脚色されすぎた昔話たち
昔むかし、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。
おじいさんは山にしばかれに、おばあさんは桃を拾うために川へとそれぞれ向かいました。
山では、ヤングでギャングでナウいチンピラたちが、大型自動二輪車にまたがって、ブォーンブォーンとエンジンを空吹かしし、騒音と共に、いかにも環境に悪そうな黒い煙を吹かしながらおじいさんを待ち受けていました。
チンピラのリーダーは、苛々しながら煙草に火をつけ、
「チッ、あのクソじじいめ。来んの遅せえんだよコラァ、なぁおいコラァ」
とぶちギレ寸前でした。
チンピラ団員たちは、それに賛同するように、
「後で遅延料金を払ってもらうしかねぇなおいコラァ」
「いつもの倍払ってもらおうぜ」
「ああ、何せこっちはあのクソじじいが浮気してるところを写真に撮って、証拠を押さえてんだからよお。脅せばいくらでも金をふんだくれるぜ」
「ホント、パネェなお前ら」
「ククク……そういうお前こそ、金をふんだくった後のお楽しみを一番楽しんでるくせによ」
「うっせ……お、来たぜ」
おじいさんは、山の舗装された路面を一歩一歩確実に踏みしめながら、ナウいチンピラに近づいていきました。
チンピラたちは、おじいさんが来たのがわかった途端、遠くからおじいさんを睨み付けて、それはそれはもう、びっくりするくらいメンチを切りました。
ですが、今日のおじいさんは一味違います。左手には威嚇用の名刀『正宗』を、右手には鉄板をも貫く超威力、超連射速度の高性能マシンガン『RPC-90』を、腰のベルトにはダイナマイト十個、肩から腰にかけてのグルりにはRPC-90のマガジンを数セット、背中にはロケットランチャーを装備し、チャンチャンコの内ポケットには、刀よりも遥かに実用性のあるライトセーバーを隠し持っていました。
「今日は、死ぬには良い日じゃ」
約八十メートル離れた位置から、おじいさんは小便をしたそうにそわそわしながら、辺りをキョロキョロしつつ挙動不審丸出しでそう言いました。
チンピラたちは、物凄くメンチを切りつつおじいさんに近づいていき、ようやく明らかになったおじいさんの重装備を認識したヤングマンたちは、心底震え上がってビビりました。ビビりすぎて、歯がガタガタ震えていました。
「お、おひぃ〜!?なんだその物騒なもんは。や、や、やめろ」
「そ、そうだぞ。お、俺たちをやるなんて一万年早いぞ」
「話せばわかる。なっ?暴力反対、暴力は反対っ」
ですが、おじいさんは、容赦はしないといった様相を見せました。
しかしながら、目線はどこか上の空で、相変わらず挙動不審でした。
「今日は貴様らと決戦を挑むつもりでここへ来た!今までの屈辱、全て晴らしてくれる。覚悟せい!」
おじいさんは正宗を投げ捨て、ロケットランチャーを肩にかけて左手の人差し指をトリガーにかけ、ロケットランチャーとRPC-90の銃口をチンピラたちに向けて構えつつ、ATフィールドを展開しました。
「ワシは第十八使途、キンタロウ也!」
「や、やめてくれー!」
「うわあああああ!」
「に、逃げろおおおー!」
スババババ、ヒューン、ヒューン、ドーン…
一斉掃射中、気が変わったおじいさんは両武器を投げ捨て、一瞬ニヤリとしてライトセーバーを右手に持ち、接近戦を挑みました。
ブォーン、ブォーン…
その動きはまるでヨーダそのものでした。スターウォーズに出演していたヨーダは、実はCGではなく人形を被った実物で、それはおじいさんが演じていたという疑惑が生まれた瞬間だった――と、かろうじて生き残ったチンピラが後にコメントしていたとかいなかったとか。
わずか数秒で戦いに勝利した後、おじいさんは光る竹を見つけました。
それを何となくチョップで切り裂き、中に入っていた赤ん坊を誘拐して、いつか身代金を取り立てようと思いつき、取り出してポケットに入れてから近くに止めてあった軽トラに乗って家に帰って行きました。
一方、川に向かっていたおばあさんは、途中道端にあったコンビニに立ち寄って女性セブンを立ち読みしていました。
