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或る悪女との会話

作者: 0024
掲載日:2020/11/14

「ねぇねぇ、先輩先輩」


「何? というか呼びかけは1回にしなさいな」


 僕は後輩に言う。


「はいはーい」


 後輩はまるで反省を見せない様子で、返答をワザと2回で返す。

 やれやれ。


「で、何」


 僕は尋ねた。

 彼女は答える。


「先輩って、付き合ってる人いるんですか?」


 僕は苦笑する。


「いないよ」


 後輩はそれを聞いて、ニヤッと笑う。


「じゃあ、ワンチャンありますか!」

「ないなぁ」


 僕は後輩の思惑を知った上で、その言葉を言外に否定する。


「えー」


 残念そうにするその様子も、馬鹿馬鹿しい。


「君は付き合ってる男性がいるのでしょう」


 僕はそう言って、彼女を(たしな)める。


「いますけど」


 平然と言う彼女。


「浮気になるでしょ」


 僕が咎めるような口調で言うと、彼女は平然として言った。


「なりません」


 僕は嘆息する。


「なんで」


 彼女は答えた。


「彼氏は私と、してくれないからです」


 それはまた奇妙な。


「それは本当に彼氏なのかい?」

「はい、彼氏ですよ。高校生の時からの彼氏です」


 という事は、足掛け6年以上は付き合っていることになる。


「6年間も貞操を守り通すとは、見上げた男だね」


 僕は顔も知らない彼女の彼氏に敬服し、そんな風に評する。

 すると彼女は不服そうに頬を膨らませて、言った。


「ただの臆病者です。結婚するまでは待とう、だなんて、今時流行りませんよ」

「どうかな。別にそれは社会通念上、貶されたりするような価値観ではないと僕は思うけれど」


 その辺りの感覚は人それぞれだし、まぁ、おカタい事を言ってしまえば、婚前交渉より婚後交渉の方が世間体から考えても望ましいだろう。


「そんな事を言っているから日本の少子化は改善しないんですよ」

「おやおや」


 問題を社会全体に波及させるとは、若いな。

 それは個々人の問題ではなく、社会の、いわばシステムが抱える宿痾(しゅくあ)というか、政治の話などに絡んでいくのであまり追求したくないな。


「男はもっと肉食系であるべきです」


 彼女はまた主語を大きくしてそんな風にのたまう。


「やめなよ、そういう風に人類の半分に対して特定の価値観を押し付ける思想に染まるのは」


 僕はほんの少し彼女より年上の男として、苦言を呈する。


「先輩も草食系って訳ですか」

「別にそういう訳でもない」


 本当にそういう訳でもない。

 まぁ、若い頃は普通に女性と、自分の方から言い寄って付き合っていた事もあったし。


「今は牙を抜かれた狼ならぬワンちゃんですね」

「人を去勢された愛玩動物みたいに言うのは止めなさい」


 後輩の暴言に僕は笑ってしまう。


「でも、こんな若くて魅力的なメスを目の前にして、誘惑されて、何にも反応しないなんて、人間としてどうかと思いません?」

「ついに主語を人類に及ぼすか。君のその拡大解釈的な物言いは何とかならないものかね」


 まぁ、年齢の割に性欲が枯れているとはよく言われる……。


「付き合っちゃいましょうよ。彼氏は捨てます」

「酷い女だね君は……およそ6年以上は付き合っている彼氏と別れて、僕と付き合おうだなんて」


 本気で彼が可哀想になるので僕はそう言って彼女を叱るが。


「セックスを求めないオスなんて、要らないんです」


 それも極論というか、苛烈な意見だ。

 動物的本能にどこまで従うかの問題でもあろうが。


「でも、僕だって似たようなものだよ。ある意味その彼氏より、性欲はないかも知れない」


 本当に最近は、女性と性交渉なんてしたいと思わないのだ。


「ふーん」


 しかし彼女はまるで僕の、僕自身にも理解し切れていない内心を推し量るかのように、僕の目をジッと覗き込んでくる。


