第8節 我がままな精霊と強制契約
ブラックなトーコさん降臨★
敷地の配置図は第一章の資料にあります。
普段なら勉強や体力作りに当てている時間を視察で使ったので、今日は中休みのお茶の時間はない様だった。このまま神力の操作も神法の実技も休みかしらと考えている内に、どうやら眠ってしまったらしい。
三の鐘が鳴っていた。
「トーコ様~そろそろ起きたら~?いい加減にしないと瑠璃に怒られるよ~?」
不穏な言葉で覚醒すると、腕の中から萌黄が此方を見上げていた。がっちりホールドしたまま眠っていたらしいのだが、萌黄は文句一つ言わず私の膝の上で抱かれていたのである。この忍耐力は素直に凄い。だって精霊は眠らないのだ。只管窮屈な姿勢で何時間もじっとしているとか、それ何て拷……。
「何もしてないでしょうね?」
「ひどっ!トーコ様が触るからでしょ!?気持ちいいなと思ってちょっと……」
(ちょっと!!?)
確かに神力の触れ合いや循環は気持ちいいのだが、安らぐとか温かいとかそう言うものだ。決してやらしい意味ではなく。慌てて確認するが、特に変わった事はなさそうだった。
「トーコ様、昼食の準備が出来ました」
ミィが私達を呼びに来たので、私は忘れる事にした。どうせ問いただしたところで萌黄が本当の事を言うとは限らない。
玄関を潜ると大樹のオレンジ色の光が燦燦と降り注いでいた。どういう仕組みか、雲が出来ないこの世界では雨がない。なのに空気は何時も澄んでいて清々しい。植物も元気だ。多分これは機械的なものの有無ではなく、大気の神力のせいだろう。つくづく彼方とは違う世界である。
東屋につくと、待っていたホノライとノハヤ、それにミィも私に倣って着席する。
「フィユカ、貴方も座りなさい」
「私も……ですか?」
「そうよ、早く。座らないと食べられないでしょ?」
フィユカが戸惑っているのを瑠璃が無理矢理席に座らせる。ミィ達使用人も最初は随分遠慮したことを考えると、感慨深いものがある。
「頂きます」
「「「感謝します、トーコ様」」」
「……感謝します」
既に恒例と化した食前の祈りに、フィユカは困惑しつつ小さく真似をした。私がやらせている訳では断じてないが。
テーブルの上には見た事のない料理が沢山あった。恐らくフィユカがミィに教えたものだろう。
「おいしい」
「ありがとうございます!」
照れるミィの頭を撫でる。ミィは嬉しそうに撫でられているが、フィユカが複雑な顔をして此方を見ていた。何故だろうか。でもこれは私の愛情表現でミィが喜んでいるのだから良いのだ。
「あまり時間もないから、覚えられるだけ覚えてね、ミィ」
「畏まりました!」
「フィユカも……どうしたの?食べないの?貴方は捕虜ではないのだから、気にせず一緒に食事して構わないのよ?」
食事に手を付けないフィユカに、私は身分を気にしたのかと思い声を掛ける。だが、フィユカの懸念事項はそこではなかった様だ。
「あ、あの……息子は……」
「ヲールなら彼方で食事をしているわ。安心なさい」
瑠璃が神獣の庭に視線をやる。神獣の庭では、ヨモギに見守られつつ野外炊飯する兵士や冒険者の姿が見える。如何せん人数が多いので、私にはヲールが何処にいるのかまでは分からなかった。多分瑠璃は正確に把握しているだろう。
「会わせて頂く訳には」
「役割を果たしていれば帰る時に会える」
「……」
「あの、美味しいので、ご飯食べないと仕事に支障が出るし、食べて」
それ以上発言を許さないという山吹の強い言葉にフィユカは表情を曇らせたが、ミィがフォローを入れるとゆっくりとフォークを取って、諦めた様に食事を始めた。
「どう?ミィ。貴方の希望は叶いそう?」
「はい!とても!ありがとうございますトーコ様」
嬉しそうなミィを見ていると、此方も癒される。
「料理に関して技術的な問題は特に見当たりません。このまま今日はミィに付けて午後は裁縫をさせようかと思います」
山吹から補足が入る。
「分かったわ。任せておくからよく見ておいてね」
「畏まりました」