「そろそろブラックリストに載りそうやし、行こうかいな……」
関西弁丸出しのおばあさんはピザマンを購入してから、歩き食いをしつつ川に向かいました。
「は〜。マジダルいわぁ。なんでワテだけ歩きなんや、マジウッゼ」
そうは言うものの、川は家から三百メートルほどしか離れておらず、七百メートル離れた山に行くために、おじいさんが軽トラを使うのは仕方のないことでした。
それにおばあさんは、数十年前に免許の更新を忘れてしまったために既に免許が失効していて、再び免許を取り直すのも面倒だと言って警察署には行かずに、無免許運転を繰り返していました。
しかし、イニシャルDが流行っていた当時としては峠を攻めたいという気持ちでいっぱいで、ついついおじいさんの軽トラックを実費で改造し、ダウンヒルでバトルしたりして普通に運転していました。
軽トラにGTウイング、フロントバンパーにはカナードを取り付け、VTECエンジンを無理矢理載せて、更には車の横幅を広くするためにワンオフでワイドトレッド化し、色々と改造してレーシングカーみたいに仕上げ、結局八百万円ほどを注ぎ込んでしまいました。
だが、ある日、そんなお茶目な見た目渋谷ギャル系おばあさんに不幸な出来事が起こってしまいました。
助手席にギャル友達を乗せ、調子に乗ってイニシャルDの主人公の父親みたく手放しでドリフトをした結果、ガードレールに直撃し、対向車にもぶつかってしまって警察を呼ばれてしまったのです。
警察でお世話になってからというものの、おばあさんはドリフト恐怖症になり、公道では一切ドリフトをしなくなってしまいました。
これが噂に名高い、第一次ドリフトショックです。
さて、そんな話はさておき、ようやくおばあさんは川に到着しました。
おばあさんは、万一、桃の重さに耐えきれずに受け流してしまった時の為の保険として頑丈な網を張り、桃が来るのを川の横で座って待ちました。
すると、どんぶらこ、どんぶらこ……と、例の擬音が聞こえてきたので、おばあさんはよいしょと立ち上がって川の中に入り、待ち構えました。
「さて、おいでなすったか」
桃らしき物体は、徐々におばあさんの方に流れてきました。
「予想通りデカいねぇ。桃太郎はいるのかねぇ」
桃を受け止めたおばあさんは、八千万パワーの怪力で桃を陸に持ち上げ、予め用意していた、五重に重ねた透明の特大ビニールゴミ袋に入れました。
そして、タクシーを拾い、三百メートル先の家に無事桃を持って帰宅しました。
十数年後、何をどう間違えて育てたのか、あるいはボケただけなのか、神出烈羅と名付けられた18歳のピッチピチのマッチョギャルは、吉備団子を持って鬼退治に出掛けてしまいました。
そして、桃太郎はというと、老夫婦の長男として養子に迎え入れられたわけなのですが、これがまた、引きこもりに加えて整っていない顔立ち、貧弱な体に育ち、お見合いでしか嫁を捕まえることができなさそうだったので、おばあさんの計らいでお見合いをすることになりました。
元々、大金持ちだった老夫婦の財産目当てに、数人の女性から申し込みがあったのですが、そこはさすがにおばあさんにはお見通しでした。
そこで、おばあさんはお見合いで、ある条件を出しました。
「ワテが指示するものを取ってきて欲しい。それは、全財産と自分の命を張る覚悟がないと絶対に取れないものや」
これは、桃太郎のことをどれだけ好いているかというものを見るための作戦でした。財産目当て程度の覚悟なら、当然挫折するに決まっていると見込んでのことでした。
ある者は悪知恵を働かせ、レプリカを職人に作らせて持ってきたり、ある者は偽情報に引っ掛かって詐欺にあい、偽物を本物だと思い込んで持ってきたりと、結果は散々でした。
そんな中、ある日の満月の夜に、一人のヤマンバメイク風汚ギャルが、ついに本物のモノを持ってきました。
それは、遊戯王のブルーアイズアルティメットドラゴンの超レアカードで、時価数百万円もするものでした。
