弟を追って
始めての投稿です。
仕事が忙しいので多分週1回ペースになると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします!
天界
漆黒の世界が視界を支配する。
こんなにも全力で向かってきてくれる弟に兄はこれまでになく喜んだ。
俺も全力で相手しないとな。
そんなことを考えていると、漆黒が晴れ、弟が俺に向かって飛び込んで来る。
「ようやく俺と共に生きてくれる気になったか!」
弟は生まれて1か月になるころには既に反抗期であった。
なんて成長の早い弟なんだと喜んでいたものだが、
もう10年も反抗期が続いている。
長くないか。
そんなことを思いながら、飛び込んできてくれた喜びを噛み締めた。
「ふざけんなっ」
漆黒の剣で俺の喉を狙ってくる。
弟の突きを、純白に輝く剣で弾く。
光速を超える突きを弾かれた為か、態勢が乱れた。
今だっ!
俺は弟の脳天を目掛けて掌をさすった。
愛のよしよしだ。
精一杯の愛を乗せて。
「今日こそ仲直りしよう。」
弟は汚いものに触れられてしまったとばかりに頭を払う。
俺たちには寿命という概念はない。
たかが10年の反抗期などこの先何百何千年とある時間の中では無に等しい。
兄の俺にできることは、いつか心を開いてくれるであろう弟と正面からぶつかり、
いつでもお兄ちゃんと呼んでもいいんだよと呼びかけ続けることではないだろうか。
思っているだけでは伝わらない。
いや、この思いを一直線に飛ばしているのだから気付いているはずだ。
それでも、心と心の会話より直接伝えたほうがきっと良い。
「生後15日まではお兄ちゃんと言ってくれてたじゃないか!
またあの時のようによんでくれないか?」
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あいつは何を言っているんだ。
確かにあいつと俺は兄弟で、俺より先に生まれたあいつは兄なのだろう。
だがしかし、5秒だけ早く生まれただけだ。
それで兄と呼べだ?
ほぼ同時じゃねーか。
今日こそ俺があいつを倒して俺が上だと証明してやる。
俺は全神経を漆黒の剣に集中させた。
「今日こそお前を討ち取る。
今までのように甘くはないぞ!」
光速を超え、神速の一撃を放つ。
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弟が放つ攻撃はいつも美しい。
美しい漆黒の剣から、流れるような剣戟と術の数々。
よく鍛練しているなと感激する。
「もうそろそろ正直になってもいいんじゃないか?
本当はお兄ちゃんに甘えたくて仕方がないんだろう?
それにもう3ヶ月になるじゃないか!
他の兄妹たちも愛しててやらないといけないんだ。
これで、終いだ。」
弟の剣戟を受け流し、弟の喉に向けて剣を向けた。
「今回も俺の勝ちだな!」
「くそっ!いつも余裕の表情をしやがって。」
相当悔しかったのだろう。弟の可愛そうな顔がとても愛らしい。
この3ヶ月、攻撃を受ける為に技を放つことはあっても、仕掛けるために何かをしたことはなかった。
兄妹35人の中でも2番目に強い弟のことだ。
きっといつまでも俺に勝てずに悲しんでいるに違いない。
ただ、おれも弟のために上に居続けなければならない。どうかわかってほしい。
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「くそっ!またやられた!何故いつまでたっても差が縮まらないんだ!!」
俺は先ほどの屈辱から苛立ちが押さえられなくなっていた。
「お兄様。どうか心を抑えてください。城が持ちません。」
他の兄妹が兄側に着いている中、唯一俺の側にいる変わり者の妹が言う。
「お前は何故俺の側にいるんだ。10年も負け続けている負け犬に。」
「お兄様は生後1ヶ月からジオスお兄様に挑み続けていると聞いてます。それは私たちでは到底出来ないことです。それに、お兄様は毎日頑張って修行をしているじゃないですか。私はそんなお兄様が大好きなのです。」
35人の内27番目に生まれた妹だ。27番目と言っても俺が生まれてから3ヶ月しか変わらない。
少し小柄で純粋な妹だ。
「ふんっ!強くなるために修行する事は当たり前だ。お前も術ばかりではなく身体を鍛えたらどうだ。」
術の才能は兄妹随一と噂だ。剣の戦い方もできれば相当強くなれるだろう。
「私にはお兄様のような戦い方は好みません。お兄様は真っ直ぐ戦いすぎだと思うのです。まあ、そんな真っ直ぐなお兄様だから着いているのですけどっ。」
変なことを言う。
「ふん。男なら正々堂々戦うものだろ。まあいい。俺はトプラに行く。お前も来るか?」
