白い鼻毛を抜いたなら
あなたはあの時、私に見えないように泣いていたんだよね。
私の前では、あなたはいつも笑っていたから。
私の前では、いつも笑っているように見せていたんだね。
白い鼻毛を抜いたなら
その時だけで良いから
私のことを思い出してくれると嬉しいな。
あれは何時頃のことだったかな?
その時の私は、好きなように路上で歌を歌って。
その時のあなたは、そんな私を好きになっていたんだよね?
朝も昼も夜も、歌える時には私は歌っていて、
あなたはたまに、一日中付き合ってくれていた。
白い鼻毛を抜いたなら
その時だけで良いから、私のことを思い出してくれると嬉しいな。
あなたは大学生活を満喫できていなくて、
私は大学にも行かずに路上で歌っていた。
一応、大学生だったんだけどね。
その時にはもう、歌うことだけしか考えてなかったの。
あなたからの話を聞いて、愚痴も聞いて、
あなたと同じ大学に行きたいなって、思うこともあったんだけどね。
一度だけ、あなたの通う大学に行ってみて、
一度だけ、膝枕をしてあげたことがあったよね。
あなたの恥ずかしそうで嬉しそうな表情を見てると、
私も恥ずかしくて、でも嬉しくなったの、気づいてた?
次第に眠りかけていたあなたの、鼻から伸びていた白い鼻毛。
気になって思わず抜いた時の、あなたの慌てぶりがおかしくて、
私はお腹の底から笑っていたんだよ。あの時はごめんね?
白い鼻毛を抜いたなら
その時だけで良いから、私のことを思い出してくれると嬉しいな……
お互い何も言わなかったけど、
何も聞かずにお互いのことはわかってた。
あなたが私をどう思っているか、
私があなたをどう思っていたか。
いつ言うか、いつ言おうか。
お互いがそれを計ってたような気がしてたよね。
やっぱり、それを言い出してくれたのはあなたの方だったよね。
最初に声をかけたのは私の方だった気がする……
ううん、あなたは何も言わずに語り掛けていたのかな。
やっぱり、恋をかけたのもあなたの方だったよね。
白い鼻毛を抜いたなら
その時だけで良いから……
私のことを、思い出してくれると嬉しいな……
嬉しくて嬉しくて、今すぐあなたを抱きしめたい。
すぐにでもあなたに抱きしめてもらいたい。
でもダメ。
でもダメなのっ!
そのぬくもりを知ったなら
そのぬくもりを失ったら
あなたが私を知ったなら
あなたが私を失ったら
私はあなたを、今以上に苦しめたくないから、
だから今、あなたを傷つけてしまう。
あなたの優しさに、
私の優しさをぶつけてしまうのを許してください。
白い鼻毛を抜いたなら
その時だけ、その時だけで良いから……
私のことを、思い出してくれると嬉しい……
だから、私を忘れてください。
私のこと、私と過ごした時のことを。
あなたの記憶の中の、ほんの片隅にでも追いやってください。
あなたのこれからに、私はいないから。
あなたのこれからは、別の女性がいるでしょうから。
あなたのこれからに、別の女性がいて欲しいから。
あなたのこれからは、あなたのためにあるのだから。
だから
だけど
白い鼻毛を抜いたなら……
その時だけっ……その時、だけで良いからぁっ!!
わ、わたしのことっ……ぉ、おもいだしてっ……
わたしのことをぉ、おもいだしてほしいのっ!!
忘れてほしくないよ……ずっと一緒にいたいよ……
でもダメなの……嫌だよぉ……こんなのってないよぉ……
あなたの思いに応えたら、私は幸せでいられたけど
私の思いに応えたら、あなたは幸せじゃいられないから……
あなただけに、悲しい恋をさせないように
私も悲しい恋をしないとダメだったの……
私はあの時、あなたに見えないように泣いていたんだよ。
あなたの前では、私はいつも笑っていられたから。
あなたの前で、あの時も笑っているように見せていたんだよ。
これからのあなたへ
白い鼻毛が抜けたなら
それを見た時だけで良いから
私が生きていたことを思い出してくれると嬉しいな