彼女曰く、情報を集めるのに全財産を使い果たし、命を張って個人宅に侵入し、泥棒を働いたそうです。
おばあさんは感動しまくりでした。
「ようやった……ようやったぞお前さん……手に入れた経緯なんかどうでもいいでんねん。あたしゃ探すのが面倒で、これを手に入れるのを断念していたけど、ようやく手に入れることができた。ありがとよ。お前さんを我が息子、桃太郎の嫁に認めるぞよ……」
ヤマンバギャルは真っ黄色な歯を見せて喜びながら、
「ハァ〜?マジィ〜?超テンション上がるんですけど〜。あっし〜、バイト代三ヶ月分全部使っちゃって、今超貧乏だからマジありがてぇし。キャハハハハ」
と金切り声で発言しました。
この時、桃太郎は心底身震いしました。吐き気も催しました。これからの我が人生はどん底だと悟った瞬間でもありました。
(これなら独り身の方が良かったぜよ、母ちゃんよぉ……)
ふと横を見た桃太郎は、おじいさんが鼻の下を伸ばし、目を垂らして頬を赤らめ、デレデレしている姿に驚愕しました。
(父ちゃん……あんなのが趣味かよ。目、腐ってんじゃないのか)
そんなことを考えていると、満月の方向から眩い光が降り注ぎ、馬の巨大ロボットと、その上にガンダムのようなロボットが騎乗している高度文明の塊のような集団を先頭に、カボチャ型の機動要塞が降りてきました。
それらは、上空十メートル程度の位置で静止し、機動要塞のスピーカーから百五十デシベルもの音量で、
「お前らは既に包囲されている。」
と、叫びました。
皆は一様に驚き、おじいさんは文句を言うために家の外に走って行きました。
「う、うるさいぞ!夜だというのにもっと周りのことも考えい!それにここは都心郊外の住宅街じゃぞ!ドーナツ化現象じゃぞ!」
おじいさんは手持ちスピーカーで必死に対抗しました。
しかし、彼らはそれを無視して先を続けました。
「我が娘、かぐやを拉致したのは調べがついている。直ちに返してもらおう」
「ならば身代金一億ドル用意せい!さすれば返してくれるわ!」
外に飛び出していたヤマンバギャルも、何故か乗り気でした。
「そうだそうだ!」
その途端、機動要塞からは戦闘機が多数出撃し、おじいさんたちの家をテポドン3で狙ってきました。
「お主、某国の総書記か!月とどのような関わりが……」
「私は月と契約したのだ。話は以上だ」
テポドン3が五つくらい降って確認するや否や、おじいさんは空中へ飛び、レイガンを連射しました。
テポドンやロボットたちは、たちまち撃破され、残るは機動要塞だけとなりました。
S級妖怪に匹敵する強さを持つおじいさんは、わずか数分で機動要塞を壊滅寸前まで追い詰めましたが、情けをかけ、
「総書記さんよ……我が娘、神出烈羅は今、鬼ヶ島に向かっておる。神出烈羅を倒すことができれば、ワシもお主の娘であること認めよう。父親が娘に負けるなど、言語道断じゃ」
そう言って、おじいさんは親切にも鬼ヶ島の座標を総書記に教え、見逃してやったのでした。
翌日、旅の途中に新たなる力に目覚め、三段階の変身が可能になり、おじいさんの戦闘力を遥かに越えてしまったスーパーセーラームーンの神出烈羅は、初めてお父さんに出会いました。
スーパーセーラームーン3の神出烈羅の戦闘力は、八兆五千万でした。
対する総書記の戦闘力は五百で、機動要塞や文明の力を借りてもせいぜい5千でした。
為す術もなく機動要塞や戦闘機、戦闘ロボットは撃破され、
「あいつらは化け物だ、あいつらが居る限り、我々の平和は脅かされたままだ」
などと発言して海辺で倒れ、その後は浦島太郎のお話を辿る羽目になってしまいました。
更に翌日、鬼の勇次郎と神出烈羅はバトルし、犬と雉が犠牲になったものの辛くも勝利しました。
ちなみに勇次郎最終形態の戦闘力は九兆でした。
そうして、お宝の徳川埋蔵金を手に入れた神出烈羅は無事、家に帰宅し、常習窃盗犯のヤマンバギャルにお宝を盗まれて夜逃げされてしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
もはや小説ではありませんでした。本当にありがとうございました。