだ」
クールに返すディンフルに掴みかかろうとするフィトラグスを、オプダットとティミレッジの二人で取り押さえた。
それを見ていたユアは「せっかくカッコいいのに、どちらも大人げない……」と思っていた。
いざこざがありながらも、イグザムの家は目の前に見えていた。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




