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第4話「戦闘開始」

作中用語

・フィーヴェ:ディンフル、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットの生まれた世界。ユア達が目指している所。


前回のあらすじ

ユア達は、イグザムが兄の敵討ちのために”森のぬし”という魔物を探していることを知る。森の主は相当強いらしく、ユア達は彼に協力することに決めた。

しかし、ディンフルのみ「人間に手を貸したくない」と言って立ち去ってしまう。

 去って行ったディンフルを除く男性陣で森の(ぬし)を探すことになった。


 イグザムは家へ剣を取りに戻った際、母親に(ぬし)退治に出掛けることを知らせた。

 彼女は不安そうに聞いていたが、オプダット達が手伝う旨を伝えると「息子をお願いします」と丁重に頭を下げ、彼らを送り出した。

 イグザムが兄を失ったということは、母もお腹を痛めて産んだ息子を亡くしているということだ。

「母にはもう辛い思いはして欲しくない」イグザムは必ず生きて帰ること、フィトラグス達は彼を死なせないと誓い、家を出た。


 戦えないユアは留守番となった。

 本人も他の者に迷惑を掛けるのは承知だったので、傍にいたい気持ちを押さえつつも残ることにした。






 フィトラグス達は、(ぬし)がいる森へ歩き始めた。

 道中でイグザムは、五人のことでまた気になることを聞いてみた。


「ディンフルさん……でしたっけ? “人間には手を貸さない”とおっしゃっておりましたが、あれはどういう意味なのですか?」


 フィトラグスがため息をついてから答えた。


「あいつは人間が嫌いなんだよ」

「人間が嫌い……?」

「ディンフルさんは“ディファート”という名の種族で、人間ではないんです」


 フィトラグスの回答では理解が難しかったため、ティミレッジが補足した。


「ディファートはフィーヴェ……と言うか、ユアちゃんいわく僕達のゲームシリーズに出て来る種族で、生まれつき一人につき一つ、特殊な能力を持っているんです。生まれてすぐに魔法が使えたり、勉強しなくても色んな世界の言語を話せたり、翼が無くても空が飛べたりと、人それぞれです」

「それ、すごくないですか……? この世界にはいないですね。ディファートって言うのも初耳だし。じゃあ、ディンフルさんも何か持ってるんですか?」


 イグザムの質問に、今度はオプダットが明るく答えた。


「ディンフルは戦闘能力がすげぇんだ。色んな武器をすぐに使いこなせるし魔力も高いし、何より武闘家よりも体が強いんだぞ!」


 イグザムは、ディンフルが拳一つで魔物を倒していたことを思い出した。

 武闘家ならともかく、そうでない者が拳だけで戦うのは難しい。武闘家でないのに拳一つで倒したディンフルは、やはり特殊なのだ。


 しかし、それが人間嫌いとどう結びつくのだろうか。


 「どうして人間が嫌いなんですか?」と質問した途端、フィトラグス達の表情が曇る。

 ティミレッジが代表して答えた。


「昔、両者の間でいざこざがあって、人間から一方的に嫌うようになったんです。それまでは共存していたのですが……」

「いざこざって?」

「大昔に起きたディファートが発端のトラブルがきっかけと言われています。具体的にはわからなくて、すいません。昔からディファートに関しては“深入りするな”って言われていて、学校の教科書にも載っていないし、大人達からも“関わるとろくなことがない”としか言われて来なかったんです」

「教科書に載っていないなら仕方がないですね。その様子だとディンフルさん、人間とうまくやれて来なかったのでは……?」

「正解。あいつの場合、性格もあると思う。さっきの態度を見ただろ?」


 フィトラグスは罵るように言った後で続けた。


「でも、ディファートの中でも弱そうな子供や女性と高齢者を、人間が平気で殺しているって噂もある。差別は今も続いているし、ディンフルも小さい頃から苦しんで来たんだろう。それらのせいでディファートは絶滅寸前で、今ではあまり見かけない」

