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逃亡中

      - 1 -




俺とティアがブルームの街を出てから、1週間ほどは過ぎただろうか。


俺達はエルン地方に向かうべく、街道を南へと進んでいる。時刻は昼過ぎ。ここ数日は穏やかな天気が続いており、幸運にも雨には打たれていない。


今日は少しだけ肌寒さを感じはするが、概ね良好な旅路と言えるだろう。


それに、エンダル湖でテンプルナイツに襲われて以来、追っ手の影は見当たらない。あれだけ、こっぴどくやられたんだから、手を出してこないのも頷ける。


ただ、やっぱり分からないのは、テンプルナイツまで出て来たということだ。テンプルナイツは教会直轄の騎士団。当然、教会でもかなり高い地位の者でないと動かせない。


ということは、ティアを狙っているのは、教会でも地位の高い者ということになる。ファリス王国の北の端に位置する地域で、教会でも高い地位を持つ者。当然、司祭以上の身分だろうが、全く心当たりがない。


「いや……。考えてみれば、魔王竜なんていう存在は、教会にとってかなり重要なはず……。それを隠してきたんだから、中央にいる司祭が動いている可能性もあるのか……」


もし、中央の教会にいる有力な司祭が動いているとしたら、テンプルナイツはまだ諦めていないかもしれない。


「アイク、何をブツブツ言ってるの?」


隣を歩くティアが、不思議そうな顔で俺を見てきた。外を歩いているため、俺の外套とフードを被って角と翼を隠している。


「あ、いや……。考え事だ」


ティアがこうして歩けるようになったのは、3日ほど前から。それまでは、立つこともやっとだった。


「そう……。私を生贄にしようとしてた司祭服の男は、かなり高い地位だと思う」


「聞こえてたのか?」


「アイクが聞こえる声でブツブツ言ってた」


「そんなに、声出してたか!?」


俺は少し驚いた。独り言を言っていた自覚はあるが、ティアに聞こえるほどの声だったとは自覚していなかった。


「うん。出してた」


「まじか……」


俺は独り言を聞かれていたことが恥ずかしくなった。


「でも、気にしないで。私のことを心配してくれていたということは理解している」


ティアはこちらを見ずに、歩きながらそう言った。フードに隠れていてその表情は見えない。


「そっか。そう言ってもらえると助かるよ」


「うん……」


俺が微笑みかけると、ティアは少し照れたような声で返してきた。


「ただな……。心配という点に関しては、もう一つあってだな……」


「どうしたの?」


「……もうすぐ、ハルタートっていう街に着くんだが……。まったく金がない……」


ブルームの街を出た時点で、手持ち金は400Gほどしかなかった。それから、1週間街道を歩いてきた。途中で行商人から食料や塩、香辛料を購入したことで金がなくなる。


野生動物を狩ろうと思えば、街道から外れて山や森に入らないと難しい。早くファリス王国から出たいと思っている俺達にはロスだ。


「冒険者ギルドで仕事を受けるのね」


「話が早くて助かる」


「これで二度目になるから――それで、冒険者の仕事で、一番お金になるのはどんな仕事?」


ティアが興味を持ったようで、俺に訊いてきた。


「一番は、強大なモンスター退治だな。どんな奴を倒すかにもよるけど、大型のモンスターだと、街全体が依頼主みたいになっててな、かなりの金を出してもらえるんだよ」


モンスター退治が冒険者の花形と言ってもいいだろう。ただし、その分、危険度も大幅に増す。俺がやっていたような、ワイルドボア退治とは訳が違う。本物の化け物を相手に戦わないといけない。


