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ふたご。

作者: さくら

一気に書き上げたからだいぶ短いですが、

読んでいただけたら嬉しいです。


なんだか虚しいな。

そんな気分がずっと晴れない。


なんの予定もない休日。

目が覚めてから数時間。

未だに自室のベッドに転がりながら、うだうだと思考を彷徨わせている。


こうしている間にも、僕の愛しい人は他の男と過ごしている。

泊まりだし、いい大人だから、やる事やったんだろうな。

とかさ、情けなくもいろいろと考えてしまう。


僕と愛しい彼女は「従兄妹」だ。


彼女は小学生の頃に両親である伯父夫婦が交通事故で亡くなってから、うちに引き取られて一緒に住んでいる。

僕らは同い年。親は男兄弟だから苗字も一緒。


母である嫁同士がとても仲がよくて、家も近く、小さな頃はどこに行くのも一緒だったから僕達もとても仲良しだった。

誕生日も近くて、周りからは「誕生日の違う双子」だなんて言われていた。

僕がすこしだけ早く産まれたから、僕がお兄さんで彼女が妹みたいな関係で。


伯父夫婦のお葬式で、もう二度と両親に会えないって分かった彼女が泣きじゃくる姿を見て、お兄さんの僕が慰めなきゃいけない!って幼心から思った。

だけど、大好きな伯父夫婦に会えない悲しみで僕も泣き出して、結局二人で一緒になって号泣してたのは今となればいい思い出なのかもしれない。


手を繋いで登校してた小学生の時にはこの先ずっと彼女と住むんだって本気で思っていた。

将来の夢を語るときもずっと一緒だった。

僕がパンが好きだから二人でパン屋をやろうって彼女が言ってくれて、嬉しくなって。

でも、彼女がケーキが好きだから、僕はケーキ屋もやりたいって言って喜んでくれて。

母さんも父さんも、あなた達は早起きが苦手だから頑張って早起きさんにならないと。って笑っていた。



自覚したのはいつだっただろうか。



セーラー服のリボンが揺れた時か

ブレザーのネクタイを結んでもらった時か

合格発表の日に掲示板の前で抱きついて来た時か



多分、全部正解で。

そして、不正解だ。



「お母さん聞いて!彼氏ができたの!」


そんなことを、彼女が無邪気に母さんに話していたのを聞いた時、目の前が真っ暗になるってこの事だったんだな。なんて他人事のように思ったことを覚えている。


その時の笑顔は、僕に向けて笑ってくれる時の笑顔とは全く違う笑顔で、顔も名前も知らない彼氏とやらが憎くて羨ましくてたまらなかった。

小さな頃からずっと一緒だったのに。

僕じゃない知らない男と手を繋ぐ彼女を想像しただけで泣きたくなる。


でも、見たこともない、すこし照れた様なはにかんだ彼女の笑顔を見ると何も言えなかった。

僕じゃダメなの?とか言ってみろ。

あの笑顔も、大好きな今までの笑顔も、もうきっと見せてくれなくなる。


この気持ちは、外に出せることもなく、儚く散ったのだ。


そばにいることに胡座をかき油断していた自分が。

彼女が誰かのモノになるなんて想像しなかった自分が。

手を伸ばせば触れれる距離にいたのに抱きしめなかった自分が。


想いを伝えなかった自分が悪いのだ。

そう。自分に言い聞かせた。


聞いてしまってから幾日立とうが、もやもやした気持ちは晴れなかった。

彼女達が仲睦まじいカップルだという噂は大学で友人から聞いた。

妹離れしろよー。とか、お前も彼女作れよ。とか、合コンするか?だなんて言ってくる友人もいた。

それらを聞き流しながら何日も過ごした。


昨日の晩御飯のとき、彼女がまだ帰ってきてないから母さんにどうしたのか聞いたら、


「あの子今日はお泊まりですって。若いって良いわねぇ。いつも行ってるのにわざわざ、今度一緒にお洋服見に行きましょ。おねいさんに見える服選んでほしいのって言われちゃった。恋っていいわね。可愛いわー。」


なんて言われた。


どんな顔でどんな返事したかな。

昨日のこと、厳密に言えば12時間も経ってないのに覚えてない。

でも、その後の母さんのご機嫌を損ねてないようだったから、きっと仕舞い込んだ気持ちは隠せたままでいれたのだろう。


彼女がその彼氏とやらと上手くいけばいいなと思う。

彼氏とやらなんて認めたくないけど、彼女が選んだ自分の人生だから、彼女を応援するのが「双子の兄」として当然ことだ。

そのかわり、彼女を悲しませたら承知しないって思う。


吐き出せなくなったこの気持ちを昇華させるのに、今はとにかく時間が欲しかった。





階下から玄関のドアの開く音がした。

「ただいま〜。」

と、愛しい人の声がする。


時計を見たらもう昼だった。

空腹を思い出した腹が音を立てた。

隣の彼女の部屋のドアが開く音が響く。


手を繋いで同じベッドに転がったり、寝癖のついたパジャマのまま会えるのは、僕だけの特権だと思ってたのにな。


仕舞い込んだ気持ちがチクリと痛むけど、起き上がって部屋を出た。

開けっ放しだった隣の部屋のドアを閉めて、そのままドアにもたれかかる。


「え!?んっ!?開かない!?なにーー!?ちょっとー!?」


と、イタズラされたと思った彼女の声を聞いた。


口が裂けても『好きだ』なんて言えないから。

彼女からのただいまを聞いたら、僕はまた双子に戻れる気がしたから。

だから、ドア越しに「おかえり。」と言った。

笑いながら、「ただいま。」って言ってくれた彼女のことがやっぱり好きだって思って、苦笑いしたけど。



ただ、双子の妹に幸せが続きますように。


推しの楽曲を聴きながら書き上げました。

もしお時間あれば、ぜひ、pretenderを聴きながらもう一度目を通していただけたら幸いです。


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