第6話「森へ」
作中用語
・フィーヴェ:ディンフル、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットの生まれた世界。ユア達が目指している所。
・ディファート:見た目は人間と変わらないが、一人ずつ生まれつき不思議な力を持つ種族。能力は人それぞれ違う。昔から老若男女関係なく、人間から差別を受けて来た。
前回のあらすじ
森の主が姿を現した。イグザムはユア達を守るために果敢に挑むが、歯が立たない。
そこへディンフルが戻って来て、一人で主を圧倒し、彼方の森に投げ飛ばしてしまった。
ディンフルはまだ戦おうとするイグザムに家に残り、今いる家族を大切にするように伝える。
森の主がいなくなり、ユア達が家の前で話していると、家の周りの茂みから別の魔物が現れた。全身が真っ黒で体長は二メートルほどあり、頭にはモヒカンヘアを思わせるトゲが生えていた。
ディンフルが前に立つと、魔物は彼の横を素早く通り抜けた。
「早い……?!」
魔物は瞬時にユアを抱え、森方面へ飛んで行ってしまった。
「えぇぇっ?!」
いきなりの出来事に、残った者達は呆然と立ちつくした。
「な、何で、ユアちゃんが?!」
「魔物は特殊な力に引き寄せられると言うが、ユアには無い筈……。あいつが異世界の者だからか?」
「僕達も、この世界の人からしたら異世界の者ですよ?」
「確かに……。あいつは戦力を持っておらぬ。行くぞ、ティミレッジ!」
ディンフルは駆け出し、ティミレッジもイグザム達に「行ってきます」と一礼をすると、後を追って行った。
走りながらティミレッジは「きつく言ってたけど、ユアちゃんのこと心配してるじゃん」と心の中で思った。口に出すと、確実に反論されるからだ。
ユアは森の中にある洞窟に連れ去られた。中は見渡す限り魔物で埋め尽くされていた。
「ウソ……? こんなところにいるなんて、これは夢か……?」
もちろん悪夢の方である。
魔物は、ユアの世界では架空の生き物として紹介されたり、物事の失敗が続く時に名前が出るぐらいである。今までは魔物を本やゲームなどで見る側だった。
しかし今、それが目の前にいる。しかも大量に。
その時、連れて来た魔物がユアのポケットに手を入れ、スーパーボールサイズの緑の石を取り出した。
「返して! 大切なものなの!」
他の魔物が一斉にこちらを睨みつけ唸り始めた。
ユアは恐怖で動けなくなってしまった。
「ど、どうしよう……」
恐らく、魔物はユアが持っていた緑の石狙いで連れて来たのだろう。石を奪った今、ユアにはもう用がなかった。
一番手前にいる魔物が、牙を剥いて襲って来た。
「ディン様ーーー!!」
ディンフルの名を、いつもと違う呼び方で叫んだ。これは、ユアが彼に一目惚れした時から考えていた呼び名で、会えたらいつか使いたいと思っていた。
だが、フィトラグスがディンフルを憎んでいたので、彼の逆鱗に触れないために今日まで使わずにいた。
自身の死を悟った今、「もう使われることはない」と、思わず叫んでしまった。
その時、襲って来た魔物の体が真っ二つになり、黒いモヤとなって消えた。
「ユア、大丈夫か?!」
群れの中から、オプダットと剣を構えたフィトラグスが現れた。
「フィット、オープン!」
「何でこんなところにいるんだよ?! モンスターと友達になったのか?」
「んなわけないだろ! さらわれたんだよ!」
オプダットの妙な質問に、フィトラグスが一瞬ずっこけながらもつっこみを入れた。
ユアはやって来た二人を見て、「助かった……」と心から安心した。
「今、助けてやる!」
フィトラグスは剣を振るい、オプダットは得意の武術を駆使して魔物の群れと戦い始めた。一匹ずつは強くはなかったので、苦戦せずに切り抜けた。
その間にユアは魔物に奪われた緑の石を取り戻すと、戦っている二人に見えないように急いでポケットにしまった。
倒された魔物はそれぞれモヤとなって消えるので、一匹残らず倒してしまうと埋め尽くされていた洞窟内にただっ広い空間が出来た。
「よっしゃ! 倒したぞー!」