「それなら、ハルタートの街でモンスター退治を受けよう。そうすれば、しばらくお金には困らない」


「簡単に言ってくれるな。前に倒したジャイアントスパイダーよりも大型で、凶悪なモンスターなんだぞ。俺だって、そんな依頼受けたことねえよ」


人々を苦しめる凶悪なモンスター退治。それこそ勇者っぽい仕事だ。いつかは受けたい仕事ではある。


「今のアイクなら、大丈夫なんじゃないの?」


切れ長のティアの目が俺を見つめている。どこか期待を持った目だ。


「今の俺の力か……」


テンプルナイツ50人ほどを素手で殴り倒せるだけの力。確かに、それだけの力があるなら、ある程度のモンスターでも大丈夫だろう。


「何か問題があるの……?」


「いや、問題っていうほどのことじゃない。単に、俺が今の力を把握しきれていないってだけだ」


そう、強力な力であることは理解している。だが、限界はどこなのか、さっぱり分からない。冒険者という仕事は、自分の限界を知らなければ、あっさりと命を落とす仕事だ。


「そう……。私も魔法で手助けできれないいのだけど……。まだ、万全には程遠い……。今の状態だと、1~2回ほどで魔力が尽きる……」


「ティ、ティアが気にすることじゃない。大丈夫だから。魔法はまだ使うな!」


下手にティアが魔法を使って、周辺を焦土に変えられては堪ったものではない。街の人に迷惑をかけるだけでなく、魔王竜の痕跡まで残してしまうことになる。それは非常にまずい。


だから、ティアの魔力が回復したら、ちゃんと、力の使い方を練習しないといけない。


まあ、俺は魔法には疎いから、ティアの自主訓練ということになるが。


「アイクがそう言うなら、まだ魔法は使わない」


「おう。そうしてくれ」


ティアの聞き訳が良くて助かる。


俺達はそのまま、街道を歩いて行った。少し風が冷たいが、天気は良い。概ね順調な旅路だ。




      - 2 -




ハルタートの街に到着したのは、次の日の午前中のことだった。


エルン地方に向かう街道沿いにある街ということもあり、規模もそれなりに大きい。道も石畳で舗装されているし、商店も多い。当然、行きかう人も多く、活気がある。


「うわぁ……」


ティアが口を開けてハルタートの街並みを見ている。


「ティアにとって、これだけの規模の街は初めてだな」


ハルタートの街の入り口だけあって、行商人や旅人相手の露店も数多く並んでいる。屋台からは肉を焼く匂いもしてきて、食欲をそそらえる。


「…………」


ティアは一点を見つめて黙っていた。その視線の先にあるのは、串に刺さった豚肉を焼いている露店。油の焦げる匂いと、香辛料の匂いだ。これは、俺にも堪らない。


「ティア、今はあれを買う金もない……」


情けない話だが、豚の串焼き一つ買ってやれる金がない。一本50G程度しかしないのだが、その金すらないのだ。


「うう……。なら……、我慢するしかない……。今まで生きてきた中で、一番悔しいと思った……」


「それは、お前の人生の価値観を見直した方がいいぞ……。でも、安心しろ、金が手に入ったら、あの串焼きを買ってやるから」


「本当に!?」


ティアの顔がパアッと明るくなった。青い瞳が希望に満ち溢れている。まるで、突き抜ける青空のようだ。豚の串焼き程度で。


「本当だ。だから、冒険者ギルドで仕事を見つけてしまうぞ」


「うん!」


ティアは元気よく返事をした。普段のしゃべり方は大人っぽいというか、無感情な感じがするが、こういう時は外見年齢相応か、少し子供っぽく見える。


俺とティアはそのままハルタートの街を歩いた。石畳の道路を歩くのが初めてのティアは、地面を興味深そうに見て歩いている。


そう言えば、俺も初めて大きな街に連れて行ってもらった時ははしゃいだな。田舎暮らしの者にとって、これくらいの街でも十分都会に見えたし。


そうこうしている内に、俺達は冒険者ギルドの前にやって来た。


煉瓦造りの建物だ。ブルームの街にあるような場末のギルドでもないし、もっと大きな建物だ。しかも二階建て。


俺は木製のドアを開けて、冒険者ギルドの中へと入っていく。


ざっと見渡してみると、一階は全て酒場のようだ。依頼の掲示板もなければ、受付もない。


「あっちか」


入ってすぐ左手に階段が見えた。おそらく、冒険者ギルドは二階にあるのだろう。


俺はティアを連れて二階へと上がって行くと、そこには多くの人がいた。依頼の掲示板を見ている者もいれば、知り合いと情報交換をしている者もいる。他には、受付で仕事の話をしている者もいた。