「トプラですか。お兄様が行くのなら行かない理由はありません。」
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今回の戦いでも、マルヴァダと仲直りはできなかった。俺のどこが悪いのだろう。悪いところがあるのなら直したい。伝えてくれなければ分からないこともあるのだ。
今回の戦いの反省でもするか。
弟を可愛がるためにした、よしよしが悪かったのか。いや、他の兄妹はよしよしされて喜ぶ者が多数だ。恐らくそれではないだろう。
小一時間悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうした。このノックの音はノエルか。」
「流石だね。ノックの音で誰か分かるなんて!!」
おかしな事をいう。ノックの音や歩く音で兄妹の誰か分かるのなんて普通の事じゃないか。
「普通のことだよ。それよりも、マルヴァダとまた喧嘩をしてしまったんだ。俺の何が悪いと思う?」
自分一人で考えるより、客観的に見れる誰かに聞いた方が良いのかもしれない。
「うーん。お兄ちゃんの気持ちが強すぎるんじゃないかな?私はその気持ちが嬉しいから嫌じゃないんだけど。マルヴァダお兄ちゃんにとっては嫌なのかもしれないね。」
だとすれば、生後15日間のお兄ちゃんっ子だったマルヴァダはマルヴァダではないのだろうか。
あんなに可愛くて離れなかったマルヴァダは誰だったのだろう。
「あ、そーだ。本題にはいるね。マルヴァダお兄ちゃんトプラに行くらしいよ。」
ノエルは35番目に生まれた末っ子だ。5年前に生まれたから小さくてまだ幼い。
それにしても、トプラか。
あそこを選ぶとはマルヴァダらしい。
「決めた。おれも行くよ。鍛え直すにはちょうどいいかもしれない。」
それに、弟を一人にするわけにも行かない。いや、二人か。
「え?いっちゃうの?さみしいよー。」
ノエルはかわいいなあ。
「だったら一緒に来る?ノエルが一緒だったら、心強いし、一人だったら寂しいよ」
「うん。いく。」
よし。そうと決まればすぐいこう。
「この身体は置いていく。トプラで生まれる双子を見つけよう。」
鍛えぬかれた身体で行っても面白くない。まあ、元は俺だから能力は少しは引き継がれるだろう。
「そうと決まれば、すぐいこう。ノエル。準備はいい?この身体とは一旦おさらばだ。」
「いいよ。いこう。」
俺は心に集中し、トプラに眼を向けた。ちょうどいいところはどこだろう。
少し大変なくらいがちょうどいいな。ここは優遇され過ぎている。島国の小さい国がちょうどいいかな。
「見つけたよ。双子がちょうど生まれるところだ。小さい島だが、まだ統一されていない。俺達はまず島をひとつにまとめる。そこから、トプラを統一しよう。」
「え。そんなハードモードに挑戦するのー?」
ノエルが弱音を吐くが、眼は輝いているように見える。
イージーモードでは物足りない。折角転生してまで行くんだ。少し届かないくらいがちょうどいい。
多分今の身体能力の1000分の1くらいからスタートになるだろう。
だが、今までの経験とスキルを引き継いでスタートになるんだ。
鍛練を続ければトプラ制覇も夢ではないはずだ。
それに加え、あそこは生まれた瞬間から試練続きなのもちょうどいい。
「よし。いくよ。」
「うん...!」
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トプラ 『ジェアンヌ 』
「領主様。ご報告に参りました。お子様の件です。」
「ああ、きいてるよ。三つ子だってな。公にするな。東のジオグラヴィド家にやれ。」
「承知いたしました。早速話を付けてきます。」
「くそ領主め。三つ子なんて寄越しやがって!うちは何でも屋じゃないんだぞ!どうしろっていうんだ!」
イース・ジオグラヴィドはジェアンヌ領 領主ノールン・アレステイの従兄弟に当たる。
ジェアンヌ領グアステラを治めている。
子供に恵まれなかったため、三つ子が届けられた形となる。
だが、双子でも行きづらいこの世の中で、三つ子なんて公表した日には市民からの反感を買ってしまう。
「どうしたものか。」
ため息混じりの声を発し、これからの計画を考える。
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それから2年がたち、元ジアス、現ノース・ジオグラヴィド。
元ノエル、現ルーア・ジオグラヴィド。
そして、ユーナ・ジオグラヴィド。
この3人の物語が幕を開ける。
お兄ちゃん、方向が違ってきてないか?
弟はめんどくさいところに転生してます。いつか出てくると思う。