表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

002 キスの代償は下僕

「助かりました…ありがとうございます。」



キスの感覚がなくなった頃、俺は意識を完全に取り戻した。とりあえずお礼を言うと、想定外の言葉が返ってきた。



下僕(げぼく)。荷物を持て。』



俺、今、死にかけてましたよね。何言ってるんですか、あなた。やばいやつに助けられてしまったと謎の後悔(こうかい)をする俺。しかし、その意に反し、身体が反応。腕を伸ばし、俺は軽く10キロはありそうなカバンを受け取っていた。



『うん。返して。』



なんですかこれは。何かのプレイですか。思考のタイムラインにクエスチョンマークが連投されるが、身体は意に反して動く。カバンを仰々(ぎょうぎょう)しくかかげ、美少女に返す。



「あの…一体…?」


『私はアリス。魔法使い。キミは魔王(まおう)の幹部に襲われて死にかけてた。古代魔法で命を救った。契約の代償(だいしょう)として、キミは私の下僕になった。』



美少女から機械的な説明をいただいた。…ん?いただいた…?思考までもが下僕に寄っていた。現実が受け入れられない。こんな美少女の下僕なら…いや、よくない。救命と引き換えの下僕なら…いや、やっぱりよくない。



『安心して。命令するつもりはないし、今まで通りの生活をしていれば大丈夫。ただし…このことは誰にも言わないこと。』


「じゃあ…その、キス…のことも?」



意地悪で質問したわけではないが、美少女…もとい、アリスが紅潮する。



『キ…キスなんてしてない。』


「いや…だって、さっきずっと…。」


『してない。』


「…。」



無言で自分の唇に触れる。幸せな感触がよみがえり、変な声がもれそうになる。



『…忘れて。契約のためには仕方ないの。』



これがアリスと俺の出会いだった。


そして俺は、アリスに心を奪われた。寝ても覚めてもアリスのことを考えてしまう。とけてしまいそうな唇の感触と、強さに覆われた優しい目。あの日あの時の光景が、心から離れなくなった。別に魔法の副作用というわけではなく、本心から。


俺は、アリスに恋をした。







それから俺は死に物狂いで魔法の勉強をした。魔法使いとして生きていれば、どこかで再会できるかもしれない。あの時は混乱の(うず)で伝えられなかった気持ち、なんとしても伝えたい。その一心で冒険を続けること1年。ついに俺はアリスと再会した。



「あの…アリスさん。」


『どてっぱらを貫かれてた下僕さん…どうかされましたか?』



怪訝(けげん)な表情を浮かべるアリス。飛び出してくる言葉はともかく、見た目はほんわかしていて愛くるしい。



「俺と…デートしてくださいっ!」


『…へ?』


「お願いします!それでダメだったら諦めます。」



頭を下げる俺。数時間後、頭を下げるイコール土下座になっているとは夢にも思わなかったが。



『…無理です。』


「…そうですか…。」



仕方ない。こんな美少女が俺なんかに振り向いてくれるはずがなかった。助けてもらえただけでラッキーだったと思おう。人生の甘酸っぱい思い出の1(ページ)後生大事(ごしょうだいじ)に心の引き出しへ。



『でも…一緒に暮らすなら良いですよ。』


「…ですよね…。…え…本当ですか!?」


『もちろん、下僕として。』


「…。」



そしてなぜか話がまとまってしまい、今日にいたる。


ただ、特に今の生活に不満はない。命令されることもあるが、極めて常識的なものばかり。服を脱ぎっぱなしにしないとか、食べ終わったらお皿を片付けるとか、共同生活をしていれば当たり前のことばかり。むしろ大好きな女の子と一緒に暮らせてうれしいくらい。…さっきみたいな悲劇もあるけども。



―――なんで一緒に暮らすなんて…。



そればかりは謎。どれだけ聞いても教えてもらえないし、あんまりしつこくすると魔法で吹き飛ばされてしまう。もしかしたら、いざというときに身代わりとして、魔王とかに差し出されたりするのだろうか。怖い想像が思考を埋め尽くすが、あんなかわいい女の子がそんなことするはずない。



「とりあえず…洗濯の続きしよ。」



そういえば洗濯の途中だった。脚立にのぼり本を探していたアリスが杖を落とし、洗濯ものを干していた俺を呼んだのが全てのはじまり。しかも俺は今、さっき見た布と機能面において同一なものを干している。水色で小さなリボンが付いているドット柄…清楚(せいそ)系?だ。これはオッケーで、穿()いている状態だとこの世から消されそうになる。なんだかな。


コホン。冗談はさておき…というわけで、俺はアリスのお手伝いさん的ポジションについている。世間体を考慮し、弟子という扱いにはなっているが、特に魔法を教えてもらっているわけではない。それでも門前(もんぜん)のなんとやら、この世界最強レベルの魔法を間近で見ているわけで、結構魔法がうまくなってきたと自負していたりはする。

お読みいただきありがとうございます!

評価・感想などいただけますと、パソコンの前でこっそり狂喜乱舞します(笑)

また、更新不定期ですが、気長にお待ちいただけますと幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