「フィット。正義の国なら、ディファートを助けてやったらどうだ?」

「父上が何度か提案して来たが、他の国は猛反対だ。ディファート側も人間を見て逃げ出すらしいし、俺自身もディンフル以外のディファートと会ったことがない」


 オプダットが提案するも、フィトラグスは残念そうに答えた。

 正義の国の王子として、人間から忌み嫌われているディファートはやはり放っておけない。

 しかし、自分達の故郷を奪った相手でもあるので、複雑な心境になっていた。



 話しながら歩いていると、森方面の道から腕や頭にトゲを生やした二足歩行の魔物が数匹現れた。


「早速来たか。みんな、行くぞ!」


 フィトラグスが剣を抜きながら合図をすると、オプダットはファイティングポーズを構え、イグザムも自身の剣を抜いた。

 しかし、ティミレッジは顔が青ざめていた。


「……忘れてた」

「あっ……」


 同時にフィトラグスとオプダットの顔もこわばる。

 イグザムは魔物と戦いながら、三人を心配した。


「どうしたんですか、皆さん?!」

「イグザム、悪ぃ! 少しだけ時間をくれ!」


 オプダットが慌てながら言うと、ティミレッジを連れて別の場所に移動し始めた。


「な、何事ですか?!」

「実は僕達、今、魔法が使えないんですよ!」


 ティミレッジが振り向きざまに答えた。

 思わず動きを止めたイグザムに魔物の鋭い爪が襲い掛かる。だが、寸前のところでフィトラグスが魔物の手を斬って助けてくれた。


「どういうことですか?」

「説明は後だ! オープン、ティミーを頼むぞ!」


 オプダットとティミレッジが来た道を引き返そうとするが、その先からも魔物の群れがやって来ていた。


「ウソだろうが?!」

「ぼ、僕、安全なところに隠れてるよ!」


 ティミレッジが離れると、オプダットは武術で魔物を次々と倒していった。しかし相手の体は硬く、拳一つというわけにはいかず、蹴りを駆使してやっと倒せるぐらいだった。

 オプダットは改めて、ディンフルの強さを認識した。


「やっぱり、ディンフルは()()だな」

「それを言うなら()()ね!」




 イグザムとフィトラグスの剣術もあり、魔物の群れは何とか倒した。


「やっと倒せた……」


 数が多かったため、三人は既にヘトヘトだった。

 ただでさえ疲れが溜まっているイグザムは特に疲弊していた。


「この世界、何でこんなに魔物が多いんだ? よくこれで生活できてるな……」

「森の(ぬし)のせいです。奴は魔法で仲間を召喚しているんです」


 フィトラグスの疑問に答えた後で、またイグザムが尋ねた。


「魔法で思い出したのですが、さっき“使えない”っておっしゃっていましたね?」

「あ、はい。フィーヴェにいた時は使えてたんですけど、ラスボス戦が中断して別世界に飛ばされてから急に使えなくなったんです。だから僕、今は役立たずで……」

「使えなくなったのはティミーだけじゃなく、俺とディンフルもそうだ」

「フィトラグスさんとディンフルさんもですか?! 魔法が使えないって、まずいじゃないですか! 何か原因は?」

「わかってたら、とっくに解決してるよ」


 オプダットは元々魔法が使えないので関係はなかったが、仲間の戦法が減ったことを気の毒に思っていた。


「もっと早くに思い出すべきでした……。僕、今から戻ってユアちゃん達と家で待っています」

「なら、送って行きましょう」

「じゃあ、俺らは先へ行っとくよ」

(ぬし)が出たら倒しとくぜ!」


 二手に分かれて行動することになった。

 イグザムはティミレッジを家へ連れて帰り、フィトラグスとオプダットはそのまま森の中を進むことになった。






 その頃、イグザムの家で待つユアは彼の母と世間話をして楽しんでいた。ユアが自分の世界の話をすると、母は喜んで聞いてくれた。


「そう、おとぎ話の人と会えるなんて素敵ね」

「素敵なんてものじゃありませんよ~」


 普通は出来ない「架空の者と会って話が出来る」という内容で盛り上がっていた。

 ユアはデレデレしながら話していた。好きなゲームのキャラと会えた上、一緒に旅までしているのがよほど嬉しいのだろう。


 しかし先ほどから、外では家の窓がガタガタと鳴るほどの強風が吹き荒れていた。


「みんな、大丈夫かな……?」

「……あの子のお兄さんが殺された日も、風が強かったわ。こんな感じで、家が吹き飛びそうになるぐらいに……」

 

 ユアが皆を心配すると、イグザムの母は俯き、怯えながらつぶやいた。


 母は自分の息子が死んだ時を思い出したのか、寒がるように自分の体を抱きしめた。

 ユアは隣に立つと、優しく彼女の背中をさすり、励ました。


「みんな、帰って来ますから……。フィット達も一緒だし、大丈夫ですよ。それに、お兄さんも見守ってくれているはずです」



 ドォン!!



 轟音と共に、家の中が激しく揺れた。


 椅子に座っていた母は怖さのあまり机に突っ伏してしまい、立っていたユアは倒れてしまった。

 倒れた拍子にボトムスのポケットから、緑色の石が落ちた。スーパーボールのようにまん丸で小さかった。


「いけない!」と、ユアは急いで起き上がりそれを拾い上げた。石は輝き一つなく、くすんでいる。


「あれ? この石、いつもはツヤっぽいのに……」


 その時、家の屋根が突然破られ、鋭い爪を生やした巨大な手が現れた。


 ユアと母は悲鳴を上げると、急いで外に出た。




 空は薄暗い上に曇り空に覆われ、風も強く気温も低くなっていた。

 

 寒い中、二人が恐る恐る屋根を見ると、巨大な魔物が屋根に手を突っ込んでいた。

 クマ科の動物を思わせる見た目をしていたが体は四メートルほどの巨体で、体のあちこちからトゲのようなものも生えていた。明らかに普通の動物ではない。


「ここにもモンスターが?!」


 男性陣は全員出てしまっており、そこにいるのはユアとイグザムの母の二人だけ。

 魔物は屋根の上から二人を睨みつけていた。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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