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第2話「異世界の者達」

前回のあらすじ

魔物と戦うイグザムの元に、突然五人の男女が現れた。

勇者のフィトラグス、白魔導士のティミレッジ、武闘家のオプダット、魔王のディンフル、そして少女ユアの五人は異世界から来たらしい。

不時着の際にケガをさせてしまったので、彼らはイグザムを家に送り届けてくれた。

 イグザム宅での食事の席。

 全員の紹介が終わり、魔王のディンフルがイグザムとその母親に尋ねる。


「ここはフィーヴェか?」


 イグザムと母は、目を丸くして聞き返した。


「フィーヴェ?」

「……って、何ですか?」


 二人の反応を見て五人はため息をつき、加えてユアは机に顔を伏せた。


「ここも違うのかぁ……」

「な、何がですか?」


 落胆する彼らに、イグザムが焦った。


「僕達、行きたい世界があるんです。ずっと、この本で色んな異世界を飛び回ってるんですけど、ランダムなのでどこに行くかわからないんですよ」


 白魔導士のティミレッジが、持っていた本を見せながら答えた。

 本は何と、中のページ以外のすべてがクリスタルで出来ていた。


「クリスタルで出来ているんですか?」

「はい。しかも、相当強い魔力をまとっています」


 ティミレッジはさらに説明してくれた。

 本には専用の鍵が必要で、それを使わないと本は開かず、異世界へは飛べないそうだ。

 鍵はユアが持っており、本と同じようにクリスタルで作られていた。

 

 ユアが鍵を見せながら言った。


「このどちらかが欠けると、私達お手上げなんですよね」

「皆さんは何故、そのフィーヴェって世界に行きたいのですか?」

「あぁ、それは……、どこから話そうかな?」


 話すには長くなるらしく、ユアは迷い始めた。

 すると、横からディンフルが代わりに答えた。


「フィーヴェは我らの故郷だ。三対一で戦っていたところ、謎の竜巻に飲み込まれ、別世界に飛ばされた。そこで出会ったユアを交え、五人でフィーヴェへ向かっているのだ」

「三対一……?」


 それらが誰なのかイグザムはすぐにわかった。フィトラグス、ティミレッジ、オプダット、ディンフルだ。

 ユアは明らかに戦闘向けの格好ではないので、違うと思った。


「ディンフルと俺らは元々、敵同士だったんだ」


 武闘家のオプダットが説明した。

 確かに、紫の長い髪に黒いマントという出で立ちのディンフルは、正義の勇者の仲間とは思えなかった。


「“元々”……? 俺は今でも敵だと思っているぞ」


 勇者のフィトラグスが会話に加わる。


「俺達は冒険物でいう勇者のポジションだが、そいつは違う。ディンフルは魔王で、俺達の故郷を消したんだ」

「消した?!」


 イグザムが驚いて声を上げると、すぐにティミレッジが訂正した。


「け、消したというより、異次元へ送ったんです!」

「フィーヴェから消した点では同じだろうが!」


 故郷を奪われたことに変わりはないので、フィトラグスが怒鳴った。

 イグザムの母も気になり、話に参加した。


「送られた人達はどうなったの?」

「異次元がどんなとこかはわからねぇが、大丈夫じゃないっすか?」


 オプダットが食べながら答える。悪い方向に考えていないのか、焦りが感じられなかった。

 それを見て、フィトラグスが再び憤る。


「何を根拠に言っているんだ?! もし危ないところだったらどうする?! モンスターがたくさんいたり、毒気を帯びた空気が流れていたり食べ物がなかったり、どんな世界かわからないんだぞ! 危ないかもしれないところに俺達の故郷ごと飛ばされたんだ! 国民もどうなってるかわからねぇんだぞ!」