それから暫く、私は穏やかな日々を過ごした。まぁ勉強に追われてはいたのだけれど、捕虜達は逃げる事を諦めたのか落ち着き、使用人達の成長も見て取れる。
そんな穏やかな日常……を壊してくれたのは、やはりと言うか、問題の小悪魔美少年である。
発端は些細な事だった。食事の時間、何となく目をやってココの手元に食器がないのを見つけてしまった私は、監督者である蘇芳に事情を聴いた。
「ココの食事がない様だけど」
「食事の準備をせず休んでおりましたので与えておりません」
「ココが?」
「はい。代わりにキトセが二人分働くと申しましたが、そう言う訳には参りませんので」
「あまりそういう事をしそうなタイプではないと思うけど……」
見たところココは普通の少年だった。特にすれてもいないし、まぁ格好から見るに裕福という感じではなかったので行動言葉遣いもそれなりなのだが、正直私は人を見る目がないので何とも言えない。
(キトセは過保護っぽかったからなぁ。ココを後ろに隠してたし。BLなら過保護が行き過ぎてあんなことやこんな事まで教えてくれたりするのよね。是非生で見たいわ……)
「トーコ様?」
私が言うのもあれだが、何であれ勝手に身代わりに仕事をさせる様な事が蔓延れば風紀が乱れる。
蘇芳は萌黄や紅と違って理不尽な事はそう言わないので、嘘ではないのだろうと思ったのが先ず良くなかった。
私は食事の後こっそりココの様子を見に行って、あまりに少年らしく可愛らしかったので飴を上げた。実はここ最近、こうして隠れて彼を愛でていたのだ。お菓子をあげたり神法で洗ってあげたり、ココの親密度を上げる地道な努力である。本当はお風呂に入れてあげたかったのだけれど、流石にそれはバレる。
「あ、ありがとうございます」
(笑顔萌える!!!いただきますっ!!)
この日も可愛くはにかんだ少年に、感極まって思わず抱き付いてしまった。
(いやー少年の笑顔最高!!それにこの暖かい感じ!萌黄ではこうはいかないのよね!!精霊にも体温があれば…………駄目だ、流石に自重しないと)
ココの身体が緊張している。こんなところで嫌われてしまっては元も子もない。心の涎を拭いつつ、優しくココの背中を撫でてから身体を離す。
「キトセと分けて食べて……もーそんな顔しないで?大丈夫よ」
(何も心配する事なんてないわ!キトセともっともーっと仲を深めてくれたらお姉さん言う事ないのっ!!)
それでココがもっと笑顔になってくれたら嬉しいなんて、その時も本当に軽い気持ちだった。
因みに私とココの肉体的な年齢は二歳しか離れていない。十五歳と十三歳。抱き合っていたところで、まさか一方がこんな下心を抱いているとはあまり思われないだろう。役得である。
しかし、事はそこで終わらなかった。
食事の後ココに飴を与えた私は、フィユカの経過報告を聞く為に山吹と共に執務室へ向かった。
「料理と裁縫の指導と、浄化は予定通り進んでいます。ただ今ミィが使用するミシンを紅が作成中です」
「ミシンあったのね!?」
「ございますね?大まかな構造をフィユカが把握しておりましたので、そこそこの物は出来るかと思います」
「優秀だわ」
「商業ギルドのルール等は聞き出しつつホノライと共に本に纏めておりますので、その内講義でお聞かせ出来るかと存じます」
「ホノライはきちんと睡眠時間を採れているのかしら」
「他の使用人と変わりませんのでご心配には及びません」
「なら良いけど、無理はさせないでね。効率が落……」
落ちる、と言いかけた時、背後を何か大きなものがとんでもないスピードで横切って行く影が見えた。
「今の何?」
「…………」
「山吹?」
「キトセでございますね」
「は!?」
執務室の後ろは丁度ヨモギの庭と畑エリアの境目辺りである。キトセはこの時間皆と食事の片付けをしている筈なのだが、その場所は神獣の庭でも東屋に近い場所だ。影は走るという速さではなかった。
(東屋から飛んで来た?まさか逃げ出そうとした?ココを置いて?でもそんな感じの影ではなかった様な……)
とすると、考えられるのは神力に寄るもの。一般人の神力ではあり得ない。神力の多い兵士達が一介の市民を巻き込んで騒ぎを起こしたりはしないだろう。