俺はとりあえず依頼が張り出されている掲示板を見る。できるだけ手っ取り早く、それでいて金になる仕事がいい。狙うはモンスター退治。


「ブラックキラービーの駆除1,500Gか……。危ない割に安いな。こっちは、ポイズントードの駆除1,200Gねえ……。安いな……」


「どれも、安い依頼ばかり……。どうする? 安くてもいいから、依頼を受けておく?」


ティアも依頼を探してくれていたようだ。だが、結局報酬の高い依頼は見つけることができず、妥協案を提示してきた。


「それも手だな……。安い依頼でも複数こなして金にするか……」


俺とティアが悩みながら掲示板を見ている時だった。受付の方から声が聞こえてきた。


「ええーーー! 本当ですか!? 不味いじゃないですか!」


声の主は、受付の女性だ。年は30歳くらいだろうか。若干肥満体形。可愛らしく言えば、ぽっちゃりな体形だ。


「何かあったの?」


ティアが俺の方を見て来る。


「いや、分からない……」


俺は受付の方を見るが、大声を出した女性は、街の役人らしき人物と話をしている。その表情は真剣そのものだ。


何やら“不味い”ことが起こっているのは間違いなさそうだ。


俺は暫く受付の女性と役人らしき男の様子を観察する。数刻ほどしてからだろうか、役人らしき男が、冒険者達の方に向いて口を開いた。


「冒険者の人達に聞いてもらいたいことがあります。昨日、ハルタート周辺にシャドウビーストが出現しました! この度、ハルタート自治会では、正式にシャドウビースト討伐の依頼を出すとが決定しました。討伐報酬は8,000G。できるだけ早急に片づけたい。腕に覚えのある者は名乗りを上げてください!」


役人らしき男もとい、ハルタート自治会の男は、報酬額を提示して声を上げる。


8,000Gの討伐というのは、なかなかの相手だ。腕に覚えがあるのなら、依頼を受けるべきだろう。


「シャドウビーストか……」


ただ、俺は二の足を踏んでいた。その理由は、シャドウビーストに対する知識が浅いということ。シャドウビーストは神出鬼没のモンスターで、いわば獣の亡霊が実体化した化け物。


普通のモンスターのように生息域が決まっているわけではない。突然、どこかに現れては人を襲う、厄介なモンスターだ。


どこにでも現れるが、滅多に現れないのがシャドウビーストだ。だから、俺もこのモンスターに関する知識は浅い。見たことはないし、どんな攻撃をしてくるのかも知らない。シャドウビーストの話を聞いたことがある程度だ。


「この依頼、受けないの?」


俺が二の足を踏んでいる理由が分からないティアが質問してきた。


「迷うところだな……。シャドウビーストっていうモンスターは、あまり見かけないんだよ。滅多に出てこないって言ってもいい。だから、ここにはシャドウビーストに詳しい人はいないんだろうな。誰も動かないのが、その証拠だ」


冒険者の数はそこそこいるが、シャドウビースト討伐に名乗りを上げる奴はいない。知識のないモンスターと戦うのは危険だからだ。


「シャドウビースト……。実体化した獣の亡霊。夜になると現れて、闇の中を移動する。光を嫌うから、人気のない所に出没することが多い。闇の中を移動できるっていうのが厄介。闇の中から突然出て来ることもできるし、獲物を闇の中に引きずり込むこともできる」


「知ってるのか!?」


俺は驚いて聞き返した。まさか、ティアの口からこんなに情報が出て来るとは思わなかった。




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