「多かったが、大したこと無かったな。ユア、大丈夫か?」
「うん。二人共、ありがとう。もうダメかと思ったよ……」
「簡単に諦めるな! どんな辛いことも、乗り過ごせば明るい未来が待ってるって言うだろ?!」
「“乗り越える”な! 乗り過ごすって、列車かよ!」
相変わらず言い間違えるオプダットにフィトラグスがつっこみ、それを見てユアは笑った。
九死に一生を得た後にいつもの光景を目にして、改めて「生きてる」と実感していた。
喜びも束の間、今度は洞窟の上部が崩れ、トゲが生えた体長四メートルのクマのような魔物が降って来た。ディンフルに飛ばされた森の主だった。
「ギャー! 新しい魔物~! しかも、でかい!!」
オプダットが騒ぎ立てる。
彼らはずっと森の中にいたので、主と会うのはこれが初めてだった。
「これが森の主だよ!」
「こいつが?! どおりで他の奴と違うわけだ! ユア、何で知ってるんだ?」
「家に現れたの! 帰って来たイグザムが教えてくれたんだ!」
ユアの話を聞き、フィトラグス達は改めて「イグザム達を家に帰してよかった」と安堵した。
さらに、途中でディンフルが助けに来たことや、主が彼にここまで投げられたことも説明すると、フィトラグスがおののいた。
「こんな巨体を投げるってあいつ、バケモノか?! いくら戦闘力に長けたディファートでも、すごすぎだろ……」
森の主は、家に襲って来た時と比べてヨロヨロとしていた。ディンフルにやられたダメージが効いているのだろう。
「これだけ弱っていれば、俺達でも倒せそうだな!」
「油断しない方がいいよ。皮膚は相当硬いらしいし、爪も牙も鋭いんだよ」
「爪?」
二人が揃って聞く。よく見ると、主の爪は短いままだった。
ディンフルをひっかいたが彼のマントには特殊な力があるらしく、逆に爪の方が折れてしまった。主の意志や魔法で伸びることは無いようだ。
「ここか!」
そこへ、主が入って来た穴から、ティミレッジをおぶったディンフルが空を飛んでやって来た。
「ディンさ……ディンフル、ティミー!」
ユアは「ディン様」と言うのをこらえ、呼び直す。
ディンフルは地面に降り立つと、すぐさまティミレッジを下ろした。
「何でラスボスにおぶわれてんだ……?」
フィトラグスがドン引きしながら聞くと、ディンフルがティミレッジを指しながら代わりに答えた。
「こいつの体力が無いからだ! 少し走っただけで息切れし、勝手に休み出すから見ていられなくなった! まったく! それでも主役の一人か?!」
「すいません……」
ティミレッジは主に魔法で戦うため体を鍛えておらず、フィトラグス達と違って体力には自信が無かった。それを見かねて、ディンフルがおぶって行くことにしたようだ。
敵である主人公一行に手を貸した上、叱咤までするディンフルに他の四人は「魔王なのにここまでしてくれるんだ……」と感心しつつも、若干呆れていた。
「てか、ディンフル。何で空飛んでるんだ?」
オプダットが目を丸くしながら聞いた。
「マントの力だ。これには飛行能力、物理や魔法からの防御力がある」
「物理や魔法からの防御」と聞いてユアは、はっとした。
先ほど、主の攻撃を防いだ上に爪を折ったのは、マントに宿る魔力なのだと理解した。
そして、フィトラグスもあることに気が付いた。
「待てよ。それって魔法の力だよな? つまり……?」
「そう! 僕達、魔法が使えるようになったんだよ!」
ティミレッジが声を弾ませながら言った。魔法を使うのは、白魔導士の彼が一番待ち望んでいたことなので、嬉しくてしょうがなかった。
「本当か?! それじゃあ、戦いやすくなるな!」
続けてオプダットも、より明るい声色で言った。仲間想いの彼は、彼らの戦力が戻ったことを自分のことのように喜んでいた。
五人でしゃべっていると、主の咆哮が響き渡った。
自分にダメージを与えたディンフルが来て、機嫌が悪くなったようだ。
森の主との最後の戦いが幕を開けようとしていた。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