「国民?」

「フィットは一国の王子様で、自分の国を大切にしているんです」


 ユアが答えた。

 イグザムは、フィトラグスは王子である故に故郷を消したディンフルを心底憎んでいることを理解した。


「逆に、ディンフルと仲良くしているティミーとオープンが理解できねぇよ!」


 次にフィトラグスは、ティミレッジとオプダットを睨みつけた。二人からはディンフルに対する敵意が感じられない。

 ティミレッジに関しては敬語で話し、「さん」付けまでしていた。


「一緒にいてたら良いところもわかって来たし、意外と優しい人だなって思ったから」

「や、優しくした覚えなどない! 貴様の幻覚だ!」


 ティミレッジがニコニコしながら答えると、ディンフルは焦りながら否定した。

 フィトラグスはディンフルを指しながら、ティミレッジに再度確認をする。


「こいつが優しいだと? 故郷ごと異次元へ飛ばしてフィーヴェから人間を消そうとした、こいつが?!」


 フィトラグスが迫ると、ティミレッジはおどおどして返答に困った。

 そこへ、オプダットが割り込んだ。


「もし、消された人達がケガしてたらティミーの白魔法で治せばいいし、ディンフルもそのうち元に戻してくれるだろ。何より、敵と仲良くなるチャンスだぜ!」

「正気か?!」


 オプダットは「みんな仲良く」をモットーとしているらしく、最初から和解を前提に参戦したようだ。


「お前はいつでも前向きだな……。その明るさをこいつにも分けてやってくれ。人や町を消すぐらい暗い奴だからさ」


 フィトラグスは再びディンフルを指しながら、オプダットへ言った。怒鳴って疲れたのか、怒る元気が無くなっていた。

 しかし、今の例え話を彼はまともに受け取ってしまう。


「明るさを分けるって、ランタンを買い足すのか?」

「は?!」

「あと、俺はいつでも前向きだぞ! 前向いて歩かないとつまずくし、馬車にもひかれるだろ?」


 明らかに勘違いをしていた。

 イグザムと母は「大丈夫か、この人……?」と言わんばかりで反応に困った。


「心配しないで下さい。いつもこんな感じなので……」


 ユアが二人へ助言をすると、フィトラグスはさらに不満な面持ちで言った。


「一番信じられないのがユアだよ。何だよ、ディンフルに一目惚れって? こいつが俺らの故郷を消したの知ってるんだろ?」


 男性陣には声を張り上げて怒っていたフィトラグスだが、ユアには落ち着いたトーンで話した。優しく接すると言うより、失望しているようにも見えた。


「一目惚れ?」

「は、はい。……だって、トレーラーで見た時から、ディンフルの顔が頭から離れなかったのでっ!」


 ユアは言いながら、顔を両手で隠した。両手越しでも彼女の顔は赤くなっていることがわかったし、耳まで真っ赤になっていた。


「そんなに!?」

「よっぽど好きなのね」


 首から上を真っ赤にしながら動揺するユアに驚くイグザムとは対照的に、母は「青春ね」と言いたげにニコニコ笑っていた。


「ユア、何言ってるんだ? “ディンフルの顔が頭から離れない”って……?」

「ちょっと黙ってようか。オープンが喋ると、ろくなことないからさ」


 オプダットが言い終える前に、ティミレッジが遮った。


「そもそも、“とれえらあ”って何だった?」


 今度はフィトラグスが尋ねた。前にも聞いたことがあるそうだが彼らには馴染みがないらしく、忘れてしまっていた。


「“宣伝映像”って意味じゃなかったかな? ユアちゃんの世界では、娯楽作品が出る前は”動く写真で人々にアピールする”って言ってたじゃん?」

「彼女の世界?」

「あ、私だけフィーヴェの出身じゃないんです。異世界の中でも特に異様なところから来たんです」



 ユアもわかりやすく教えたい気持ちは山々だったが、どこから話していいかわからないし、何より説明が苦手だった。

 上手く言葉に出来ないでいると、またディンフルが代わりに解説してくれた。


「我々の戦いがユアの世界ではゲーム……つまり、娯楽になっているらしい」


 異世界だけでもミステリアスなのに、「戦いが娯楽になっている」という明らかに誤解されそうな言葉にイグザムはますますわけがわからなくなった。

 他の三人も解説に参加した。


「僕達は、ユアちゃんの世界にあるゲームのキャラクターらしいんです。フィットが主人公で、僕とオープンはその仲間。ディンフルさんはラスボス……最後の敵ってことだね」

「この五人で旅に出てるのがすごいよな!」

「何せ、ゲームの主人公一行とラスボスとプレイヤーという異様な組み合わせだからな。俺は認めていないが」


 イグザムの頭はこんがらがっていた。

 異世界、クリスタルで出来た本、物語に出る者とそれを見る者(その内、二人は因縁同士)が普通に会話して一緒に旅に出ている等、この短時間でたくさんの要素が出て来て頭が追い付かなかった。

 そもそも何故、遊ぶ側のユアが物語に出る者と出会えたのかも理解し難かった。


 イグザムは今まで生きてきた中で、異世界はおとぎ話で自分の周囲には存在しないと思って来た。

 一応、この世界にも魔法は存在するが、魔物を倒すための黒魔法や傷を治したり敵の攻撃から防いでくれる白魔法ぐらいしかなく、おとぎ話で聞いた移動系の魔法は存在しなかった。

 だから今、魔法の本の力で世界を移動して来た五人が信じられなかった。




「そういえば、墓参りには行ったの?」


 横から母に話しかけられ、イグザムは正気に戻った。


「あ、忘れてた……。今から行って来るよ」


 大切な用を思い出し、彼は心身共に疲れながらも、再び外へ出た。


 ユア達は、彼が魔物に襲われないよう護衛のためについて行った。

 外はもう薄暗くなっていた。

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セルフチェックはしておりますが気になる箇所がありましたらご指摘ください。今後のモチベ向上と改善に活かしていきます。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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