008 やらかしてしまったようで
王都のフルーツ屋さん、あまりの注文量にびっくりされた。前金を要求されたので、怪しまれたのかもしれない。しかし、これは現実なのだ。そしてその全てが、かわいらしいお口に消えていくこととなる。
―――本当、どこに入ってるんだろ。
おなかのなかに魔法でも隠してるんじゃないかと疑うほど。アリスは大きなメロンを2つ抱えているが、おなかまわりは俺よりも細い。華奢な身体からは想像もつかない威力の攻撃を繰り出すその姿、魔王軍からは「戦慄」なんて呼ばれていたりもする。
「ただいま戻りまし…。」
視線の先にはアリス。それは良いのだが、いつもと違う。そうだ、服を着ていない。まくりあげられたワンピース。どうやらお着がえ中だったらしい。…まずい。
『…。』
「し、失礼しましたっ!」
振り返って外に出ようと焦る俺。ドアが開かない、開かない。そうか、鍵を…。
『おう待たんかい。』
怖い。身体中の筋肉が硬直する。なんなら心臓も止まりそう。
「は、はい。」
『ノックくらいせんかい。』
「すみません。」
その後は記憶がない。何が起きたのだろうか。気づいたときはベッドの上だった。隣にはスヤスヤと寝息を立てているアリス。…寝よ。現実逃避を心に決め、毛布をかぶった。
■
目覚めたアリスと目が合った。何も言わないのも変なので、とりあえず謝る。
「あの…おはようございます。昨日は…その…ごめんなさい。」
『な、なんのことかなー。私わかんない。』
突然の棒読み。
「何か…しました?」
『してない、してない。』
目が泳ぎまくっている。絶対何かした。そういえば昔、かどというかどに小指をぶつける魔法をかけられた。あまりの辛さに30分土下座して許しを請うたことがある。まさか、あの再来か。
『10歩すすむ度に何かが落ちてくる魔法なんて、かけてない、かけてない。』
それか。自白しよったこの美少女魔法使い。
「具体的には何が落ちてくるのでしょうか…?」
『さ、さぁ?昨日、ちょっと手もとが狂って調整を間違っちゃって…。その…ごめんね。』
先に謝られる珍しいパターンだ。しかも調整をミスったと。怖すぎる。俺、生きていられるだろうか。
「そ、そう思うなら解除してくださいよ!」
正論をぶつけてみるが、アリスのお着がえを見てしまった罪、そう簡単には消えないらしい。
『3回くらい落ちてきたら解除するから…。』
3回…。よっぽどヤバいことが起きるんだな。
■
―――7…8…9…。
あと1歩で何かが起きる。怖すぎる。そして少し離れた場所のアリスは、杖をしっかりと構えている。しかも何が起きても宿屋に迷惑をかけないようにと、人里離れた山の頂上に転移魔法でとばされた。よっぽどヤバいのだろう。
―――えーい、行くしかない!
右足を踏み出したその瞬間。
「え…?」
頭上に黒いもやが登場。まがまがしすぎるオーラを感じる。
―――ゴギガガガガガガッ
そうですか。モンスターが出るんですね。
「…モ、モンスター!?」
『でたわね魔王軍!』
「魔王軍!?ヤバいの来ちゃってるじゃないですか!」
銀色のライオン…メタリックな雰囲気から防御力の高さと…。
『カイト!そのまま頑張って♪』
「頑張ってって…ふぎゃっ!」
予想通りの重さが押しよせた。重心をずらして回避したものの、防御魔法がなかったらヤバかった。そんな俺を無視して、アリスは魔法陣を展開する。
『終焉の煙火っ!』
「ひぃぃぃぃっ!」
モンスターを包み込んだ球状の炎。爆発的な火力から必死に逃れんとするモンスターと俺。モンスターは一瞬で煙となったのだが、俺、完全に巻き込まれている。防御魔法のおかげで熱くはない。むしろ恐怖の影響からか…寒い。
もう勘弁。逃げよう。
―――あっ…。
駆けだしてしまった俺。気づいたときには遅かった。今踏み出した左足、これで10歩目。
「終わった…終わりました俺。」
再びまがまがしいもやが頭上を覆う。もう恐怖すら感じない。バチバチと雷撃が飛び回り、斧を構えた巨体が現れた。
『もー、カイト!勝手に走らないで!』
いやいやいやいや、無理ですって。あの状況で逃げるなとか…。
逃げ惑う俺。次々に出現する魔王軍。幹部クラスのモンスターを、片手間に消滅させるアリス。再び逃げ惑う俺。
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