(神石を隠し持ってた?いいえ、そんな筈ないわ。だって調べたもの。敵対しそうな者はいないって)
調べたのが萌黄という不安要素はあるが。
ならばキトセは誰の神力を受けたのか。
嫌な予感がした。
振り返って庭を見ると、歪んだ顔をしたキトセが足を引きずり気味に東屋の方へ走って行くのが見えた。片方の腕は殆ど力が入っていない様に見える。
「山吹、様子を見に行きましょう」
「…………畏まりました」
山吹の声も何処かいつもと違っている気がした。
庭に出ると、萌黄の神法が渦巻いていた。冒険者の前に蹲るキトセが見える。そしてその向こうに、神力で吊し上げられたココが苦しそうにもがいていた。
「何してるの萌黄!止めなさい!!」
慌てて駆け寄りながら、萌黄の神法に自分の神力をぶつけた。それは咄嗟の事で無意識だったが、上手く言った様だ。神力が干渉し、絡み合って溶け合い、ココから解ける。
落ちて来たココを風で受け止め抱きかかえる。
(おっ重い……)
少年なのでそれ程重い訳でもないのだろうが、如何せん自分が少女?なのである。咳込み崩れる少年を体力的に支えておけなかったので、地面に横たえて何となく膝枕した。これは下心があった訳ではない。ただちょっと、偶然そうなっただけだ。
「何してたの!?萌黄!」
「ちょっとココがおいたしたから叱ってただけ~」
「にしたって、ココは唯の人間なのよ!?神法で締めあげたりしたらどうなるか分からなかったの!?」
「だって~」
「だってじゃない!」
「トーコ様その辺で。他の者もおりますのよ?」
瑠璃からの注意が入るが、そもそもこの状況を他の精霊は止められなかったのか。
「二人が職務放棄でもした!?それとも逃げ出そうとでも!?」
「そう言うんじゃないけどぉ」
では非はどちらにあるのか。
「ちょっと貴方達、執務室へいらっしゃい」
「「「「はい」」」」「はぁ~い」
「……はい」
精霊達と間延びした紅に続いて、私の低いテンションに驚いたのかワンテンポ遅れたミィの返事に、少し冷静さを取り戻す。
「山吹、ココを連れて来て。蘇芳はキトセの補助を。乱暴にしないでよ」
「「畏まりました」」
私はガダールに捕虜とフィユカを任せ、精霊と使用人、ココ、キトセを連れて屋敷へ戻った。屋敷の玄関に差し掛かると、瑠璃に神法で一瞬で洗われた。地面に座った事に対しての抗議だろうか。
ココは山吹にお姫様抱っこされている。普段なら悶えそうなところなのに、今はモヤモヤしたものでいっぱいでそんな気にはなれなかった。
先に応接室で蘇芳に簡易ベッドを作らせ、ココを横たえる。息も絶え絶え、顔も赤いココは明らかに弱っていた。直ぐに駆け寄ったキトセがココの手を握り、大丈夫かと問い掛けている。
「ミィ、濡れタオル持って来て。ノハヤ、キトセとココの看病を頼める?」
「「はい」」
ここは二人に任せても大丈夫だろう。
執務室へ行くと、精霊が久々に全員揃った。使用人中ホノライだけ此方に呼んだのは、使用人頭のミィより実質ホノライがトップの様な事をしているからではなく、私への忠誠度の差だ。
ミィは娼館から救い出したからか私が世界の全てとでも言う様に慕っているし、ここ以外に自分の居場所がないと思っている。
ノハヤは精霊を従える私を本物の神だと思っている敬虔な信徒で、彼を拾ったホノライを教師として取り立てているのも、私を敬い神聖視するのに一役買っている様だ。
だがホノライは、ノハヤを餌に無理矢理忠誠を誓わせた。だからいくらノハヤがホノライの事を自分と同じだと言っても、私としては彼の心が二人ほど私に向いている確証は全くないのだ。ホノライは大人だから仕事として割り切ってここにいるし、他でやって行く事も出来る力がある。そんな風に見える。
それならこの機会を利用出来ないかと思ったのである。
応接室に声が聞こえない様執務室の扉をしっかりと閉め、ホノライをその傍に立たせる。精霊達が各々定位置に付くのを見計らって、私は彼等に抗議した。
「萌黄、やり過ぎよ」
「え~。僕が悪いの~?」