「じゃ、私のおっぱいにもお尻にもまるで目が行かないと。ほうほう」

「僕がそんなセクハラじみた目線を君に投げた事、あったっけ? というかこれ、もう逆セクハラとして訴えて良い案件では?」


 僕がそんな風に切り返すと。


「うっそだぁ。先輩が時々やらしー目で私の身体を見つめているのを私は知っています」

「事実無根も良い所だ……」


 そんな風に言えば僕が動揺するとでも思ったのだろうか。

 浅い戦略だな。


「ちぇー、引っ掛からないか。先輩、冷静ですねぇ」

「そういう誘惑は彼氏にしてあげなさい……」


 本気でそう思う。


「彼氏はこれ以上の誘惑をしています。全く靡かないんです」

「……凄まじい自制心だ」


 こんな露骨な誘惑以上のアプローチをされているとは。


「先輩の事が好きなのは本当ですよ。ですから、先輩が私に靡いてくれたら、一発OKなんですけどねぇ」

「さぞ男性には美味しい餌に見えるだろうけれど、生憎僕はあんまりそういう直接的な誘惑にはね……」


 もうちょっと精神面を優しく撫でるような誘い方をして欲しい。


「じゃあ、デートしましょう。ゆっくり籠絡してあげます」

「……うーん」


 でもそれって、いや、それだって浮気だよね。


「駄目だよやっぱり。どうしてもって言うなら、彼氏をキープなんてしないで、ちゃんと別れてからにして」

「うわぁ」


 何、僕なんか変な事言ったかな。


「ちゃんと本気にしてくれてるんじゃないですか」

「いや、むしろ今までのが冗談だったら、それは悪質過ぎるから本気で訴えるよ?」


 僕は彼女が冗談である可能性もかなり考えてはいたが、真剣に応えているつもりなのだ。


「ふふふ、分かりました。明日ちゃんと彼氏に三下り半を突き付けてきましょう」

「ちょ、ちょっと待って、マジで言ってるの?」


 僕は慌てる。だが彼女はさらりと返す。


「大マジですよ」

「うわぁ……」


 流れとはいえ、カップルの破綻を教唆(きょうさ)してしまった。

 何たることだ。


「大丈夫ですよ、理由をちゃんと言えば分かってくれますから」

「それは関係が壊れないようにカップルに諭す側の台詞……」


 別れる宣言をする彼女の台詞じゃないよ。


「晴れて別れる事が成立したら、私は先輩の女ですからね。約束ですよ?」

「約束はしかねる」


 他人の女性を横取りしたみたいな形になって、気分が良くない。


「我儘ですねえ」

「どっちが?」


 そもそも、彼女が身を綺麗な状態にして誘惑してくれば事はシンプルに済んだのだ。

 何故わざわざ彼氏持ちなどというややこしい状態で、マジな感じの誘惑を仕掛けてきたのか。



「そりゃ、その方が男性の自制心や背徳への耐性が見えやすいからです」



 ……予想以上に(したた)かな答えが返ってきて、僕は軽く引く。


「男を試すような行動は感心しないねえ……」

「そうですか? でも、こういうの多かれ少なかれ女の子はやりますよ」


 また主語を大きくする。


「仮にそうだとしても君は悪質だと思うね。悪女だね」

「悪女、嫌いですか?」


 ……あぁ、全く、困った子だ。



「……まぁ、嫌いじゃ、ない」



 僕は応えてしまう。


 悪い女は、嫌いじゃないのだ。


 意外とね。


(終わり)

ども0024です。


名前を出さなくても会話劇は成立するもんすね。


特に何がどうという感じの話でもないんですが、適当に筆を滑らせてみました。

やっぱ自分はこういう小悪魔系というか、男を弄んでくるタイプのヒロインが好きなんスねぇ。

それに惑わされまくる童貞系男子も良いけど、こうやって軽くあしらう感じの男も好き。


現実には結構困りますけどね、小悪魔系……。


ではでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪女とあしらいながらも実際は楽しんでる主人公。 会話がテンポよく面白かったです!!
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