004 パジャマに隠された破壊力
「あの…お着替えのほうは…どうしましょうか?」
宿泊となると、その、見てはいけない布も準備しなければならない。俺のぶんは当然ながら自分で準備するとして、アリスのぶんは…。片付けているの俺だから場所は知ってるし、もちろん種類も…あっ…。
『着替え?あぁ、とりあえず2泊分お願い。』
いえ、そういうことではなくてですね。
「えっと…下着とかも…?」
『…?なぁに、いっつも洗濯干すとき見てるじゃない。今さら…。』
ニヤニヤしながら右手をふりふりするアリス。頬が染まって見えるのは気のせいだろうか。
―――…ん?
だとしたら、なぜ俺はビンタされて床に額をたたきつけなければならなかったのでしょうか。…いや、さすがにわかってる。ちょっと心の中で反抗してみたかっただけだ。
『よしと…先にお風呂入るね。明日からの準備、よろしくー。』
「はい…あっ。」
目を逸らす俺。アリス、お願いだから脱衣所のドアしめて。
■
「アリスさん、アリスさん。おはようございます。そろそろお時間ですが…。」
アリスの寝室は、絶対不可侵領域である。以前掃除のために入ったところ、トラップというトラップを受けて寿命が縮まった。俺はことごとくトラップを踏み抜き、部屋の外に出る頃には消し炭状態。トラウマ級の記憶がたった数センチの段差を世界最高峰にしている。ただ、なかに入らなければ良いので、ドアは開けられる。かわいらしい寝顔をみたいという出来心から、なぜか視力がよくなった気がする。絶対に気のせいだが、心の目というやつが開花したのだろうか。
『むうぅぅん…もう少しだけねりゅ…。』
かわいい。かわいいけど、本当に時間がヤバい。アリスの遅刻は今に始まったことではないが、とばっちりを受けるのは俺なのだ。アリスには誰も文句を言えないから、表ではにこにこしている。アリスの「ごめんなさい」に、「いえいえ、私たちも今着いたところですから」と返ってくるのがセット販売。その後、俺だけ「弟子としてアリス殿を定刻にお連れするのは当然」とお叱りを受けるアフタードリンク付き。
―――はぁ…。
俺は弟子ではない。『下僕』なのだ。言えないからあれだけども、察してくれ。
―――仕方ない。いつもの作戦で。
「アリスさん、そろそろフルーツが届きますよ!」
『ふぇっ!?フルーツ!起きる!食べる!急ぐぅー!』
かわいい。毎日配達してもらっているフルーツセット。安いものではないのだが、俺の生命を守りつつアリスを起こすためには…これしかなかった。
■■下僕の心得■■
機嫌を損ねてはいけない。機嫌をとりすぎてもいけない。
『カイトー、フルーツどこー。』
パジャマ姿で目をキラキラさせているアリス。ぴょんぴょんと飛び回りながら、なぜか部屋を1周。さっきまでのおねむな表情はどこへやら。そしてフルーツならあるじゃないですか。ほら、あなたのパジャマに隠れたメロンが2つ。
…冗談です。ちょっとからかってみたかっただけです。そんなこと思って…はいるけど、絶対言えない。言ったら地の果てに飛ばされる。
「配達ボックスに入ってるはずです。持ってきますね。」
表情を崩さないよう、即座に踵を返す。
『うん!あ…おはよ。』
「おはようございます。」
踵を再び返し、一礼。三度踵を返す。早歩きで玄関へ。
―――危険だ…朝から破壊力が…。
ありすぎる。
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