「そうよ。貴方達とココは違うの。勿論キトセも、彼等全員が違うの」
「でも」
「でもじゃない」
いい訳に苛ついて、思わずきつい言い方になってしまう。萌黄がそれで反省する様子は全くないのだけれど。
「ココとキトセが何かした?何であんな事したの?」
「…………」
「他の皆も。やり過ぎだとは思わなかったの?」
誰も答えない。答えないという事は、多分二人が何かした訳ではないのだ。
だんまりは嫌いだ。よりにも寄って私のココを。
「蘇芳、ココ熱かったけど、具合が悪い事は分からなかったの?朝食の準備をしなかったそうだけど、詳細は確認したの?」
「確認しておりません」
「それは分担された作業を熟せない捕虜が悪いと思いますわ」
「瑠璃は黙ってて」
精霊相手にこんなに強気に出るなんて、余程腹が立っていたに違いない。
「ココが具合が悪い事は分からなかったの?」
「存じませんでした。そもそも具合が悪いとは、どういう状態なのですか?」
自分を棚に上げておいてなんだが、まさかそう来るとは思わなかった。
そう言えば私が体調を崩したのは神法で飛んで酔って吐くとか、神力の使い過ぎで倒れた時くらいである。これは私のミスかと思うと、ドッと溜息が出た。
「人種は体温が三十七度辺りから微熱よ。計れる?私は多分三十六度台なんだけど」
「身体の温度、でございますか?トーコ様の全身の平均値を三十六とするなら、ココは三十七点八というところでしょうか」
一体何をどう計ったのか分からないが、蘇芳は直ぐにそう答えた。神の器などと訳の分からない器官が身体の中に入っているので、実際のところここでの体温が私の知識と一致するのか微妙だ。そもそも体温とはが何処の何の温度を計っているのか私は知らない。けれどまぁ数値がそれっぽいので良しとする。
「体温が高いと人種は頭が働かなくなって身体も怠くなって動けなくなるわ。もっと上がったり、反対に下がっても直ぐに光に還る弱い生き物なの。後は……咳をしていたり、身体に発疹が出たり?そう言うのが「具合が悪い」という状態よ。子供は特にそう言う状態になり易いから、具合が悪そうとか、本人やキトセから進言があればその日はココを休ませて。食事もちゃんと与えて」
「畏まりました」
それには私も入るのだろうか。この世界で成人していても、身体は明らかに子供だ。特に胸の辺りが。今のところ至って健康ではあるのだが。
「それと萌黄、ちゃんと聞いているの?何でこんな事をしたの?」
「え~何でってー…………」
視線も合わせない萌黄に、更にイライラが募っていく。
大方私がココを可愛がっていたのが気に入らないのだろう。自分が一番でないと気が済まないお子様なのだ、この精霊は。
しかし彼は子供ではない。ある程度節度を守ってもらわなければ一緒にいるのは難しい。
「答えないなら良いわ。…………契約、解除しましょうか」
萌黄が慌てて此方を向いた。
「それは駄目!ヤダ!!」
「嫌じゃないわ。私の契約下に入る事を貴方は了承した。なのに私の許容範囲を超えて好き勝手するのなら、私は貴方を側に置いておく必要なんかない」
「!!」
「可愛い悪戯程度なら何も言わないけど、おいたが過ぎるなら……」
そこまで言いかけて止めた。萌黄の神力が渦を巻いたのが分かったからだ。流石にこれは言い過ぎた。
「萌……」
「もうしない!」
ビー玉みたいな透き通った綺麗な瞳から雫が零れる。
「泣き落としは卑怯よ萌黄」
(助かった……)
卑怯と言いつつ、私はこの状況に安堵を覚える。このまま引っ込みがつかなくなって万一反撃されでもしたら、私はひとたまりもない。周りの精霊達が恐らくは私の味方でいるという神力の流れに、私は胸をなでおろす。
「じゃぁ今度こそ約束して、萌黄」
でも、これだけははっきりさせておかなければ。
今なら双方の同意さえあれば、ある程度強制力を持った「お願い」が出来ると私は思っている。それ程神力が強く混ざり合い、繋がっているからだ。勿論それには此方のリスクも伴うのだけれど。
「私の好きな人を傷つけないで」
「うん」
「捕虜もよ。私の所有物全てに対して無闇勝手な攻撃はしないで」
「うん」
「皆と仲良くしろとは言わないけど、出来る限り私の希望は汲み取って」
「……なんか、前の契約と全然違うよ?」
自業自得だと思うので萌黄のその疑問は無視する。
「後、これは必ず守って」
「……うん」
「返事は『はい』」
「………………はい」
「私が主で貴方は従。私の傘下に入っている事を決して忘れないで」
これは前に雇用契約を結んだ時とほぼ同じ条件だ。
「はい」
「私に嘘は付かないで」
「はい」
「私が不利になる状況なら故意に隠したり黙っているのも駄目」
「はい」
「毎朝の紅との交代はさせない」
「え!?」
「私が貴方が必要だと思ったら紅と交代させてあげる」
「そんな酷い!!」
潤んだ瞳で見上げても駄目だ。どんなに可愛く訴えられても、いやちょっと大分絆されそうだけれどもここは心を鬼にしなくては。どうせこの涙も十中八九計算なのだから。
「二人の同意で変わる事は許さないし、勿論私が寝ている間に勝手に入れ替わるのも許さない」
「それじゃぁ意味がないよ!」
「今返事は『はい』しか認めていないわ」
「!!」
(あ、今度はちょっと本気で泣きそう)
若干良心の呵責を感じるが、こればかりは決着をつけておきたい。
「それと」
「まだあるの!?」
「最後よ。これが最優先事項」
一旦ここで言葉を止める。こんなに私をさらけ出してしまって、大丈夫なのだろうか。精霊達は、本当にこの先も私の味方でいてくれるだろうか。
けれどここでもう引くことなんて出来ないし、これを乗り越えなければ本当に欲しいものは手に入らない。
「約束して萌黄。私を、脅かさないで」
「……………………はい」
これは私と精霊の純粋な契約。周りを固めて囲い込み、高圧的に見下ろして、神力の、力の差で以って相手を縛る一方的な約束。そこにあるのは情ではなく明確な上下関係。
「守っている内は雇用を継続するし、これ以外の事なら許容範囲を越えなければ自由にして構わない。私もそこそこの頻度では貴方に就いてもらうと誓いましょう。でももし約束を反故にしたら……」
精霊自身との契約が本当に成り立つのか、半信半疑だった時とは違う。今は判然たる意思に基づいて私は神法を行使する。太く強く、幾重にも伸ばした神力の蔦で、萌黄をがっちりと捉える。
「うっ……」
萌黄が呻いたが遠慮なんかしていられない。私は恐らく神が定めたこの世の理から外れた行為に及ぶのだ。
誰もが微動だにしなかった。精霊達は繋がった神力から、今私に手を出してはいけない事が分かる様だった。ホノライは純粋に、私に怯えていた。
「さぁ萌黄、契約よ」
神の刻印が黒く浮かび上がり、熱を持ち、私に皮膚を焼く様な痛みを与える。全身を駆け巡る神力の流れは荒れ狂い、沸騰した様に熱い。苦しい。それでも私は意識を前へ向けた。
俯く萌黄の顔を神力で無理矢理此方へ向け、視線を合わせさせる。しっかりと瞳を捉え、繋がった痛みと共に私を目に焼き付けさせる。
「この約束を反故にすれば、貴方を根源から消滅させるわ。光に還してなんかあげない。大樹へ戻る事は許さない」
また同じ事を繰り返されては堪らないから。
「返事は?萌黄」
「……はい……トーコ、様……」
精霊が呼吸をしているかは定かではないが、その様子は先程のココと大差なかった。それでも、とぎれとぎれでも、はっきりと声に出させる。神力の繋がりは一層硬くなり、穏やかな交わりではなく食い込む様に絡み付いていく。
(熱い…………痛い…………)
意識がもうろうとし始める頃、漸く神力の蔦が定着した。私と萌黄を繋いでいた部分が朽ちる様に崩れ去ると、徐々に熱もうねりも引いて行く。しかし、しっかりと私と萌黄が結び付いているという感覚は残っている。
萌黄が何度も大きく呼吸を繰り返したが、私はホノライの手前必死で平気なふりをした。
「少しはココの気持ちが分かったかしら」
これで少し安心して眠れる。そう思った。
さて、ではあちら側もフォローに行かなくては……。
長くなったので一旦切ります。残り少しですが明日にします。




